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田舎の高校生がバイクをレストアしたら、世界が少しだけ広くなった  作者: ウシオ


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第37話 帰路の西日と、加速する鼓動

防波堤の影で心地よい潮風に吹かれながら食べたおにぎりの味、そしてそこで交わした他愛のない会話の余韻を胸に、僕たちはそろそろ帰路へと就く準備を始めていた。夏の太陽はすでに頭上のピークを越え、時間の経過とともに海の表情もわずかに柔らかさを帯び始めてきている。


「じゃあ、そろそろ戻ろっか。夕方になると国道や市街地のバイパスが混み始めるかもしれないし、今のうちに動き出しておこう」


僕はヘルメットのあご紐をパチンと音を立てて留めながら、GS50のシートに跨り、キックペダルに足を掛けた。


「そうだね。あんなに最高だった海ともお別れだと思うと、ちょっとだけ名残惜しいけれど……よし、今日も最後まで機嫌よく走ってもらおうか!」


楓も自分のヤマハ・ポッケにまたがり、慣れた手つきでチョークを引き、キックペダルを力強く踏み下ろした。


カチッ、という乾いた金属音のあとに、パラパラパラと小気味よい単気筒のアイドリングが心地よく響き渡る。僕もそれに合わせてキックを踏み下ろし、少し冷めかけていたGS50のエンジンを目覚めさせた。朝の冷えた空気の中でかけたときよりも、しっかりと熱を持った今日のエンジンは、オイルが隅々まで行き渡っているせいか一段と滑らかで、心地よい振動となって足の裏やステップから全身へと伝わってくる。


往路と同じ海岸線の国道を、今度は南下する方向へと走り出す。


午前中のジリジリと照りつけるような強い日差しとは違い、太陽は少しずつ西の空へと傾き始めており、白かったアスファルトの路面や海沿いのガードレールが、どこかオレンジがかった柔らかな西日に照らし出され始めていた。この夕方前の時間帯特有の光のトーンは、走っているだけでどこか映画のワンシーンに入り込んだような、少しセンチメンタルで特別な気分にさせてくれる。


「風が、行きよりも少しだけ涼しくなってきたね!」


前を走る楓の声が、ヘルメットのシールド越しに風に乗ってクリアに聞こえてくる。


確かに、真昼の暴力的な暑さはすっかり和らぎ、ヘルメットのベンチレーションから入ってくる風には、かすかに夕方の気配を含んだ心地よい涼しさがあった。50ccの小さなエンジンは、往路のロングランで完全に調子が温まったのか、行きよりもさらに吹け上がりが良く、アクセルを開けた分だけ素直に車体を前へ押し出してくれる。キャブレターを通る混合気のバランスが絶妙なのか、アクセルワークに対するエンジンの反応が手に取るようにわかるのがたまらなく楽しい。


トコトコと軽快で力強い排気音を響かせながら、海沿いの緩やかなカーブを一つ、また一つとリズミカルにクリアしていく。


バイクに乗り始めたばかりの頃は、後ろから大きなトラックや乗用車が迫ってくるだけで緊張のあまり体がこわばり、コーナーのたびに変な汗をかいていたものだった。けれど、今ではすっかり体にその感覚が馴染み、コーナーのエイペックス(頂点)に合わせて自然に腰を落とし、車体と一体になりながらスムーズに体重を預けられるようになっていた。自分たちの身体と小さな原付が、一つのリズムで完全に同調しているような、得も言われぬ一体感がある。


しばらく走ると、見覚えのある市内の街並みや郊外の景色が、少しずつ、けれど確実に近づいてきた。

青い海と白い砂浜、果てしなく広がる水平線が広がっていた非日常の世界から、いつもの見慣れた日常の風景へと、グラデーションのように景色が切り替わっていく。その変化を寂しく思うのではなく、「僕たちにはいつでもこの相棒とあの世界に戻る手段があるんだ」という静かな自信に変えられることが、何よりも嬉しかった。


やがて、市街地手前の大きな交差点で赤信号となり、僕たちは横並びで停車した。


アスファルトの照り返しはまだ少し残っているけれど、風の中に混じる秋の気配が、夏の終わりとこれからの日常の続きを優しく告げている。


「ねえ、葵!」


ヘルメットのバイザーを少しだけ押し上げ、汗ばんだ額を拭いながら、楓が嬉しそうに声をかけてきた。


「どうしたの、楓?」

「今日のツーリングさ、本当に最高に楽しかったね! 海もきれいだったし、途中で食べたおにぎりも美味しかったし……何より、こうして無事に往復できたことがすごく自信になった!」


その満面の笑みを見たとき、僕も心の底から全く同じ気持ちだと確信した。


夏休みはまだ始まったばかりだ。今日走った唐津の海だけでなく、この小さな相棒たちと一緒なら、これからどんな未踏の景色にも、どんな長い道にも出会える気がする。信号が青へと変わり、再びアクセルを優しくひねった僕たちのGS50とポッケは、黄金色の西日に背中を押されながら、いつもの曲がり角へと軽やかに走り出していった。

いけるところまで毎日18時に更新をしたいと思ってます!

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