第11話 ペーパーの山と、午後の教室
「……ねえ、これ本当に受かるのかな」
放課後の図書室。窓から差し込む夕日が、山のように積み上げられた問題集の束をオレンジ色に染めていた。
GS50は親戚の古いお下がり、ポッケは楓の父親が昔に乗っていたもの。だから、公道に戻すための書類関係はちゃんと揃っている。後は市役所に届け出をして、ナンバーを交付してもらうだけ。バイクを走らせるための「法的なくすぶり」はもうない。
――あとは、僕たちが免許を取るだけだ。いくら車体が完璧に仕上がっても、運転免許がなければただの置物になってしまう。
僕たちの通う高校はアルバイトこそ認められているものの、校則自体はそこそこ堅い。もちろん、免許の取得には保護者の同意や手続きが必要だし、何よりあのマークシート式の本試験を一発でクリアしなければならない。
「大丈夫だって。ほら、見てこの模擬試験の問題。『見通しの悪い交差点では、徐行しなければならない』……常識で考えればマルでしょ」
楓はそう言って自信満々にペンを走らせるけれど、その隣で僕は「ひっかけ問題」の多さに頭を抱えていた。
『停止表示板を置くときは……』「うわ、これって原付にも関係あるのか?」
「あー、そこ引っかかるとこ! 原付免許でも道路交通法の基本は同じだからさ。それに、私たちにはちゃんとした理由があるんだから」
楓が小さく笑って、自分のノートの端に描いた小さなバイクのイラストを指さした。
「理由って?」
「――古屋の奥で、私たちを待ってる相棒を、ちゃんとナンバーをつけて公道に連れ出すため、でしょ?」
その言葉に、胸の奥がふっと軽くなるような気がした。
スーパーでの品出しバイトで稼いでいるお金は、いつかの中型免許のためだけじゃない。今度の原付の受験料や自賠責保険、そしてヘルメットの代金にも消えていく。汗を流して働いたお金が、こうして現実のステップへと形を変えていくのだ。
「……だな。落ちたらカッコ悪いし、一発で受かって親父さんを驚かせてやろうか」
「うん! 土曜日の朝、二人揃って合格して、次は佐々木モータースに自走して見せに行こうよ」
問題集のページをめくる音が、夕暮れの静かな図書室にパラパラと響く。
バイクの整備という「機械の壁」を越えた僕たちは今、法律とペーパーテストという「大人の壁」に向かって、それぞれの鉛筆を走らせていた。
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