第2話 欠けた名前
探索を始めてから数時間
「………」
今私は、長い時間歩いて探索をしているのですが――。
「なんっっにも成果が得られません!!!」
マジでただの森じゃない!?
人っ子一人見当たらないし、モンスターすらいない。
気配すら感じないんだけど……。
静かすぎる。逆に怖いくらい。
「何か対策を考えないと……」
そう呟いたところで、ふと違和感に気づく。
何か、忘れてる気がする──。
「……あっ!」
そうだ、魔法だ!
魔法の力でどうにかできないかな?
この世界に来る前,夢中になって遊んでいたゲーム『アナザーセルフ・オンライン』。
プレイヤーたちからは『アナセル』って呼ばれていたそのゲームには、索敵系の魔法があったはず!
自作魔法も使えたし、たしか──。
「サーチアイ!」
その瞬間、視界が変わる。
頭の中に情報が流れ込み、視界の端に“世界そのものを上から見ているような地図”が浮かび上がった。
「え、すご……!」
周囲に存在する生物や人の反応が頭の中に伝わってくる。
さらに、目の前には索敵範囲が地図のように映し出されていた。
「この魔法ならクラスのみんなを探せるかも!」
索敵範囲を少しずつ広げていく。
「見つけたかも」
大勢の人が集まっている反応を発見した。
でも、距離が分からない。
それに少しノイズが入ってる?
「ん~、ちょっと広げすぎたのかなぁ?」
サーチアイは広範囲を探れる代わりに、遠くほど輪郭がぼやける。
人の反応は確かにあるけど、でも──どこか“欠けている”。
「たぶん、かなり遠い場所にみんながいるんだよね」
それに、少し気になることもある。
でも今は──。
「早く向かわないと!」
人の反応がある場所に向かって走り出した。
どれくらい走ったかな。
「……はぁ、はぁ」
息が上がった。でも不思議と体が軽い。
なんでだろう。
たぶん、この体は走ることになれているんだと思う。
「だいぶ近くまで来た、はず……」
走り出して、数時間。
距離的にはあと数分程度で着きそう。
ガサガサっ。
「っ……!」
茂みの方に目を向ける。
「ギィィィ……!」
「ゴブリン?」
目の前に現れたのは、緑色の小さな化け物だった。
錆びた剣を握り、こちらを睨んでいる。
「うわぁ……ゲームで見たままだ……」
観察するだけでも気持ち悪い……。
すごい匂いだし、息が荒いし、目が血走ってる……。
──本物なんだ。
ゴブリンがこちらを見つけると、耳障りな声を上げた。
「ギィィ!」
次の瞬間、錆びた剣を振り上げて襲い掛かってくる。
「っ……!」
咄嗟に横へ飛ぶ。
危なっ!
今のは反射的に避けられたけど、もし遅れてたら――。
ゴブリンは襲い掛かろうと少しずつ前へ進もうとする。
「待って待って待っっって!!
初戦闘なのにぃー!」
慌てて腰のポーチに手を伸ばす。
「この中に何かないの!?」
ポーチの中を探ってみる。
「これかな?」
指先に何か硬い感触があった。
慌てて引き抜く。
「あった!」
さっそく剣を抜いてみる。
剣を握った瞬間、不思議な感覚が流れ込む。
何だろう、不思議と恐怖感が薄れたというか安心感がある。
「……大丈夫。
この感覚、覚えてる」
何度も剣を振った経験があるような感覚。
ゲームの中で育ててきた経験。
そのすべてがこの体に刻まれているのが分かる。
剣を構えた。
体にオーラのようなものが薄く纏った。
ゴブリンが一瞬だけ動きを止めた。
「ギッ……?」
その次の瞬間、再び飛びかかってくる。
「今!」
私は地面を蹴った。
「え…‥?」
想像以上に体が軽い!
気づけばゴブリンの懐に潜り込んだ。
「やぁっ!」
振り抜いた剣が、ゴブリンを切りかかる時。
頭から記憶が映し出される。
「お兄様なら、あの魔物を倒せるよね……」
声が、自分のものじゃない場所から響いた。
その瞬間──視界が一瞬だけ“別の誰か”に切り替わる。
豪奢な部屋。
そこで祈りつづける少女。
──これは、誰の記憶?
一瞬の断絶。
そして現実に戻る。
ゴブリンの首元に向かって剣を振るった。
次の瞬間、ゴブリンの首が宙を舞った。
「何とか・・倒せたみたい……」
張り詰めていた緊張が少しだけほどける。
「うっ……」
頭が痛い──。
急に頭の中にノイズのように情報が流れ込む。
耳鳴りがひどい──。
「くっ、うぅぅぅぅぅ……!」
視界が揺れる。
頭を押さえ、その場に膝をつく。
しばらくして、ようやく痛みが治まった。
何とか治まった……。
「はぁ、はぁ……」
何だったんだろう、今の。
あの少女の記憶。
お兄様という言葉。
私が作ったキャラに、あんな設定なんてなかったはずなのに──。
「……ま、まぁいいや。
今考えても仕方ないし、
まずはみんなのことを優先するべきだよね。
はやく向かわないと!」
私は再び、クラスのみんながいる方へ向かって走り出した。
どれくらい進んだんだろ──。
サーチアイの反応が、はっきりとしてくる。
「ここに……」
森の最奥に……。
確かに人の気配はある。
「どこだろ……?」
茂みの隙間からそっと覗いてみる。
「みんな……!」
目の前にクラスのみんながいた。
無事だったんだ──。
「よかった……みんな、無事……!」
全員いる。
いるはずなんだけど──おかしいな。
私みたいに、この世界では浮いて見える人が数人混ざってる?
「なんか似てる人たちが……いる?」
装備とか見た目とかね。
でも少し”見覚えがあるような気がする”。
そんなことを考えていると、改めて周囲の様子が目に入る。
彼らは不安そうに集まり、周囲を警戒していた。
誰かが指示を出しているわけでもない。
ただ、怯えてるだけだ。
その時──。
「「あっ──」」
結花と目が合った。
まずいまずいまずいまずい。
目が合っちゃったよどうしよ。
思わず茂みの中に隠れてしまった。
でも、もう目が合ってしまった。
素直に出て声をかけようと思った。
でも――。
「まって……」
この体のまま出て行ったら、みんなからしたら知らない女の子……だよね?
いきなり現れたとしても――。
「誰?」
ってなるだけだよね。
私は分かってしまった。
「どうすればいいの……」
その時だった──。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
悲鳴!?
反射的に周囲を見渡してみる。
「モンスター!?」
すぐサーチアイを発動する。
視界に赤い反応が増えていく。
「みんなの周りに敵が集まってる!」
クラスメイト達の目の前にはオークが現れる。
考えるより先に、体が動く。
「……っ」
もう迷ってる暇なんてない。
「大切な人たちを失わせるもんか!」
私は剣を引き抜き、激しく茂みを蹴り破って飛び出した。




