第54話 保留の要素
俺がわかりやすいと言うことが判明してさらに1週間が経った。
今は魔術理論の授業中、今日は新しい魔法陣の要素を習うのだ。予習は禁止されていて、先取りはできないから何がくるのかはわからない。
「今から教えるのは、保留の要素です。これは、魔力の流れを意図的に遮断して、他の要素から魔力信号を受け取った時に放出すると言う仕組みです」
保留か。魔力を遮断して放出すると言うことは、遅延して発動させることができそうだな。例えば、罠を作って踏まれた時に発動させたりとか。
「細かい仕様などは、教科書の37ページに書かれてますので、そこを見てください」
なるほど、この部分に信号を送ることで、ここの門を開け閉めするのか。魔法の発動自体に遅延をかけられるから、罠として活用したら面白そうだ。
教科書から扱い方を学び、確認のために簡単なテストをして、授業の余った時間は保留の要素を用いた魔法陣を作るための時間に当てられた。
「罠を作るとしたら、発動条件はどうしよう。踏まれた時?それとも、どんな感じにしようかな」
罠を作る上で、発動条件は一番大事な要と言っても過言ではないだろう。どれだけ致命的な罠だろうと、発動しなければただの床の模様に過ぎない。
罠を発動させるトリガーとして、どの手段を選ぶべきか。踏まれたことを感知して発動する?もしくは、紐に引っ掛けてもいいし、こっちからタイミングを測って発動するのもいいな。
悩んでも仕方ないし、いっそ全部作ってしまおう。最初は、オーソドックスな踏んで発動する罠かな。
キーンコーンカーンコーン
「はい、それではチャイムも鳴って時間になったので、授業は終了です。魔法陣は完成していない人がほとんどのようなので、宿題にします。明日の授業の時に見せてくださいね」
30分ほど試行錯誤しながら、魔法陣を組んでいると魔術理論の授業が終了した。
このチャイムにも慣れてきたよな。最初は前世と同じすぎてどういうことか訳がわからなかったけど、今では気にせずに過ごせるようになった。
確か、イギリスのビッグベンが1時間ごとに鳴らすチャイムだったんじゃなかったっけ?どうしてこちらにあるのか、考え出したらキリがない。過去の転生者がこれにしたのだろうと俺は割り切っている。
ただ、時間内に作成できなかったのは悔しいな。作ろうとしてるものを考えれば仕方ないことなのかもしれないが、悔しいものは悔しいのだ。
えっと次は・・・・昼休みか。いい機会だし、ミュー達と相談しながらでも作るか。
◆◇◆◇◆◇
「・・・・ということでさー、何かいい案とかないかな?」
今はみんなで集まって昼食をとっている最中。俺は、保留の要素を活用した罠の魔法陣について相談してみた。
「罠ね・・・・いい案じゃないかしら。そこで悩んでいるのなら、昨日私が見つけたこの組み合わせが使えるんじゃないかしら。ほら、どう?」
そう言って、ミューは俺に提案してくれた。今は紙がないため書きながら教えるということができないので、身振り手振りを使って、わかりやすく説明してくれる。
「私が見つけた組み合わせは、魔力圧を勝手に整えてくれるの。あなたの言う設置してる時の魔力圧が安定しない問題は、これで解決すると思うの」
なるほど、それは便利だな。前世でいうコンデンサみたいなところか?それなら、確かに俺の問題を解決に導いてくれそうだ。
「いいね。その組み合わせをまとめてコンデンサとでも呼ぼうか。コンデンサのおかげで、行き詰まっていたのがスムーズに進みそうだよ。助かった」
お礼を言うと、ミューはふふんとドヤ顔をしながらこう言う。
「それほどでもないわ。それにしても、あなたのその言葉はどこからきてるの?コンデンサなんて、初めて聞いたのだけれど」
やっべ。また失言した。この前はリベルトが相手だったから誤魔化せたけど、今回はそうにも行かなそうだ。
「あー、ちょっと事情があるんだよ。あっ、そういえばこの後用事があるんだった。ごめん、先抜けるよ」
かなり強引に誤魔化したので違和感は確実に持たれただろうが、俺はそう言い残すとその場から逃げ出した。
「やべぇ、どうしよう」
俺は、誰もいない訓練棟の裏で一人頭を抱えて座っていた。
ここまでくると、適当に誤魔化して解決〜なんてことは、万に、いや億に一つも無い。
「それなら、前世の記憶がある事を話すか?」
かといって、正直にカミングアウトしても、適当なことを言ってると思われて馬鹿にされるだけ。不信感を募らせてしまう。
いや、不信感はもう既に溜まりきってるだろう。あんな誤魔化し方をしたのだ。あれで俺の言うことを信じるようなバカは、仲間の中にいない。
「あーもう、板挟みじゃんか。どうしたらいいんだよ」
どちらを選んだとしても、結果はほぼ変わらない。どうしたらいいんだ・・・・・・
「それなら、言ってしまったほうがいいんじゃないの?」
正直に話したほうがいいか? そっちの方が、変に隠すよりも俺の罪悪感もないし、いいかもしれない。
「ああそうかもな。信じてもらえないとしても、やっぱり言うべきか_____⁈」
ちょっとまて、今の声は誰だ?慌てて声のした方を向くと、俺の横にミューがちょこんと座っていた。




