第35話 図書館
昼食を食べたので、俺たちは雑談をしながら校内の散歩を始めた。
まだ学園に来て2日目で、学園の敷地は全然把握できていない。
俺が知っているのは男子寮の場所と、自分のクラスの教室、そして訓練棟くらいだ。
「何処から行く?4限目は訓練棟で行われるし、そこは最後に回すつもりだよ」
俺は、ミューとリベルトに何処に行きたいか聞いた。
リベルトは静かに首を横に振り、ミューは何やら考え始めた。
この学園の敷地はとても広く、訓練棟のような施設が沢山置かれている。ほとんどの施設はどの生徒も自由に出入りできるようになっていて、ブライア先生が学園を回ってみてと、お勧めしていたのだ。
リベルトは特に行きたいところはないようなのでミューを見つめていると、行きたい場所を思いついたのか声をあげた。
「そうだわ、図書館に寄るのはどうかしら。どんな蔵書があるのか、とても気になるの。寄ってみない?」
なるほど、図書館か。俺は前世でそれなり本を読んでいたが、こっちに来てからはあまり読む機会が無かった。
それに、そもそも家に本が少なかったり、あっても父上の勉強のための本や魔法入門の本だったりで、読書を楽しむというのは、実はなかなか出来ていなかったのだ。
「リベルトはどう思う?俺は図書館に行ってみても良いかな、って思ってるんだけど」
リベルトにそのまま質問すると、彼から特に考えることもなく答えが返ってきた。
「図書館に行くのは、とても良い案だと思うよ。僕も嗜む程度には読むし、この学園の図書館は他の国の学園と比べて蔵書数がダントツで多いらしいからね」
へぇ〜。
この学園の蔵書数が多いと言うのは初耳だ。他の学園にあると言う本の数は知らないので比較する対象がないし、この世界にはどのくらいの本が存在するのかすら知らない。
しかし、それが俺をワクワクさせる。俺の知らない本が大量にあるということが、俺の知的好奇心を誘い、どんな物語がそこにあるのか、興味が唆られる。
早速、俺たちは図書館に向けて歩き出した。
図書館の場所は食堂から西へ少し歩いたところにあるらしい。
少し歩くと、目的地の方角にとても大きな建物が見えてきた。
ぱっと見高さは15メートルほど。横幅は20メートルくらいで、奥行きはよく見えなくて分からないが、とにかくでかい。
「もしかして、あの大きい建物が図書館かな?」
パンフレットを持って歩いているリベルトに聞いてみた。
「うん、場所的に多分この建物が図書館だろうね。それにしても、大きいや。下手な貴族の屋敷よりも大きいんじゃないかな?」
リベルトは周囲の建物とパンフレットを見比べながらそう答えた。下手な貴族の屋敷より大きいって、どれだけだよ。
この国では、騎士爵は屋敷を持つことが許されず、国に与えられた家に住まなければいけない。
よって男爵以上しか屋敷を持つことができないのだが、男爵というものは意外とお金を持っているものだ。
屋敷というのは貴族の顔。普段顔を合わせない平民なんかは、常日頃から屋敷を見ている。
なので、貴族は舐められないよう屋敷を豪華にする必要があるのだ。
一度、父上に連れられてとある男爵家の屋敷へ行ったことがあるのだが、伯爵家であるうちの屋敷と比べると見劣りこそすれ、一般的な日本人男子高校生としての価値観で見ると十分迫力のある屋敷だった。
そんな屋敷より大きいというのだから、図書館の大きさもかなりのものである。
「こんなに大きいだなんて、とても楽しみね。早く行きましょうよ!」
図書館の建物に見惚れていると、我慢しきれなくなったのか、ミューが俺の手を引っ張って走り出した。
それに抵抗する必要はなく、俺も歩みを早めたは良いものの、突然の出来事に反応できなかったようでリベルトが一人ポツンと取り残されていた。
「おいちょ、おいちょっと待ってくれよー!」
何処かで聞いたことのあるような口上を言いながら走り出すリベルトを横目に、俺は図書館へ入った。
図書館へ入ると、流石にルール破るわけにはいけないのか、ミューとリベルトは静かになった。
「ちょっと、急に走らないでよね。驚いたじゃないか(小声)」
「ごめんって。ミューが突然走り出して、握られた手を振り払えれなかったんだ(小声)」
急に走り出したことに機嫌を悪くしたのか、リベルトは小声で俺に文句を言ってきた。
「あれ?そういえばミューは何処にいるんだ?(小声)」
謝罪と弁明をして、俺は突然手を握る感触が消えたことに気づいた彼女がいたはずの場所を振り向くも、そこにはいないので、俺はミューを探し始めた。
図書館の中は大量の本棚が並び、天井は吹き抜けで2階、3階は壁に本が並べられている。
天井の真ん中に吊らされているシャンデリアの明かりに照らされながら、俺は周囲を見渡した。
ほんの数秒前まで手を握られていたので近くにいるはずと探すと、2階で忙しなく動き回り、本棚を物色しているブロンドの髪を見つけた。
「いたいた。あいつ、もうあんなところまで行ってるよ。そんなに楽しみだったのか(小声)」
俺がミューを見つけると、リベルトは俺に聞いてきた。
「君は、今からミュレイ嬢のところに行くのかい?それなら、僕は少し一人で本棚を眺めさせてもらっても良いかな。後で、合流しよう(小声)」
なんだ、そういうことか。全然構わないが、何か一人で見たいものでもあったのかな?
「了解。合流は、そうだな。昼休憩の終わる15分前に図書館前で集まろうか。じゃあ、俺は行ってくるね(小声)」
合流する場所と時間をリベルトと共有して、別れを告げた俺はミューの所へ急いだ。
◆◇◆◇◆◇
「ゼェ、ゼェ、おい、ミュー。勝手に何処かへ消えるなよ。心配するだろ?(小声)」
やっとミューを捕まえた。
あっちこっちへ自由奔放に歩き回って本を眺めるので、追いつくだけでかなりの体力を消耗した。
「どうしたの?リオン。そんなに息切れしちゃって(小声)」
逆になんでそっちは息切れしてないんだよ(逆ギレ)
正直、ミューはどうしてこんなにも動き回ってるというのに疲れた様子を見せないんだろう。
テンションが上がりすぎて、体力とかいう概念を超越したのか?
「ミューがあっちこっちへ行くからね。追いつこうとして疲れちゃったんだ(小声)」
「そうなの?疲れたのなら、私がおぶってあげるよ?(小声)」
?????は?
「ばっ、何を言ってるんだよ。そんなことをしなくても、自分で歩くくらいできるよ」
突然のミューの発言に、俺はつい声を荒げてしまった。
俺がそれに気づいた時にはすでにもう遅い。
「そこ!静かになさい」
何処からか女性が現れたかと思うと、俺は注意されてしまった。これは明らかに俺が悪いので、俺は言い訳せずに大人しく怒られた。
しかし、説教をするでもなくその女性は消えてしまった。
なんだったんだろうと思っていると、ミューが話しかけてくる。
「大丈夫だった?リオン。今の、魔法だったわよ。おそらく、ルールを破った人を注意するためのものね(小声)」
魔法?そういえば、今の人影には顔がなかったような気がする。感じられる魔力にも違和感があったし、ミューの言う通り魔法だったのかもな。
ただ、説教をされると思って下を向いていたため、あまりじっくり見られず女性の人影ということしか分からなかったことが残念だ。




