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田舎の高校生がバイクをレストアしたら、世界が少しだけ広くなった  作者: ウシオ


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第24話 峠を抜けて、ダム湖の風

「よし、もうすぐ峠のてっぺんだ!」

僕がヘルメット越しに声を張り上げると、先ほどよりも少しだけ車間を詰めて走るポッケから、力強いエンジンの唸りと共に「うん、がんばる!」という弾んだ返事が返ってきた。

つづら折りの急なカーブを抜けるたびに、頭上を覆ううっそうとした木々の隙間から差し込む太陽の光の角度が変わり、漂ってくる空気の匂いも少しずつ変わっていく。麓の平地をすっぽりと包み込んでいたじっとりとしたアスファルトの熱気とは違い、標高が上がるにつれて吹き抜ける風にはどこかヒリッとした冷たさが混じり、夏の太陽で火照った肌を心地よく撫でてくれた。

ローギアからセカンドへ、そしてサードへとシフトペダルをリズミカルに掻き上げる。

小さな原付のエンジンは、ここまで休むことなく回転数を上げ続けたせいで、車体を降りた後もカチカチと金属が熱を冷ますような乾いた音を立てていた。それでも、力強い単気筒の鼓動は衰えることなく、僕たちを県境へと押し上げようと最後まで唸り続けてくれる。

思い返せば、高校の自転車通学のときには、このあたりの緩やかな上り坂だけでも途中で何度も足をついてしまい、太ももをパンパンにさせながら自転車を押して歩いたものだ。あの頃の、汗まみれでただただ苦しかった自分たちに、「いつかこの道を自分たちの直した原付で、ご機嫌なエンジン音を響かせて登るんだ」と教えてやったら、きっと目を丸くして驚くだろう。車輪の代わりにエンジンが回っているというだけで、世界の広がり方がこうも変わるのかと、今更ながらに胸の奥が熱くなる。アクセルをひねるだけで前に進むということが、これほどまでに自由で、これほどまでに世界を広げてくれるなんて知らなかった。

そして――峠のてっぺんを過ぎ、緩やかな下り坂を少し進んだところで、木々の向こうにパッと視界が大きく開けた。

「わあ……っ、すごい……!」

思わず感嘆の声を漏らしながら、僕はGS50をダムの管理事務所脇にある広い駐車スペースに優しく寄せ、キルスイッチを切った。

少し遅れて隣に滑り込んできた楓も、サイドスタンドを勢いよく払うと同時にヘルメットを脱ぎ、両手で自分の口元を押さえたまま呆然と前を見つめている。

そこにあったのは、険しい山あいにひっそりと佇む大きなダム湖だった。

太陽の光を真っ正面から浴びた水面が鮮やかなエメラルドグリーンにきらめき、周囲の深い緑の山々を鏡のように美しく映し出している。湖面を渡ってきた風が、ダムの巨大なコンクリートの壁を乗り越えて一気に吹き抜け、僕たちの汗ばんだ肌をサーッと通り抜けていった。木々のざわめきと、遠くで聞こえる鳥の声以外には何も聞こえない、どこか神聖ですらある静けさがそこには満ちていた。

自転車では到底たどり着けなかった場所。誰かに車で連れてきてもらったわけでもなく、自分たちの手でエンジンオイルを替え、伸びたチェーンを張り、平日のアルバイトで汗水垂らして貯めたお金で小さなパーツを買った、そんな相棒だからこそ来られた場所に、僕たちは今、こうして自分の足で立っていた。

「すごい……あんなに遠くまで、私たち自分の力で走ってきたんだね……」

楓はポッケのシートに腰掛けたまま、風に揺れる前髪を軽く手で押さえ、うっとりとした表情で湖面を見つめていた。その大きな瞳には、きらめく水面と、どこまでも続く青い空がそのまま映り込んでいる。

吹き抜ける爽やかな風に包まれながら、ここまで峠を登りきったときの激しい心臓の鼓動が、少しずつ穏やかで心地よいリズムへと戻っていくのを感じる。

「そうだね。自転車だったら、途中で絶対にくじけて引き返してた距離だ。こうして見ると、僕たち結構遠くまで来ちゃったんだな」

僕もGS50のハンドルから手を離し、楓の隣へと歩み寄った。

二台のバイクの間に立ち、並んで静かなダム湖を眺める。

バイクのシートとシートの隙間は、相変わらず自転車一台分ほどの距離が空いていた。けれど、ここまで一緒に同じ風を受け、同じ険しい坂を登ってきたという確かな実感が、二人の間にあった見えない気恥ずかしさをそっと溶かしてくれているような気がした。

ふと、楓が自分のサイドバッグをごそごそと探り始めた。

「なんだか、お腹すごく空いちゃったね。私、朝早く起きてお弁当作ってきたんだ。ちゃんと卵焼きも焦がさずにできたんだから!」

「本当? じゃあ、さっそく食べようか。あそこの湖が見えるベンチ、ちょうどよさそうだよ」

僕たちはダム湖のほとりにある木製のベンチに腰を下ろし、昨日地元のスーパーで買った冷たいお茶と、今朝早くに楓が作ってきたお弁当の包みを丁寧に広げた。

緑の木々に囲まれた静かな水面を渡る風に吹かれながら、僕たちの少し特別な休日の旅は、最高のかたちで折り返しを迎えていた。

いけるところまで毎日18時に更新をしたいと思ってます!

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