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放った言葉は、その身を焼く刃となる。~言霊家系に生まれた僕に暴言を吐かないでくれ~  作者: なつたろう


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第8話 地獄の告別式

 時刻は夜十九時。

僕らはもう二度と図書室から校舎の中には入れない。

そして、図書室は定時制の生徒であっても飲食厳禁。

だからこそ、小腹が空いた僕のお腹はギュルルルルと盛大な音を鳴らし続けても、試験勉強に励んでいたのだが……


「お腹空いてんだろ?俺たちも早く晩ご飯食べに行くぞ」


「え?晩ご飯?」


「お金持ってきてないのか?」


「持ってきてるけど、外でカップラーメンを食べるのはちょっと……」


――校舎の中に入れるのであれば学生食堂に行って、堂々と腹ごしらえできたのに……


 大きなため息をつく。

すると、なんだそんなことで我慢していたのかと言わんばかりに、まっさんが笑い出した。


「なんだお腹空いたって早く言いに来いよ。俺たちがご飯を食べる場所もちゃんと用意されているから一緒に行くぞ」


 だったら優李たちも一緒に……と言いかけて、優李と柚香の姿がないことに気づく。


「優李たちはとっくの昔に行ってるぞ?気づいていなかったのか?」


 空腹を紛らわすために勉強に集中していたなんて、恥ずかしくて口に出せるはずもなく、僕は頷くことしかできなかった。

自販機でカップラーメンを買い、まっさんは菓子パンとミルクティーを購入している。

そして、まっさんはトイレがある方向へと歩き出した?


――外は嫌だと言ったが、便所飯も嫌だ!!!


 まっさんを信じていなかったわけではない。

だが、この方向の先にはトイレと建物を支えるためのデカい支柱。

あとは本棚くらいしかなかった。


「そのうち優李にも鍵が渡されると思うから、それまでは誰かに声をかけてくれ」


 ポッケからありふれた銀色のカギを取り出しながら、僕の方を見て説明をしてくれるまっさんは、まるでたいあたりするつもりなのか?と思うくらい支柱に向かって突き進んでいく。


「ちゃんと前見て!ぶつかる!」


 こっちを見て、前方不注意になっているんじゃないか?

そう思い、思わず声を荒げてしまう。

しかし、またもや笑みを浮かべ、取り出した鍵を柱の下にある鍵穴へと差し込み……


カチッ


 すると、どういう仕掛けなのかはわからないが、取っ手のようなものがくるりと出現した。


「俺たちの休憩室の入り口はここだ。あと、万が一他の生徒が入ってこないように、入った人が中からもう一度鍵をしめる。これテストに出るぞ」


 まっさんは僕を茶化すように出入りの仕方を教え、支柱の中にあった螺旋階段を上っていく。

たどり着いた先には、見慣れた教室の引き戸があり、ガラリと開けると……


……異様な光景が広がっていた。


床や構造は教室とそん色ない配置になっているが、レイアウトはお世辞にも学校の教室とは言い難い。

 

