表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/10

第5話 新たな一歩

私は今──大人数に囲まれています……。


「ねぇ、どうやったのあの魔法!!」


「俺にも魔法教えてくれよ!!」


「どうやってあの巨体を剣で切れるんだ? 教えてくれ!!」


「私にも色々教えてよ~!」


クラスメイトたちから一斉に質問が飛んでくる。

一人が聞いたと思えば、すぐに別の誰かが口を開く。

とてもじゃないけど、一人で答えられる量じゃない。


た、助けて~……。


さっきまで「見つからないようにしよう」って隠れてたのに、なんでこうなったの……。


「みんな、一旦落ち着いて!!」


結花が私の前へ一歩踏み出し、みんなを制するように声を張り上げた。


「この子困ってるよ!

急にみんなで質問攻めはよくないよ!!」


その一言で、騒いでいたみんなが気まずそうに口を閉じる。


「ご、ごめん……」


「悪かった」


謝る声があちこちから聞こえる。

その時、一人の男子がニヤッと笑って言った。


「さすが結花ママ」


「なっ!?」


その一言に周りから笑いが漏れる。


「ははっ、それは言いすぎ。」


重苦しかった空気が、少しだけ和らいだ。

隠れて見守るよりも、こうやってみんなと一緒に行動している方がいいのかもしれない。


「あはは……ごめんね。そういえば、まだ自己紹介してなかったね」


……待って。


名前、どうしよう。


一瞬、思考が止まる。


前の体――蓮としての名前を名乗るべきか。

それとも、今の私の姿である『アニス』を名乗るべきか。

もし「蓮」と名乗れば、結花に気づかれるかもしれない。

でも、この姿で「蓮」と言っても信じてもらえるとは思えない。

なら、『アニス』として名乗るしかないのか。


どうしよう……。


「ん? ……どうかしたの?」


「ううん、何でもないよ!」


考えていても仕方ない。

今は、この姿で生きていくしかない。

だったら――アニスとして過ごそう。


それしかない。


「私はアニス。よろしくね」


そう自己紹介すると、結花が笑顔で私の前へ歩み寄り、そっと手を差し出した。


「私は甘崎結花って言います! さっきは助けてくれて、本当にありがとうございました!

よかったら、結花って呼んでくださいね!」


「うん、よろしくね。結花」


そう言って結花の手を握り返す。


「あっ、そうだ!」


結花は何かを思いついたように声を上げた。


「せっかくだし、みんなも自己紹介しない?

名前も分からないままじゃ話しにくいし!」


「たしかに!」


「名前が分からないままじゃ大変だもんね!」


そう言って、一人の男子が前に出る。


「俺は神谷悠真! よろしく!」


にかっと笑いながら元気よく手を挙げる。


「わぁ、元気な人だ……」


思わずそんな感想が口をついて出た。


「私は佐々木凛だよ! 結花の親友やってます! よろしくね!」


凛はそう言うと、結花の後ろへ回り込み、ぎゅっと抱きついた。


「ちょ、凛ちゃん!」


「えへへ~」


二人のやり取りを見ていると、自然と笑みがこぼれる。

こんな状況なのに、いつも通り笑い合える関係なんだ。


少しだけ、羨ましいと思った。


その後も、一人、また一人と自己紹介が続いていく。


緊張しながら名前を名乗る人。

照れくさそうに頭をかく人。

短く名前だけを告げる人。


それぞれ違う自己紹介を聞いているうちに、少しずつクラス全員の雰囲気が分かってきた。




気付けば、クラス全員の自己紹介が終わっていた。


私は周囲を見渡す。


すると、近くにはゲームで見覚えのある装備を身に着けた人たちが集まっていた。


……やっぱり、あの人たちもゲームキャラになった人たちなのかも。


少し気になった私は、その人たちのもとへ歩み寄った。


「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」


「ん? あぁ、どうした?」


「君たちって……もしかして『アナセル』をやってた人たちなの?」


私は少し緊張しながら、その返事を待った。


「もしかして、アニスさんも!?」


「うん、そうだよ。でも、このことは今は他のみんなには言わないでほしいな」


「どうして?」


本当のことなんて言えるはずがない。


私は本当は蓮だ。

でも、この姿で「蓮です」と言っても信じてもらえるとは思えない。

それに、この体にも何か違和感がある。

時折よぎる記憶や感覚。

あれが何なのか、私自身まだ分かっていない。


今はまだ、誰にも話せない。


「……ちょっと話せない事情があるんだ」


「そっか、話したくないことなら無理に聞かないよ」


「私たちも色々混乱してるしね」


君たちも、何かしら体に変化が起きているのかもしれない。

……やっぱり、私だけじゃないんだ。


そんなことを考えていると、ゲームで見覚えのある装備を身に着けた男子の一人が、周囲を気にするように視線を巡らせながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。


彼は周囲に聞こえないよう、少しだけ身を寄せる。


「……君、蓮だよな?」


「えっ。なんで知ってるの!?」


「やっぱり君かぁ」


その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


どうして!?

