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イレギュラー・マリオネット 2 - Echoes of the Phantom -  作者: 流右京


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第02話「ライガの欲しい物」

「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の続編です。

前作はこちら

https://ncode.syosetu.com/n9755kt/

ライガはティーポットからお茶をカップに注ぎ、ぶっきらぼうにノクスに突き出した。


「……ほらよ。淹れてやったぞ」


「熱っ! そんな乱暴に差し出したら危ないでしょうが!」


思わず身を引きつつも、ノクスは紅茶好きとしてしっかり受け取る。

だが、ひとくち飲んだ瞬間、顔をしかめた。


「うぐっ……!? 酷い味だ! 一体どんな淹れ方したらここまでまずくなるんですか!!」


「んぁ? 飲めりゃ十分だろ?」


主人の苦言もどこ吹く風といった態度でソファにどかっと座る。


ノクスは小さくため息をつきながら、ちらりとライガの胸元に視線を落とす。

はだけた服の隙間から、日焼けした肌としっかりした胸筋が覗いていて……思わず笑みが漏れる。


「……まったく、君は本当に自分の立場をわかってないんですから」


「んだよ、また説教か?」


「君は僕が召喚した『受肉人形』ですよ? 異形から天人を守る守護者。そして何より、主人に仕える存在なんです」


「異形ってのも、もう出てこねぇし……正直、お役御免じゃね~の~?」


あっけらかんとした口調で、ソファに寝転がるライガ。


「……っう!? な、なんだ……? 頭が、ボーッとし……て……」


次の瞬間、ライガは目が虚ろになりガクリとうなだれた。どうやら意識が遠いたようだ。

むくりとソファから起き上がると、ノクスの膝に跨って抱きつき、唇に軽くキスをした。


『ご主人様、ライガのお勉強の時間です。ご主人様、ライガのお勉強の時間です』


「おっと、もうこんな時間ですか、さすが僕の人形、体内時計がしっかりしてますねぇ」


「……はっ! あれ、俺何して……って、体動かねぇ!!!」


「ふふ、セットした時間が来たら、一定の行動をするように仕込んでおきました」


「……ぐぬぬぬぅ~!!!」


ライガは必死にもがこうとするが、体は言う事を聞かないらしい。

抱き着いたまま、悔しそうに睨んでいた。


「さ、お勉強の時間ですよ。さて、今日はどうしましょう」


満足げにライガの頭を撫でながら、少し「う~ん……」と唸る。


「では、問題です。君の体は何で動いていますか?」


「……んぁ? そんなの……えっと、ノクスの魂力だろ?」


「正解。体内の魂力が足りなくなると、受肉人形は動けなくなります。では、『魂力』とは?」


「ええと、死んだ地上人の魂を、中央大聖堂の浄化装置で洗濯したら出てくる……なんか、キラキラしたやつ?」


「……宜しい。では、指輪以外で君に魂力を注ぐ方法は?」


「え……っ、ええっと……?」


口ごもるライガ。ノクスはふと思いつき、残った紅茶を口に含み、そのままライガの唇にキスで流し込んだ。


「んむっ!? ~~~!!?」


唐突な口移しに、ライガは真っ赤になって暴れる。


「このように、こうして口づけでも、主人の魂力を供給できるわけです。分かりました?」


「うげっ……! 何だこの味……!?」


「君が淹れた紅茶です。ほら、飲めりゃ良いんでしょ? 分からないならもっと口移しで飲ませてあげましょうか?」


「……くそっ、分かったよっ!」


そっぽを向きつつも、ライガは耳まで赤くなっている。


ノクスはふんわりと微笑んで、その頭を撫でる。


「ふふ、ライガは素直で良い子ですね」


「誰が!!」


やっと解放されたライガはクッションを抱えてソファに転がる。


「そうだ……ご褒美、あげましょうか?」


「ご褒美?」


顔をあげたライガの目がキラリと光る。


「美味しい紅茶が淹れられるようになったら、何か欲しい物を一つあげましょう。食べ物でも、服でも、何でも」


ノクスがそう約束すると、ライガは天井をじっと見上げ、しばし考え込む。

ぼんやりした視線の奥で、何かを探すように思考を巡らせていた。


やがて、ハッと何かを閃いたように身を起こし、勢いよく言い放った。


「じゃあ俺、犬が欲しい!! でっかい大型犬!!」


「い、犬……!?」


ノクスは目を丸くして固まった。


「そう! この前散歩させてた奴見たんだ! 超カッコよかった! 俺も飼いたい!!」


無邪気に目を輝かせるライガに対し、ノクスはきっぱり首を横に振る。


「……無理です」


「なんでだよ!」


ライガがソファから勢いよく身を起こす。


「僕、犬アレルギーなんです!!」


ノクスの声が一段高くなる。切実な訴えに、部屋の空気が一瞬張り詰めた。


「じゃあ俺の部屋で飼う!」


ライガはすぐさま反論するように、自分の部屋の方向を指差す。


「無理だっつってんでしょーが! 大体、ペットの世話がどれだけ大変だと思ってるんですか!」


「い~や~だ! ぜってぇ飼う!! 犬欲しい!! 俺よりデカイ犬!!」


ライガは目を輝かせながら必死に訴える。


「無理です!! 絶対ダメ!!」


二人の怒声が応酬し、部屋の空気は一瞬にして騒がしくなる。


「じゃあ、今すぐアレルギー治せ! お前政務官なんだろ!?」


「政務官にそんな能力あるわけないでしょう!!」


ついに議論が行き詰まると、ライガはソファにバタンと寝転がり、両足をバタバタとさせる。


「チッ……ケチ!!」


「……ほんと、勢いだけで生きてますね、君は……」


「どうせなら雄が良いなぁ……」


「はいはい、『大きくてカッコイイ』からでしょ?」


「それもあるけど雄はほら……付いてるしな!!」


「……ッ!? はぁ、全くライガはお子ちゃまですねぇ? 男の子ってのは、どうしてこう下ネタが好きなんでしょう」


「……いや、お前もさっき俺ので遊んでたよな?」


「うぐぅっ……!!?」


ライガの鋭いツッコミが、ノクスの胸を抉る。


「あ、あれはその……!」


「ほらな。お前もやっぱ好きなんじゃん」


「ぐっはぁああっ!!?」


ノクスは耳まで真っ赤になって、机に突っ伏したまま絶叫。


「……もう、ホントに……どうして君は、そういう方向に話を持っていくんですか!!」


「デカい犬……欲しいなぁ~……」


ソファの上でうだうだ転がりながら、ライガはまた枕に顔を埋め、ふて腐れモードに逆戻り。

なおも恨めしそうにノクスをチラチラと睨んでいる。


「……いい加減、諦めてください!!」


――今日も賑やかで、どこか騒がしい、そんな午後だった。

Copyright(C)2026-流右京

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