第37話 体術
説教を聞き終わり、俺はなんとなく自分の腕時計を確認した。
「やべっ、もう約束の5分前だ。ねえ、リース。この本俺が借りていってもいい?(小声)」
リベルト達と合流する時間が迫っていることに気づいた俺は、リースに先程手がぶつかった黒幕でもある本を俺が借りてもいいか聞いた。
「別にいいわよ?そもそも、一度読んだことのあるものだし、懐かしいと思って手に取ろうとしただけだもの(小声)」
なんだ、自分が読むつもりは無かったのか。それなら、安心して本を借りられる。
「じゃ、また後の授業で(小声)」
本を取り、リースに挨拶をすると、借りる手続きをする前に俺はミューの所へ向かった。
「やあ、ミュー。何か良さそうな本は見つかった?(小声)」
特に探すことなくミューを見つけ、俺は声をかけた。
「あら、リオンじゃない。そっちはもう見つかったの?私は、面白そうなのを一つ見つけたの」
「うん。良さげなのが見つかったよ。もうす約束の時間になるからそろそろ行かない?」
ミューも無事に本を見つけたのか。
一体どんな内容なんだろうな。
「じゃあ、ちょっと急ごう。あと3分くらいしかないからね」
ミューを急かして、俺たちは一階にある貸し出しカウンターへ向かった。
『本ノ貸シ出シデスネ。借リタイ本ヲコチラヘ出シテクダサイ』
カウンターへ来ると、機会音声ではない、しかし人の物でもない声が聞こえてきた。
その声に従って、俺たちは本を出した。
『貸シ出シ手続き完了デス。ドウゾ、ゴ自由ニオ読ミクダサイ。返却期限ハ来週ノ月曜日デス』
これで終わりなのか。あっさりしてたな。
そして、特にトラブルこともなく手続きを終えて約束の図書館前に来た。
リベルトは俺達より先に待っていたようで、図書館の前で立っていた。
「リオン君達来たね。時間ぴったりだ。そしたら、訓練等に行こう」
俺たちを見るなり、リベルトは声をかけて歩き出した。
図書館から訓練棟に着くまで、5分ほどかかった。
その間、俺はさっきリースと話した際に聞いたこと、そして考えたことを伝えた。
「なるほど・・・・・・話を聞く限り、僕もリオン君と同じように金2クラスの、その男子が怪しいと思う。でも、どうやって特定するんだい?僕ら白金クラスは20人程度しかいないけど、金2クラスは40人もいる。その中から男子で分けたとしても、20人だ。そこから一人を、しかも君の知らない人物を探すのは簡単ではないよ」
俺の言葉を聞いて、リベルトはそう言った。確かにそうかもしれないが、実は俺に考えがあるのだ。
「リベルト、考えてみてくれ。名前を口に出すだけで顔を歪めるような人物が、本人を目にして平常でいられると思うか?理由は知らないが、相手は俺に何かしらの怨みがあるはずだ。それなら、簡単に洗い出すこともできると思わないか?」
俺がリベルトにその考えを伝えると、彼はそれを聞いて大きく納得したようなリアクションをした。
「確かに、君の言う通りだよ。それならば、簡単に犯人を釣り出せるだろうね。しかし、それは君自身が囮になると言うことじゃないか?もしそれで犯人が逆上して君を襲ったらどうする。相手は一人だけじゃない可能性も、十分にあるんだよ?」
案の定、リベルトはそこをついてきた。だが、俺はこれにも反論を準備している。
「リベルト、俺はぼっちじゃない。俺にはミューはもちろん、友達が、リベルトがいる。白金クラスのみんなも俺には好意的に接してくれるし、声をかければ何人かは手伝ってくれるだろうさ。それならば、多くても20人の金2クラスの男子なんて、障害にすらならないだろう?」
実際、白金クラスと金2クラスにはそのくらいの実力の差があるはずだ。5、6人白金クラスが揃っていれば、20人程度蹴散らすことも可能だろう。
「そうだけど、リオン君は僕達に手伝ってもらうつもりだったのかい?まあ、友人のためならば協力は惜しまないけれど、自信満々だね」
自信なんて、あってなんぼだろ。なくて損することがあっても、あって損することは少ないはずだ。
「私も、リオンの手伝いをするわ。私もその噂の被害者だもの。仕返してやらないと気が済まないわ」
ミューもリベルトも、俺に手伝ってくれるようだ。
その申し出をありがたく思いながら進んでいると、目的地の体術用アリーナへ到着した。
◆◇◆◇◆◇
「やあやあ白金クラスの諸君、はじめまして。体術の担当教師、グラン・モーリスだ。よろしく」
アリーナにクラスメイトが全員揃い、授業が始まる時間になると、そこで待っていた先生が挨拶をした。
その先生は筋骨隆々、着ている運動着もかなりピチピチで、今にも破れるんじゃないかと不安になる程だ。
「今日は体術に関する簡単な説明と、君たちの中から男女一人づつ選んでもらい、その二人にちょっとした組み手をしてもらう」
組み手!?しかも男女で!?
そんなことができるのかと驚いたが、考え直してみたら意外といけるのかもしれない。
何度も言うがこの世界には魔力があり、それに付随して身体強化がある。これは魔力量と魔力操作の精度に従って男女平等に身体能力を向上させ、元の男女の身体能力の差なんて、誤差と言える範疇に収まってしまう。
だとすると、この世界には男女格差は少ないのかもしれない。
男女平等を謳うお姉様方も、これにはニッコリだろう。
「先ずは、体術が学園の授業に含まれている理由だ」
体術がカリキュラムに入っている理由か。前世で体育の授業などがあったため何も考えずに受け入れていたが、よくよく考えてみればどうしてするのか分からないかもしれない。
「どうして体術なんてものを、学園でやるのだろう。そう考える人も、少なくないだろう。今から、その疑問を解消するぞ。最初に、体術は魔法を使うものにとってほぼ必須だ。これを欠いたまま成り上がるのはほぼ無理と言っていい。魔法には間合いというものがある。これは体術にも言えるが、魔法は体術に比べてそれが広く、間合いの内側に回り込まれると、何もできなくなってしまう。そうすると、体術ができなかった場合最弱の魔物の代名詞、ゴブリンにも殺されてしまうだろう」
なるほど、そういうことか。間合いに潜り込まれた時に対処できるよう、体術を磨きましょう。と言いたいのだろう。
「それを防ぐにはどうしたらいいか。それが体術だ。これは魔法の間合いの内側、魔法を使うと自分も巻き込まれてしまうような場所で、相手に対処できるようになるための技術だ。そんなことは万に一つもないだろうが、魔法が使えなくなるようなことがあった時にも使えるな」
魔法が使えなくなった時・・・・・・そういえば、2年前、俺が拐われた時に魔道具で魔法が使えなくなって、父上がフィジカルで対応していたな。
あの時、体術は一通り修めている・・・・・・とか言っていた気がする。
「次は、これからの授業についてだな。体術の授業は全て、ここアリーナで行う。次の授業からは授業前に準備運動を行うから5分前には到着していてくれ。体術の授業は殆どが昼休憩の直後だから、急ぐ必要はあまりないと思うぞ」
うげ、昼休みが若干削られるのか。まあでも、授業が終わってバタバタする必要はないみたいだし、仕方ないことだと割り切ろう。
「よし、これで説明することは全て終わったはずだ。では、今から男女毎に代表を決めてもらおう。話し合いでも何でもいいから、今から10分後に私に教えてくれ」
ということで、俺たちは男女別で集まって話を始めた。




