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放った言葉は、その身を焼く刃となる。~言霊家系に生まれた僕に暴言を吐かないでくれ~  作者: なつたろう


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第3話 言葉の矛先と新たな犠牲者

 藤坂の事故は、地獄の蓋が開く合図に過ぎなかった。

翌日、学校は昨日とは別の意味で異様な雰囲気で包まれている。

すれ違う生徒たちはみな、明るい話題を口にすることなく、沈黙が空気を張り詰めさせていたのだ。


――気が重い……


 昨日は全部活動が中止となり、生徒は全員強制下校。

当たり前かもしれないが、それだけ藤坂の事故による影響は大きかった。

生徒玄関の掲示板には『蛍光灯の下は歩かず、頭上に注意してください』の貼り紙がでかでかと貼り出されている。


「ねぇ、昨日の藤坂って男子生徒、助からなかったんだって」

「てか普通、そんなタイミングよく頭の上に落ちてこないよね?」

「あの廊下通るの怖いな……」


 藤坂のことでヒソヒソ話をする者もいれば、「休校になるんじゃないか?」と囁く生徒もいた。


 その予想は当たらずしも遠からずで、朝のSHRで担任から、今日は無理せず早退しても構わない旨が伝えられた。


――最悪、休校になるか?


 きっとクラスメイトたちも僕と似たようなことを考えていただろう。 

しかし、誰も言葉を発さず、呼吸の音さえ憚られるような空気が流れていく。

そして、SHRが終わり、各教室への移動時間になると、静寂を切り裂くように、新たな悲鳴が校内のあちこちで連鎖した。


「藤坂くんじゃなくて、あいつが死ねばよかったのに」


  階段の踊り場ですれ違いざまに俺を睨みつけた、藤坂の彼女が一歩降りようとした瞬間。

階段を踏み外し、転がり落ちていく。

なんとか受け身をとっているようだったが、首と足が不自然な方向に曲がっていた……

さらに、「あいつ、顔キモいよな」と笑ってきた男子生徒は、昼食中に喉を詰まらせ、顔を紫に変えて、のたうち回っている。


――こんな偶然、何度も起こりうるはずがない。


 クラスメイトはパニック状態になり、この騒ぎは他のクラスへと伝播。


「呪われてる……あの掲示板に書いた奴が、みんなやられてるんだ!」


 誰かの一声で大勢の生徒が集団ヒステリーを起こし、教師は何とかなだめようとするものの、収集がつかなくなってしまった。

そして、その言葉は偶然や妄想では片付けられない事態に発展。

藤坂を含め、犠牲者はすでに三人。

ついに学校の正門にはパトカーが止まる。


「階段から落ちただけで、これは……」


 警察官や科学捜査班のような恰好をした大人たちは、何かに怯えているような、険しい表情を浮かべ、捜査、検証の準備を整えていった。


「おい! なんで俺が事情聴取を受けなきゃいけねぇんだよ! 俺は無関係だって言ってるだろ!」


 蓮夜のいらだった怒鳴り声が、図書室の隣にある応接室から漏れてくる。

生徒たちからの話に持ち上がった、学校のネット掲示板。

これまではトラブルもなく平和だったはずなのに、蓮夜の投稿からおかしなことが起こり始めたと聞き、疑いの目を向けられたのだ。


「…だが唯野君、君の書き込みに同調した者ばかりが次々と災難に遭っている。これは偶然で済む話じゃない」


 刑事と思われる男の低い声が続く。


「知るかよ!あいつらが勝手に便乗して、勝手に命を落としただけだ。俺はあいつらに『消えろ』なんて一言も言ってねぇ!」


 蓮夜の呼吸が荒くなるのが、ドア越しにも伝わってきた。

そして、彼は防戦一方の状況に耐えかねたのか、最悪の告白をぶちまける。


「……俺が言ったのは、あいつらにじゃない! 俺は神本に向けて言ったんだよ! なのに、なんで関係ないあいつらが……」


 僕も事情聴取を受けるため、廊下で待っていたのだが、蓮夜の言葉に、通りかかった生徒や教師も含め、一瞬にして空気が凍りついた。


「そうか、わかったもういい。次の人と変わってくれ」


 ちょうど事情聴取が終わるのを待っていた僕と、教室から出てきた蓮夜の目が、最悪のタイミングで合った。

蓮夜は、自分の言葉を聞かれていたことに一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに顔を歪めて僕を睨みつける。


「おい、神本……お前のせいで俺の周りがめちゃくちゃなんだよ!」


 僕は何も答えることなく、立ち尽くしていた。

本来なら、自分に対して『消えろ』と呪った相手に対して、怒鳴り返すべきだったのかもしれない。

そして胸ぐらをつかんで、これまでの仕打ちを問いつめるべきだったのだろう。

けれど、僕の胸を満たしていたのは、怒りではなく、底知れない『哀しみ』に近い感情だった。


――目の前の獣は、言葉を武器に人を貶めることしかできないのか……

なんて哀れな生き物なんだろう。


 幼い頃から祖母から、怒りをコントロールする術を叩きこまれていた僕は、怒りを感じるけれ子、絶対に口から発することはしない。


「いいかい悠一、お前は私やお前の父――圭一郎と同じ血を継ぐ、神本家の末裔だ。普通の子とは違うんだよ」


 まるで身に刻み込む呪文のように、毎日聞かされた『神本家の末裔』。

だが僕は、僕はそれに値する人間ではないと思って生きてきた。


「……なんだよ、その目は。可哀想なやつを見るような(つら)、ムカつくんだよ!」


 蓮夜の顔が、屈辱と怒りで真っ赤に染まる。

ここまで言われても、俺は何も答えることはしない。


「ふざけんなよ神本! 黙ってないで何か言え! ヒビ入れられたいのか!?」


――蓮夜の言うヒビとは、俺の利き手を折るという意味なのだろう。

そこらにいるチンピラみたいなセリフ、ほんとうんざりだ……


 言葉を吐かない代わりに、小さなため息をつく。

すると、なかなか応接室に入ってこない俺にしびれを切らした刑事が顔を出し、蓮夜を睨みつける。


「おい! そこで何をしている!?」


「チッ! 覚えてろよ!」


 狂ったように吠えていたというのに、刑事の睨み一つにビビって、応接室横にある階段を下りていく。

その時、階段の踊り場にある小窓が


ピキリ……


 小さな音を立ててひび割れたことに、僕も含め誰もまだ気づいていなかった。

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