第47話 しぶとい
そんなこんなでこちらも準備を終えたので、叫んでミューに完了したことを伝えた。
「ミュー!こっちも準備完了だ!」
こちらにミューの返事は聞こえなかったが、俺が叫んだ次の瞬間、ミューの魔力を感じた。
刹那、爆裂音がコート中に響き渡る。空気がビリビリと割れ、壁で守られているはずのこちらにもその熱気が伝わってくる。更には、念に念を重ねたはずの壁に亀裂が入った。
それだけで、ミューの魔法がどれだけ高火力なのか、バカでも理解させられるだろう。
数十秒ほど経過して、魔法の余熱がある程度引いたかと思った俺は、身体強化によるジャンプで壁を乗り越えた。
そこには、済ました顔で立っているミューと、予想外なことにかなりギリギリではあるが、デブリが膝をついていた。二人の間には大きなクレーターが形成されており、デブリより前に来ていた取り巻き達はその中で倒れていた。
かなり威力の高い一撃だった筈なのだが、彼らの制服は少し焦げ付いている程度で、ほとんど無事だった。これにも強化魔法などがかかっていたのだろうか。そういえば、魔物から得られる素材を用いた服などは魔法に対して耐性があると聞いたことがあるな。それらが噛み合って耐えているのかもしれない。
「リオン、そっちは大丈夫だったの?そこの壁、ヒビが入っているようなのだけれど」
俺の存在に気付くと、ミューはリベルト達を心配するかのように尋ねた。
「まあね。念押しの強化魔法があってこれだから、どれか一つでも欠けてたらダメージを受けてたよ。アレンとリースのお陰だね。どうせ、自分だけは守るように魔法陣に細工してたんだろう?じゃなきゃ、そんな態度は取れないよね。ただ・・・・・・もうちょっとそのコストを火力に回しても良かったんじゃない?」
そう言いながら、俺はデブリの方へ目をやる。彼はなんとか立っているだけで精一杯のようで、ここで喋っている俺たちに攻撃するどころか、そもそもこちらに意識が向いているのかも怪しかった。
「火力は十分だったの。奴はとことんクズだったのよ。取り巻きを肉壁にして、更に防御魔法まで展開してね、しぶとく生き残っちゃったの」
うわぁ・・・・・・ドン引きだよ。取り巻きを肉壁にって、クズ中のクズじゃん。カスだよ。いや、カスに失礼か。
「おおう、まじか。それなら、仕方ないな。そこまでして生き残るって、執着がすごいな」
俺がそう言うと、それを聞いてミューは体を震わせながら言葉を発した。
「いやよ。こんなのに執着されるなんて。虫唾が走るわ」
そりゃあね。俺がそれを受けてたら・・・・・・って思ったけど俺もこいつに執着されてた立場だったな。
「もうアイツも戦えないだろうし、とどめ刺しに行っていい?」
「いいわよ。赤っ恥をかかせてやりなさい」
ミューの許可も取れた。リベルト達にもしっかりとどめを刺すところを見てもらいたいので、拳に少し力を入れて、壁を叩いた。
さっきの魔法に耐えただけでもかなりのものだ。壁は、俺の手が当たるとガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
リベルト達の視界が晴れたので、俺はデブリのところに歩いてきて、声をかけた。
「なあデブリ、惨めだとは思わないか?意気揚々とこちらに決闘をしかけたのに、たった一つの魔法でもうボロボロだ。仲間を肉壁にしてまで自分だけ生き残ろうとしたくせに、自分で防御を使って首の皮一枚つながる。みっともないと言わずして、他に言葉があるか?」
俺は、デブリに向かって一方的に喋りながら魔法陣を一つ展開する。
その魔法は、『放水』誰もが知る一級魔法だ。
「今のお前には、これだけで十分だ。何か言い残すことは?」
言葉を投げかけると、デブリは息も絶え絶えに喋った。
「お前には・・・絶対・・・負けない」
その執念だけは、一人前だ。だが、その言葉通りにはならない。
「お前の負けだ、デブリ」
そう言って俺は魔法を発動する。気持ち多めに魔力を込められたその魔法は、水を勢いよく放出し、デブリの顔面に当たった。
顔に水がかかったことで、なんとか保たれていた均衡が崩れる。
意識を失ったデブリは、顔から崩れ落ち完全に倒れた。
次の瞬間、空気のスイッチが入った。否、スイッチが蹴り飛ばされたかのような勢いで突然観客席が沸き起こった。
誰かが口笛を吹き、誰かが叫ぶ。誰もが、俺たちの勝利をそれぞれの形で祝っていた。
「すごいね、まるでパーティーだ」
「当然よ。コイツは私たちだけでなく学年中に恨みを買ってるもの。そうでなくても、今回の所業でコイツにいい印象を持ってるやつなんて居ないはずよ」
そんなにだったのか。一体何をしたらそんなに恨みを買えるのだろう。
「よし、そしたら授業に向かおうか。コイツらと俺たちはもう関係がないんだから」
恨みも晴らしてスッキリしたので、みんなに声をかける。
コートの出口へ歩いていると、アレン君がデブリの方に歩いて行った。何をしているのかとそちらをみると、アレン君はデブリの尻を蹴り、清々しい顔でこちらに歩いて来た。
「ほら、早く行こう!次は・・・体術の授業だったよね」
アレン君、いやアレンは、立ち止まってその様子を眺めていた俺たちに追いつくと、早く授業に向かおうと急かしてきた。




