第06話「地上界テラアース」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の続編です。
前作はこちら
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光の輪を通り抜け、ノクスたちはその中から地上世界へと転移した。
「ふぅ、転移完了っと」
軽く息を吐き、目の前に広がる青々とした大地を見渡す。どこまでも続く草原は、以前訪れた時と変わらずのどかで穏やかな景色だった。
「ノクス様~! ライガく~ん!」
その時、森の中から少年の声が聞こえてきた。
「エルト君! 白い塔の一件以来ですね」
「よぅ、エルト!」
駆け寄ってきたのは≪錬金術師≫の≪適性≫を持つ少年、エルトだった。
彼は白い塔と呼ばれる施設で異形の正体に迫った際、ノクス達を手助けしてくれた地上界の住人だ。
「おぅ、ライガ! 待ってたぜ!」
続いて、エルトと共に居た少年が声を掛けてくる。
「よっ! ルグナスも相変わらず元気そうだな!」
ルグナスと呼ばれた少年は、以前にライガとレオンが休日を利用してテラアースに出向いた際に出会ったとのことだった。
「こんにちは、あなたがルグナス君ですね? ライガがお世話になったそうで」
「お、アンタが噂のライガのご主人様か。初めましてだな! 俺はルグナス。エルトの嫁だ!」
「おや、そうなんですか? エルト君との手紙では、幼馴染としか書いてませんでしたねぇ」
「そうなのです! ただの幼馴染なのですっ! それなのに、街中に言いふらすから……」
慌てて訂正するエルトを尻目に、ルグナスは自慢げに語り出す。
「な~に言ってんだ! もう同棲してるし、毎晩あんなに激しく俺の体を……」
「わぁああっ!! それ以上は言わなくて良いのですっ」
二人の馴れ初めには興味があるものの、ノクスは話を進めることにした。
「えーっと、それで? 僕らに要件と言うのは?」
「あ、はいなのです! 早速ですが、見て欲しい物があるのです。案内しますです」
◆◇◆◇
案内された先は、街から少し離れた森の奥の開けた場所。人の気配もなく、木々が風に揺れる音と小鳥のさえずりしか聞こえてこない。
「この辺りなのです。あそこ、見てくださいです」
エルトが指差した先には、魔物の死骸があちこちに散乱していた。
「あれは……。魔物の死骸ですね」
「あら、何かしらぁ? これって何だか……」
ノクスと共に死骸を観察していたグリオールは、その違和感に気付いたようだった。
「はいなのです。この子たちは比較的大人しいタイプの種族なのです。でも、皆あちこち岩に頭をぶつけたり木に突進したりしているのです」
「つまり、これらはお互いに争った訳ではなく、全て自死ということですね」
そのやり取りに、ライガが困惑気味に眉をひそめた。
「なぁ、何だよ! これの何がおかしいんだ??」
ライガの問いにルグナスが答える。
「魔物ってのは、人と違って自害なんてしねーんだよ」
「……え? でも、こいつら実際に死んでるぞ?」
エルトが続ける。
「そうなのです。魔物は本能のまま生きているのです。つまり、人のように悩んだり、絶望して死を選んだりすることはありえないのです」
「確かに妙ですね。未知の病原菌に感染して、錯乱したとか…?」
「あ、それについてはノクス様に報告する前に僕のほうでもある程度調べたのです。成分を『分解』して『解析』するのも≪錬金術師≫の得意技なのです」
「なるほど、それでも何も分からなかったから、僕らに調査を依頼したということですか」
「はいなのです。未知の病原菌による錯乱や、寄生生物による影響なども調べましたが、何も検査結果が出ないのです」
場の空気が徐々に重くなる。ノクスが腕を組み、思案顔を浮かべた。
「ふぅむ……。ますます妙な話ですね。グリオールはどう思います?」
「それって、アタシの『立場』からの見解ってことぉ? そうねぇ、この子達の魂が残ってればもう少し詳しく分かったかもだけど。時間が経ち過ぎてるわねぇ」
ノクスのいう『立場』とは、もちろん冥王としてのものだ。しかし、地上人であるエルトやルグナスの前でそれを口にするわけにはいかない。
「ん? んん~……??」
ライガがいくつかの死骸を見ながら眉をひそめ、エルトに声をかけた。
「なぁ、エルト。こいつらって自分で自分を傷つけたんだよな?」
「はい、そうなのです」
