第12話 合格発表と、アスファルトの試練
土曜日の朝。県の運転免許センターに吹き抜ける風は少し肌寒かったけれど、なぜか心地よく感じられた。
待合室の硬いプラスチックの椅子に座りながら、僕は手に持った問題集を何度もめくっては閉じる、を繰り返していた。隣に座る楓も、膝の上でぎゅっと拳を握りしめている。
「……なんか、スーパーのレジ打ちより緊張するかも」
「分かる。昨日の夜、標識の問題が夢に出てきたもん……」
試験会場に足を踏み入れ、マークシート用紙と向き合った一時間は長かった。
「見通しの悪い交差点」「二段階右折」「駐停車禁止」――図書室で何時間も頭に叩き込んだ知識を総動員してペンを走らせ、見直しを終えたときの疲労感は、バイクのタイヤ交換とはまた違う種類のどっとした重さだった。
そして、試験終了からしばらくして。
結果が貼り出される本館のロビーへと吸い込まれ、僕たちは合格者一覧の用紙に自分の番号を見つけた。
「……受かった……!」
「やったあぁ……! よかったぁぁ……!」
思わず二人で小さく飛び跳ねてハイタッチをする。
マークシートの海を泳ぎ切り、筆記試験の関門をまずは突破した。
だが、原付の免許を手に入れるには、もう一つの重要なステップが残っていた。
それが、合格者のために午後から行われる「原付講習(技能講習)」だ。
午後の日差しが照りつける試験場のコース。
僕たちは貸出用のヘルメットを被り、見慣れない実技用のスクーターに跨っていた。古屋の裏の農道で自己流で走ったのとはわけが違う。
「はい、発進時の後方確認! そしてウインカーのタイミング遅れないように!」
指導員の鋭い声が、トランシーバーやスピーカーから飛んでくる。
白線できっちり区切られたスラローム、急な停止線でのフルブレーキ、そして不格好になりながらもこなす二段階右折のシュミレーション。
隣を見ると、楓は真剣な顔つきでミラーを確認し、几帳面にウインカーを操作してコースをクリアしていく。僕も負けじとアクセルを開け、教わった通りの手順を頭の中で必死に反芻した。
ただエンジンをかけて走るのとは違う。「公道を走る責任」を体で叩き込まれるような、緊張感のある数時間だった。
すべての実技メニューを終え、ヘルメットを脱いだときには、額にうっすらと汗が滲んでいた。
けれど、その手には無事に「原付講習修了証明書」が握られている。
手続きを済ませ、交付されたばかりの真新しい原動機付自転車免許証を財布のポケットにしまい込む。
写真に写る自分の顔は少しこわばっていたけれど、その目はどこか誇らしげだった。
「お疲れ様、葵!」
免許センターの出口で、楓がパッと満面の笑みを向けた。
「ああ、疲れた……けど、これで本当に僕たち、公道を走れるんだな」
エンジンを直し、足回りを整え、そして法律の壁も、実技の試練も越えた。
僕たちの物語は、いよいよ本当の意味で、アスファルトの上へと走り出そうとしていた。




