第03話「紅茶と疑念と」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の続編です。
前作はこちら
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「こんにちは~? みんなのアイドル、グリオールちゃんよ~ん!」
突然勢いよく家のドアが開き、開口一番に腰をくねらせてポーズを取るオネェ口調の大柄な男性の姿が現れた。
「うわっ!? ……グリオール。ノックくらいしてくださいよ」
グリオール・ライアス。
同じ天人で、ノクスの仕事仲間でもあり、親友でもある。
「失礼いたします。ノクス様」
続いて、その後ろから容姿の整った青年が姿を現す。
グリオールの守護者・レオンだ。
「遅れてごめんなさいねぇ~! 髪をセットしてたら時間掛かっちゃ……」
と、部屋の様子を見て、グリオールは言葉を詰まらせる。
「ん? どうしました? グリオール」
「……ライガちゃん、どしたの? やけにご機嫌斜めみたいねぇ」
「気にしないでください。いつもの我儘です」
グリオールの視線の先には、ソファで不貞腐れているライガの姿があった。
「……ライガ、大丈夫か?」
「別に……、ノクスと喧嘩しただけ」
すかさずレオンがライガに声を掛ける。
端から見ると兄弟のようで微笑ましい光景だ。
「……そうか。だが、こういうのは早めに謝ったほうが良いぞ?」
「良くねぇ。アイツ、大っ嫌いだ!」
二人がそんな会話をしている中、グリオールが声を掛けてきた。
「ちょ~っと! 二人してご主人様ほったらかして何してんの! ほら、お茶淹れてちょうだいな」
「……了解。ノクス様、キッチンをお借りします。ライガ、後は俺が引き受けるから、お前は休憩しておくといい」
レオンにとって、主人であるグリオールの命令は何においても優先される。
ノクスに会釈すると、キッチンに向かって歩き出した。
「あ、レオン兄ちゃん。ちょっと待ってくれ!」
キッチンに向かおうとするレオンの背に、ライガが声を掛けた。
「あの、さ。邪魔しないから、後ろで見てて良いか?」
「……? ああ、構わない」
突然の提案に少し驚いた表情を見せるレオンだったが、一緒にキッチンに連れていった。
◆◇◆◇
「それで? この山のような書類はなぁに? 嘆願書に要望書、意見書まであるじゃない」
テーブルに積まれた書類の束に目を通しながら、グリオールが眉をひそめる。
レオンたちがキッチンで茶の準備を進める横で、ノクスは苦笑交じりに答えた。
「ええ。これらは全て、受肉人形たちに対する処分を求める文書です。最近、彼らへの風当たりが強くて」
「……ああ、人形不要論ってやつ? 騒いでる連中、多くなってきたわねぇ」
グリオールは呆れたように肩をすくめ、書類を一枚ひらひらと持ち上げる。
「受肉人形は強大な力を有した存在ですからね。これまでは異形の侵攻に備えるという名目で黙認されてきましたけど、元々、危険視する声はありました。それが……」
ノクスは深く息を吐いた。
「前回の一件で、異形の脅威が消えたと分かった途端に、反対派が勢いづいたというわけです。何か、彼ら受肉人形達を社会的に守る対策を考えないと」
「ああ、従順だったはずの受肉人形達が、ジルミスのジジイのせいで、一斉に反旗を翻して主人を襲った件ね。そりゃあトラウマにもなるわよねぇ? 今じゃ彼らを『守護者』って呼ぶ者も少なくなってきたし」
グリオールの口調は軽いが、呆れた表情だった。
思い出すのはあの『来たるべき日』――大聖堂の前で異形の瘴気に当てられて狂った守護者たちが、主である天人たちを次々に襲い始めた。
それはジルミス・ハーディという老人の考えた大量の魂力を独占せんが為の用意周到な計画だったのだ。
「あのジジイ、本当にロクなことしないわねぇ。こんな形で禍根を残すなんて」
「ジルミス……」
言いながら、ノクスは眉を寄せて考え込む。
「あら、何か気になることでもあるのぉ?」
グリオールが怪訝そうに尋ねる。
「いえ、その。彼の『本当の目的』って、何だったのかなと」
「目的ぃ? 確か異世界人たちの魂力を独占して、アルフレイルを支配する王になる……とか言ってたんでしょ? レオンから聞いたわよ」
「それが妙で……あんな用意周到な計画だった割に、最終目的が稚拙すぎる気がするんです」
書類を一枚手に取り、ノクスは疲れたように言った。
「それって、別の目的があったんじゃないかってこと?」
グリオールが目を細める。
「そこまでは断言できません。ただ、あの時彼が“解放の儀”を利用して消滅していく受肉人形達の魂力を集めようとしていたのは事実です」
ノクスはまだ何かが引っかかるようだった。
深くソファにもたれ、目を伏せる。
「そして、最終的には……彼は自滅しました」
「そうそう。まさか、あれだけ彼らを馬鹿にしていた自分自身が“受肉人形”だったってオチね。そんなの、解放の儀で魂が剥がれ落ちるに決まってるわよねぇ」
グリオールはおかしそうに笑ったが、ノクスの表情は曇ったままだった。
「……………」
「ノクス? どうしたのぉ?」
「……あの時、ジルミスの魂が剥がれていく様子。僕は鮮明に覚えています」
「? それがどうしたの?」
ノクスは、ゆっくりと頷く。
「彼の体から……黒煙が立ち上っていたんです」
「黒煙……?」
「通常、受肉人形が消滅する時は白煙が上がるはずです。その証拠に、中央大聖堂に集まっていた他の守護者たちが解放の儀で消えていく際、白煙が上がっていたのを、スクリーン越しに目撃しました」
言いながら、ノクスの視線は天井を彷徨う。
「でも、ジルミスだけは違った。明らかに黒い煙が立ち上っていました。それも、まるで意志があるような動きで」
言葉の端々に、不気味なものを思い出してしまったような緊張が走る。
「気のせいじゃないの? それに今更あーだこーだ言っても仕方ないじゃない」
しかし、グリオールはおどけるように続ける。
「久しぶりの優雅な時間なんだから、そういう不穏な話はナシにしましょ? ほら、そろそろお茶の支度が出来る頃合いだわ」
その言葉通り、キッチンからレオンの淹れた紅茶の良い香りが漂ってくる。
「……そう、ですね。もしかしたら、単に異世界人の魂力を溜め込みすぎた影響だったのかもしれません」
ノクスも紅茶には目が無い。
ようやく口元に微笑みを戻し、書類を片付け始めた。
「さて、レオン君の淹れてくれたお茶、堪能させて頂きましょうか」
ノクスは嫌な予感を感じつつも、気にし過ぎだと自分に言い聞かせるように軽く頭を振り、
視線を紅茶の香りに向けた。
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