第4話 蓮夜の最期
警察からの事情聴取を終えた翌朝。
昨日までのパニックがまるで嘘のように空は晴れ渡っていた。
藤坂の死、連鎖する事故。
そして、警察の介入した結果、生徒の不注意。
つまり、集団ヒステリーとして処理され、僕はこうして登校している。
――万が一、変なことが起きたらすぐ早退するか、校長先生に相談しな。
「変なことって……もう起きまくってるよ、ばあちゃん。」
たった数日のうちに生徒が立て続けに亡くなったのだ。
校長はその対応に追われて、一生徒を構っている時間なんてないはず。
しかも、保護者からは学校関係者の顔は見たくないと、彼らの友人ですら、葬式には顔を出すなと拒絶されたらしい……
「嫌がらせをしてきたやつだし、行かずに済んでよかったというか……」
何より期末試験も近づいているため、特別な理由もなく欠席するようなことはしたくなかった。
――さすがに今日は、クラスの何人かは欠席するんだろうけどな……
そんなことを考えながら歩いていると、校門の前を歩いていた蓮夜の姿を捉えてしまう。
彼は何事もなかったかのように、ポケットに手を突っ込み、気だるそうに歩いていた。
僕的にはその態度が無性に腹立たしく感じてしまうのだが、深く深呼吸し、心頭滅却と心の中で呟く。
そんな僕の横を40代くらいの女性が通り越していった。
しかも……
「あの不良……絶対に許さない!」
何やら物騒な独り言を吐きながら、蓮夜の元へ一直線に向かって行く。
――あれ?どこかで見たことあるような気が……あ!
あの女性は、先日亡くなった藤坂の母親だった。
通り過ぎざまに見えた充血した瞳、振り乱した髪。
まるで息子の死の元凶は蓮夜だと、決めつけているかのように……
「唯野蓮夜ってあんたでしょ。 息子を返しなさいよ! あの子はあんたとつるんでからおかしくなった! どう責任取ってくれるの!?」
絶叫に近い罵声が通学中の生徒たちの足を止める。
しかし、蓮夜は足を止めるどころか、鼻で笑って彼女を一瞥した。
「はっ、うざ……俺のせいだって証拠はあんのかよ?そんなに藤坂のことが大事なら、後ろにいるあいつを道連れに、会いに行ってやればいいだろが!」
蓮夜は顎で僕を指し、息子を亡くした母親の感情を煽るような真似をした。
その瞬間、なぜか僕の時間だけがピタリと止まる感覚に陥る。
そして、蓮夜の口から放たれた言葉。
『あいつを道連れに、会いに行けばいいだろうが』
これが頭の中で幾度となく繰り返された。
ギギキ、ギギギギギッ!!|
風一つない快晴の空の下で、あり得ない音が聞こえてくる。
その元凶は、校門の脇に立つ、古びた鉄製の街灯だった。
「え……?」
蓮夜が不気味な音に気づき、顔を上げた時には、すでに遅かった。
倒壊する街灯。
巨大なライトの部分が、逃げようとする蓮夜の頭上へ、吸い込まれるような精度で垂直に落下した。
グシャッ。
嫌な鈍い音がして、重厚な金属の塊が蓮夜を地面へと縫い止める。
数秒の沈黙の後、藤坂の母親の悲鳴と、居合わせた生徒たちの絶叫が、晴天の空を切り裂いた。
一方僕は、少し離れた場所からその光景を見ている。
街灯のライトが直撃したその場所には、赤い水溜まりができ始めていた。
『悠一、お前は神本家の子だ。お前に向けて放たれた悪意は、誰にも止められんかもしれぬ』
祖母の言葉が、耳の奥で冷たく響く。
僕は、ポケットの中で震える拳をギュッと握りしめた。
――蓮夜が藤坂に会いに行った?
背筋に冷たい何かが走り、全身から鳥肌が立つ。
ゾクッ! と悪寒がした同時に、額からは冷や汗が流れるのを肌で感じた。
これが、地獄の始まり。
僕が背負わされた、言霊をつかさどる神本家の逃げられない宿命の幕開けだった。




