第02話「ライガの欲しい物」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の続編です。
前作はこちら
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ライガはティーポットからお茶をカップに注ぎ、ぶっきらぼうにノクスに突き出した。
「……ほらよ。淹れてやったぞ」
「熱っ! そんな乱暴に差し出したら危ないでしょうが!」
思わず身を引きつつも、ノクスは紅茶好きとしてしっかり受け取る。
だが、ひとくち飲んだ瞬間、顔をしかめた。
「うぐっ……!? 酷い味だ! 一体どんな淹れ方したらここまでまずくなるんですか!!」
「んぁ? 飲めりゃ十分だろ?」
主人の苦言もどこ吹く風といった態度でソファにどかっと座る。
ノクスは小さくため息をつきながら、ちらりとライガの胸元に視線を落とす。
はだけた服の隙間から、日焼けした肌としっかりした胸筋が覗いていて……思わず笑みが漏れる。
「……まったく、君は本当に自分の立場をわかってないんですから」
「んだよ、また説教か?」
「君は僕が召喚した『受肉人形』ですよ? 異形から天人を守る守護者。そして何より、主人に仕える存在なんです」
「異形ってのも、もう出てこねぇし……正直、お役御免じゃね~の~?」
あっけらかんとした口調で、ソファに寝転がるライガ。
「……っう!? な、なんだ……? 頭が、ボーッとし……て……」
次の瞬間、ライガは目が虚ろになりガクリとうなだれた。どうやら意識が遠いたようだ。
むくりとソファから起き上がると、ノクスの膝に跨って抱きつき、唇に軽くキスをした。
『ご主人様、ライガのお勉強の時間です。ご主人様、ライガのお勉強の時間です』
「おっと、もうこんな時間ですか、さすが僕の人形、体内時計がしっかりしてますねぇ」
「……はっ! あれ、俺何して……って、体動かねぇ!!!」
「ふふ、セットした時間が来たら、一定の行動をするように仕込んでおきました」
「……ぐぬぬぬぅ~!!!」
ライガは必死にもがこうとするが、体は言う事を聞かないらしい。
抱き着いたまま、悔しそうに睨んでいた。
「さ、お勉強の時間ですよ。さて、今日はどうしましょう」
満足げにライガの頭を撫でながら、少し「う~ん……」と唸る。
「では、問題です。君の体は何で動いていますか?」
「……んぁ? そんなの……えっと、ノクスの魂力だろ?」
「正解。体内の魂力が足りなくなると、受肉人形は動けなくなります。では、『魂力』とは?」
「ええと、死んだ地上人の魂を、中央大聖堂の浄化装置で洗濯したら出てくる……なんか、キラキラしたやつ?」
「……宜しい。では、指輪以外で君に魂力を注ぐ方法は?」
「え……っ、ええっと……?」
口ごもるライガ。ノクスはふと思いつき、残った紅茶を口に含み、そのままライガの唇にキスで流し込んだ。
「んむっ!? ~~~!!?」
唐突な口移しに、ライガは真っ赤になって暴れる。
「このように、こうして口づけでも、主人の魂力を供給できるわけです。分かりました?」
「うげっ……! 何だこの味……!?」
「君が淹れた紅茶です。ほら、飲めりゃ良いんでしょ? 分からないならもっと口移しで飲ませてあげましょうか?」
「……くそっ、分かったよっ!」
そっぽを向きつつも、ライガは耳まで赤くなっている。
ノクスはふんわりと微笑んで、その頭を撫でる。
「ふふ、ライガは素直で良い子ですね」
「誰が!!」
やっと解放されたライガはクッションを抱えてソファに転がる。
「そうだ……ご褒美、あげましょうか?」
「ご褒美?」
顔をあげたライガの目がキラリと光る。
「美味しい紅茶が淹れられるようになったら、何か欲しい物を一つあげましょう。食べ物でも、服でも、何でも」
ノクスがそう約束すると、ライガは天井をじっと見上げ、しばし考え込む。
ぼんやりした視線の奥で、何かを探すように思考を巡らせていた。
やがて、ハッと何かを閃いたように身を起こし、勢いよく言い放った。
「じゃあ俺、犬が欲しい!! でっかい大型犬!!」
「い、犬……!?」
ノクスは目を丸くして固まった。
「そう! この前散歩させてた奴見たんだ! 超カッコよかった! 俺も飼いたい!!」
無邪気に目を輝かせるライガに対し、ノクスはきっぱり首を横に振る。
「……無理です」
「なんでだよ!」
ライガがソファから勢いよく身を起こす。
「僕、犬アレルギーなんです!!」
ノクスの声が一段高くなる。切実な訴えに、部屋の空気が一瞬張り詰めた。
「じゃあ俺の部屋で飼う!」
ライガはすぐさま反論するように、自分の部屋の方向を指差す。
「無理だっつってんでしょーが! 大体、ペットの世話がどれだけ大変だと思ってるんですか!」
「い~や~だ! ぜってぇ飼う!! 犬欲しい!! 俺よりデカイ犬!!」
ライガは目を輝かせながら必死に訴える。
「無理です!! 絶対ダメ!!」
二人の怒声が応酬し、部屋の空気は一瞬にして騒がしくなる。
「じゃあ、今すぐアレルギー治せ! お前政務官なんだろ!?」
「政務官にそんな能力あるわけないでしょう!!」
ついに議論が行き詰まると、ライガはソファにバタンと寝転がり、両足をバタバタとさせる。
「チッ……ケチ!!」
「……ほんと、勢いだけで生きてますね、君は……」
「どうせなら雄が良いなぁ……」
「はいはい、『大きくてカッコイイ』からでしょ?」
「それもあるけど雄はほら……付いてるしな!!」
「……ッ!? はぁ、全くライガはお子ちゃまですねぇ? 男の子ってのは、どうしてこう下ネタが好きなんでしょう」
「……いや、お前もさっき俺ので遊んでたよな?」
「うぐぅっ……!!?」
ライガの鋭いツッコミが、ノクスの胸を抉る。
「あ、あれはその……!」
「ほらな。お前もやっぱ好きなんじゃん」
「ぐっはぁああっ!!?」
ノクスは耳まで真っ赤になって、机に突っ伏したまま絶叫。
「……もう、ホントに……どうして君は、そういう方向に話を持っていくんですか!!」
「デカい犬……欲しいなぁ~……」
ソファの上でうだうだ転がりながら、ライガはまた枕に顔を埋め、ふて腐れモードに逆戻り。
なおも恨めしそうにノクスをチラチラと睨んでいる。
「……いい加減、諦めてください!!」
――今日も賑やかで、どこか騒がしい、そんな午後だった。
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