「でも、何かそれぞれ傷の付き方が違ってねぇか? ほら、あっちのは頭潰れてっけど、こっちの人型は足や腕が折れてる」
その指摘に、エルトはハッとした様子で、片手で輪を作り、右目に当てながら『解析』と叫んでモンスターを見つめた。
「た、確かにそうなのです。モンスターの型の種類によって外傷に違いがあるのです!」
それはまるで顕微鏡で検分しているような仕草だ。
手で作った輪っかを通して何かが見えているのか、額に汗をにじませて驚愕している。
「なぁ、それって単に種族の違いによるものじゃねーか?」
ルグナスの意見に、エルトは真剣な表情で答える。
「いえ、明らかに人間に近い型になるにつれ外傷に違いがあるのです。まるで、何かに操られたかのような……」
エルトは次々と他のモンスターにも輪っかを通して観察していく。
「でも、催眠術の類じゃないんでしょぉ?」
「そのはずです。でも確かに不可解なのです」
ライガがふと、苦い顔で口を開く。
「何かそれって、俺がノクスに操られて人形劇させられてる時みたいだよな」
「……え? 人形劇??」
「おう。俺、毎日ノクスに操られて遊ばれてっからな。この前は裸にさせられてポールダンスを――……」
「うわわわぁ!! こんなとこで僕の趣味をさらさないでください!!」
「あら、ちょっと待って? 劇云々はともかく、魂力でモンスターを操ってるって可能性はあるんじゃない?」
その言葉に、ノクスが息を呑んだ。
「確かに、魂そのものに干渉すれば対象の意識や本能を操れますね。通常は高度な制御と莫大な魂力が必要です。だとしたら――」
「ええっと、それってヤバいってことか?」
ルグナスはノクスの言葉にいまいちピンときていないようだ。
「ええ。僕ら天人でさえ、こうして自分とリンクしている受肉人形を操るだけでもやっとなんです。もし誰かが、意思を持って手あたり次第魔物を動かせるとすれば……単なる事件じゃ済まされません」
エルトが、不安げな顔で尋ねてきた。
「でも……ノクス様。だったら、犯人は一体……?」
「それを探るのが、僕たちの仕事です」
「あの、ノクス様。宜しいでしょうか」
そこへ、レオンが一歩前に出て口を開いた。
「死骸の検証は済んでいるとのことなので、彼らを埋葬してやろうと思います。どのみちこのままでは、腐敗臭が周囲に悪影響を及ぼすので」
「そうですね。お願いできますか?」
「了解。ルグナス様、地面を掘る物をお借りできますか?」
「おう、それなら近くに畑仕事用の作業場があるぜ。道具ならそこで……」
――その時だった。
グリオールが何かを察したように、眉をひそめた。
「あら? 今、何か気配が……? これは……」
その刹那、レオンの近くで死んでいたと思っていた人型の魔物が、まるで糸に操られているかのような奇妙な動きで起き上がった。
「……! に、兄ちゃん! ソイツから離れろ!」
「……!??」
「ギシャァアアア!!!」
魔物はレオンに向かって襲い掛かる。
「レオン君!!」
―――ズバッ!!
風を切る音と共に、銀色の閃光が走る。モンスターの動きが止まり、次の瞬間には、地面に崩れ落ちていた。
レオンが足に装着していたホルダーからナイフを抜き出し、まるで居合切りのように振り向きざまにモンスターを切りつけていたのだった。
「はわわわわ……!?」
「び……ビビったぁ……!」
腰が抜けたのかその場で尻もちをつくエルトを、ルグナスは庇うように抱き着いていた。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
一瞬の出来事だったが、レオンは至って冷静だった。
それは彼のこれまでの守護者として何度も異形達と渡り合ってきた経験によるものなのだろう。
「さ、さすがレオン君。突発的な事態にも対応できるなんて……!」
「おい! 俺だってちゃんとやれるぞ!!」
レオンに賛辞を贈るノクスに、ライガは口を挟む。
「君の事は何も言ってないでしょ? 何だか今日はやたら突っかかってきますね」
「ちっ! 別に――……」
ズズ……ズズズズ……!
その時、ノクスの目に映ったのは、倒れたモンスターの体から滲み出すように溢れ始めた黒い霧。いや、それは――『影』だった。
(な、なんだ……!?)
一瞬、不可解な現象に目を見開いて言葉を失う。
それは煙のように揺らめきながら、ゆっくりと地を這い、しかし迷いなく――レオンの足元へと近づいていくのが見えた。
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