 教室の真ん中には大きく丸いテーブルが設置され、椅子が5つ置かれていた。

それだけではない、窓際の奥の角にはハンモックがあり、その上で優李が寝そべっていたのだ。

さらに黒板側の奥の角にはランニングマシンやダンベルなどの筋力トレーニンググッズが…

そして、対角線上の角には、柚香の物と思われる一人用の大きさのテントがたてられている。


「なにこれ…」


 僕は異様な教室の光景にあっけに取られていると…


「悠一も連れてきた?」


 案の定、テントの中にいた柚香の声が聞こえてくる。


「あぁ、盛大に腹の音鳴らしてたから夜食買ってきた」


 まっさんの『《《夜食》》』の言葉に反応した優李がむくりと起き上がる。


「遅かったな。メールを見てからなんか思いつめたような顔してたし、何を一人でごちゃごちゃ考えてたんだ?」


 優李にすべて見透かされ、これには敵わないなと思い、元担任から送られてきたメールと、蓮夜の告別式について夜食を食べながら皆に相談した。


「僕はもう一年A組ではないから、行かないほうがいいのかな?」


「私だったらめんどいし行かないに一票」


「柚香はドライだからな……ま、世間体を気にするならお焼香だけあげてくればいいじゃん」


「ごめん、説明し忘れてたわ。悠一の定時制移行の件は、休校明けに教師やA組の連中に伝えられるらしい。だから、行っても行かなくてもどっちでもいいと思うぞ」


 まっさんはしっかりしていてそうで、たまに抜けている……

でも、一人で悶々と悩み続けるより、三人に思い切って話したことで気持ちが軽くなった。

こうして、つかの間の休憩を終え、試験勉強に集中しているといつの間にか時計の針が二十二時を示していた。


「よし!そろそろ終わるか 」


 まるで文芸部の時と同じように、帰宅を促すまっさん。

僕らは図書室においてあった私物を片付け、図書室の戸締りをし、学校を後にする。

校門前で、まっさんと柚香と別れ、優李と一緒に商店街があるほうへと歩き出した。


 告別式当日。

僕は制服を着用し、メールに記されていた蓮夜の自宅へと向かう。

いざ到着すると、芳名帳ほうめいちょうに名前を書くよう促され、香典袋を受け付けの男性に渡した。


「お焼香だけして帰ります」


 それだけ伝え、蓮夜の遺影の前に立ち、前を歩いていた大人にならって、お焼香をする。

振り返ると、目を赤く腫らせて蓮夜の逝去を悲しんでいる同級生が目に入り、中には僕と同じく義務感で来ているだけの者もいた。

そして、遺族の方に頭を下げた途中で、蓮夜の母親と思われる人物と目が合ってしまった。


「あんたのせいで!お前が息子に関わったから蓮夜が死んだんだ!」


 鬼のような形相で僕の胸倉を掴み、彼女の手のひらが頬を打ち付ける。


「僕は……何もしていません。あの時、藤坂の母親と蓮夜が言い合いをしていただけで……本当に何も……」


 無実を訴えたが、蓮夜の母は金切り声をあげた次の瞬間。


バチンッ


 再度鈍い音と共に、視界が火花を散らしたように白く染まった。


「あんたの家系の人間はいつもそうよ……あんたのばあさんや、あの高校の校長に悪態をつけばなぜか、私に《《返ってくる》》。だからあんたたちが蓮夜を!」


――きっと彼女は僕がどんな家に生まれ、どんないわくつきを抱えているのか知っている人物なんだ。


 直感で、そう感じ取った。


「僕の家のことを知っているのであれば、どうかそれ以上……何も言わないでください……もう帰ります」


 フッと胸倉を掴む手が緩み、そのままその場を立ち去ろうと、無言で彼女に背を向ける。

でもそれがいけなかったのだろう……

後ろから大きく息を吸い込む呼吸音が聞こえ、僕は万が一の事態に備え、急いで自分の耳を塞がなければと両手を挙げたのだが……


「《《あんたの家族全員、地獄の業火に焼かれてしまえばいいのに》》!」


――間に合わなかった……


 僕は、ばあちゃんやまっさん達のように能力が強いわけではない。

でも、定時制に移されたということは、その可能性が出てきたのだと自分なりに考察を重ねていた。

こうしている間にも蓮夜の母は僕に罵声を浴びせ、発狂している。

ただ、彼女の言葉がどう作用するかわからない。


――言わなきゃ、でも言えない……どうしてこんな時に喉が震えて声が出ないんだよっ!


 誰でもいい。

誰でもいいから、蓮夜の家族に火気には気を付けるよう伝えておかないと……

周りを見回すが、僕を好奇な目で見てくる同級生や参列者。

そして、ちょうどこの室内に入ってきた《《元》》担任の姿を捉えた。

彼は一瞬で僕と蓮夜の母親との間に何かが起きたのだと察し、僕の元に駆け寄ってきてくれる。


「先生!僕……蓮夜の親族の誰かに伝えないといけないことが……」


「いいから、とりあえずここを出よう」


 担任は僕の話に耳を傾けず、近くにいた学級委員に指示を出した。


「一年A組はお焼香だけにして帰宅するように伝えてくれ」


「……わかりました」

 

 告別式を台無しにしたくない担任の気遣いなのだろう。

でもこの時。


僕が少しでも声を張り上げていたら……

担任の指示を遮り、事情を説明していたら……


 目の前で蓮夜の家に火が回り、母親はのたうち回っている。

こんな未来は訪れなかったのかもしれない。

そう思わずにはいられなかった。


「誰か水持ってこい!」

「まだ人が中に!」

「消防車はまだ来ないのか!?」


 学級委員長はクラス全員の避難は確認できたと担任に報告し、蓮夜の家族を除いた親族たちは恐怖の表情を浮かべている。

逃げ遅れたのは、蓮夜の両親や祖父母。

そして、親族の一部が蓮夜の母を助けようとして、まだ建物の中にいるらしい……


 煙はもくもくと上がり、火の勢いも強まっていく。

さらに、その場にいた男性がハッと気づいたように、こう呟いていた。


「確か香典返しは食用油だって言ってたよな……」


――最悪だ。

庭にあったホースを使って、火を消そうと水をかけようとしている蓮夜の親族を止めなくちゃ……


 だが僕の言動はすべて後手に回ってしまった。


パチッ、パパパッ……


 油が入った容器が溶け、油が漏れ出していたのだろう。

火がはじけ飛び、玄関は火の海と化してしまったのだ。


『《《あんたの家族全員、地獄の業火に焼かれてしまえばいいのに》》』


 蓮夜の母親が放ったあの言葉が頭の中でループし始める。

遠くの方から鳴り響くサイレンの音が混じり、逃げ遅れた者たちの名を呼ぶ声がスローモーションのように再生された。

阿鼻叫喚。

逃げ道を火で塞がれ、逃げ遅れた蓮夜の家族。


――僕は告別式に参列すべきではなかった……


 この悲惨な光景と後悔の念は、一生涯忘れることができない記憶として、頭の中に刻まれるだろう。

今後、僕の身に起こる災いを想像し、嗚咽がとまらなくなる。


「神本!大丈夫か?!」



――あれ?どうして家と人が傾いてるんだ?


 バサッ


 その音に、僕の意識が途切れた…

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