第34話 魔術理論
俺たちがそれぞれ席に座り、授業が始まる時間になると、早速ブライア先生は話し始めた。
「みなさん、さっきぶりですね。1、2限目の授業はどうでしたか?家庭教師の授業を受けた人も、受けてない人もいると思いますが、慣れないことをして疲れたでしょう。この授業が終われば昼休憩です、後一息なので、頑張りましょう」
俺は前世で義務教育を終え、高校に入って授業を受けていた。
その後しばらくは授業を受けていなかったが、ドールの授業で以前の感覚を思い出した。
そのお陰で、俺は学園の授業も全く苦も無く過ごしていたが、みんなが皆俺と同じような体験をしている訳がない。
少し見渡すと、ミューを除いたリベルトを含む多くのクラスメイト達が明らかに授業に集中できていない様子だった。
「おや?リオン君とミュレイさんは、やる気満々の様ですね。お二人は確か入試で次席と首席でしたし、集中力も人一倍あるのでしょうね」
ほんとすみません。
ミューのそれは、才能によるものか、それとも努力によって得られたものだろう。
しかし、俺の場合前世の義務教育によって無理矢理習得させられたもので、自分の努力の結晶ではないということが、俺の中に申し訳ないという感情が渦を巻いていた。
「他のみなさんも、最初のうちは大変だと思いますけど、しばらくしたら慣れますから。それに、そういう人達に合わせて授業もしばらくはゆっくり進むので、授業についていけなくなるようなことは無いと思いますよ」
そんな話をしばらく聞いて、先生は本題に入った。
「みなさん、改めて自己紹介しますね。私の名前はユーリ・ブライア。担当は魔術理論の授業で、皆さんの担任でもあります。あまり強い口調を使うのは苦手ですが、みなさんと一緒に授業をしたいなと思っています」
先生が自己紹介をしてくれた。
既に一度聞いているのでし知っている内容が多いが、今回のは魔術理論の先生としての自己紹介のため、ノーカンとしよう。
「魔術理論というものは、魔法を使うために必要な、魔法陣を描くためのものです。発動紋から始まり、その数は100を優に超えます。この授業では、それらを覚えたり、組み合わせによって何が起こるのかなどを勉強して貰います」
なにぃ!?響きからして魔法関係の授業だろうとは思っていたが、そこまで重要なものとは。
俺の魔法陣に関する知識は、これまでオリジナルの魔法を作るために幾らかの魔法陣の要素を幾つか覚えて、描き方をドールから習った程度だ。
まさか要素の組み合わせによって起こる現象が変わるとは思いもしなかった。
おそらく、これで魔法を作っていた時に起きてきた、予想外の出来事の大半に説明がつくだろう。
これで、途中でどうしてそれが起こっているのか分からなくなって、やめていた魔法の、開発を再開できそうだ。
「ええっ!100も!?」
先生の言葉に驚いたのか、教室の何処かから声が上がった。
それを聞いて、先生はその声に対してこう答えた。
「なにも、100を完璧に覚えないといけないわけではありません。皆さんが、魔法を使うために覚えた魔法陣の要素もその中に含まれているので覚える数は更に少なくなります。そして、授業は実際に魔法陣を描いたりしながら行うので、とても覚えやすいと思いますよ。最低限の覚えなければいけない要素は、覚える為に確認テストを行いますが、その数も3年間で30個無いくらいです。安心してください」
声に対する反応と、それに付け加えたさりげない授業の説明、俺でなきゃ聞き逃しちゃうね。
正直、覚える魔法陣の要素の数は、俺にとって100個くらいでは物足りないくらいだ。
小中学で嫌になってもう見たくなくなる程漢字や英単語を詰め込まれ、何かを暗記するということは慣れてしまっている。
転生して一番良かったと思うのは、これ以上英語を勉強しなくて済むことだ。
だって、俺らは日本人だぞ。英語なんて勉強する意味無いじゃないか!(激しい掌返し)
そんな訳で、魔法陣の要素を覚えるのはそんなに苦では無さそうだ。
「あっ、これから言うつもりだったことを、間違えて言ってしまいました。気を付けますね。まあ、授業の内容が進んだので、よしとしましょう」
この先生、もしかしなくても天然だな。
天然だ馬鹿だとよく言われていた俺だが、この先生は俺よりも遥かに格上だ。
「しかし、言うことがなくなってしまいましたね。どうしましょう」
よしじゃないのかよ。全く、コロコロ自分の言い分を変える奴は・・・・・・
「そうだ、いっそのこと残りの時間は寝ましょう。私は昨日まで忙しくてあまり寝れていないので、今猛烈に眠いんですよ。みなさんも疲れているでしょうから、今から一緒に寝ましょう。寝たくない人は好きなことをしていて良いですよ」
寝るんだ。
寝るんだ!?
あまりにも想像だにしなかった展開に、一瞬困惑してしまった。
だが、俺は全く眠くない。今寝たら夜が眠れなくなりそうなのでやめておこう。
好きなことをして良いと言われたので、俺は後で魔法陣の要素を組み合わせて実験する為に、これまでに失敗した組み合わせやまだ試していない組み合わせを探し始めた。
◆◇◆◇◆◇
3限目の授業が終わり、昼休憩に入った。
俺はミュー、そしてリベルトと三人で昼食を取ることにした。
学園には食堂があり、生徒は皆そこで昼食を買って食べる。俺たちもその例に漏れず、食堂へ来てそれぞれ自分の食べる物を購入した。
「適当に、ここでまとまって食べようか」
食堂の中を練り歩いて食事をとる場所を適当に決めた。
ミュー達も異論はないようで、早速俺達は昼食を食べ始めた。
「リオン君、君ってほんとに良い人だよね」
食事の途中、急にリベルトが話しかけてきた。
「どうした?藪から棒に」
「だって、僕らは嘘の噂に踊らされて、君に酷い態度をとっただろう?それを許してくれた君は聖人君子みたいなものだよ」
なるほど、そう言うことか。
「別に、リベルト達は何も悪くないじゃないか。俺が恨むのは噂と、それを流した犯人だけだよ」
俺の言葉に、リベルトは大袈裟に言った。
「ああ、君はなんて器が広いんだ。僕だったら、少なからず騙された人たちを恨んでしまうだろうに」
くどい。でも、褒められて嫌な気はしない。
しばらくして全員が昼食を食べ終わったことを確認すると、俺たちは食堂を出た。