どうして私の名前を知っているの!?

私が蓮だと知っている人なんて、この世界にいるはずがない。


胸の鼓動が一気に速くなり、考えがまとまらなくなる。


私のこの姿を知っているのは、拓真だけのはずなのに……。

まさか、本当に正体がバレてしまったの?


そんな不安が頭をよぎりながら、改めて目の前の男子の顔を見る。

落ち着いて見てみると、その顔立ちにはどこか見覚えがあった。

それだけじゃない。

立ち方や雰囲気まで含めると、ゲームで何度も見てきた人物と重なって見える。


……似てる。

アルトに。

でも、そんな偶然があるわけ……。


「俺だよ、拓真」


「……へ?」


「た、拓──むぐっ!?」


驚きのあまり思わず声を上げた瞬間、拓真は慌てたように私の口を手でふさいだ。


「しーっ! 静かに!」


そう小声で言われ、ようやく自分が大きな声を出しかけていたことに気付く。


「ご、ごめん……」


私が落ち着いたのを確認すると、拓真はゆっくりと口から手を離した。


「ていうか、蓮──」


「その名前はいったんやめて!」


思わず食い気味に遮る。


「あっ、ごめん」


拓真は申し訳なさそうに頭をかいた。


「ふぅ……」


ようやく一息つくことができた。


……そういえば、この姿はゲームのキャラクターなんだった。

だったら、私がアニスであるように、拓真もアルトとして接した方がいいのかもしれない。

その方が、この世界では自然だよね。


「ていうか、アニス。口調まで女になってるけど、何かあったのか?」


「それが私にもよく分からないの。どうしてこの格好になったのかも、なんでこんな話し方をしてるのかも……。気付いたら、この口調が当たり前だったみたいに自然に話せてて。本当に意味が分からないよ、この世界」


アルトと話しているうちに、少しだけ頭の中が整理されてきた。

今の私はアニスの姿になっている。

話し方も、仕草も、この体に馴染んでいるかのように自然だった。

そしてゲーム経験者は、自分が作ったキャラクターの姿になっている。

分かったことは少しずつ増えてきたけれど、それ以上に分からないことの方が多い。


「そういえば、そっちは本名は隠したりしてないの?」


「一応、俺たちの素性はそのまま転移してきたやつらには話してある。お前みたいに性転換したやつなんていないしな!」


「くっ……」


何も言い返せない……。

まぁ、うちの愛娘であるアニスちゃんが可愛いのは事実ですし。

それについては何を言われても譲る気はありませんけどね?


アルトと話している間にも、クラスメイトたちはそれぞれ情報交換をしたり、森の中を見回ったりと慌ただしく動いていた。


私も周囲へ視線を向ける。


いつの間にか空は少しずつ赤みを帯び始め、森の中にも長い影が伸びていた。


もうすぐ日が暮れる。


「そろそろ夕方かな?」


「そうだな。キャンプの準備しないとな」


「そうだね。でも今、アイテムボックスにはサバイバル向けの物なんて入ってないし……。

生産設備さえあれば、その場で作れるんだけど」


「作れるぞ、簡易的な物であれば」


「え、本当!?」


「あぁ、実際に試したから間違いない」


それができるなら、森での生活もずいぶん快適になるかもしれない。

早速試してもらわないとね!


「じゃあお願い!!」


「了解!」


アルトは軽くうなずくと、地面へ向かって手をかざした。

次の瞬間、その手のひらから淡い光が溢れ出し、地面を包み込んでいく。

やがて光がゆっくりと形を成し、木材が組み上がるようにして一つの簡易作業台が姿を現した。

続けて隣には簡易鍛冶台も現れ、まるで最初からそこにあったかのように静かに地面へと根を下ろす。


「おぉ……」


「でも、これは簡易的な設備だから高品質な物は作れない。サバイバル用品やキャンプに必要な物くらいなら生産できるけどな」


「十分だよ!

……これなら、何とかなるかも!」


異世界で迎える初めての夜。


さっきまで不安しかなかったこの森が、ほんの少しだけ生きていけそうな場所に思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