第33話 授業2
1限目の授業が終わり、俺たちは雑談をしたりしながら次の授業が始まるまで時間を過ごしていた。
2限目の始まる5分前になると、先生が教室へやってきた。
その先生は気難しそうな顔をした男性で、これからある授業の教科が薬学基礎ということもあり、俺にハリー◯ッターのスネ◯プ先生を想起させた。
「諸君、おはよう。5分後に授業を始めるから、それまでに席に着くように」
その先生は、そう俺たちに席に着くよう指示を出すと、何処からか椅子を取り出して座り、本を読み始めた。
一体何の本を読んでいるのだろう。少し気になって先生を観察していると、一人の女子のクラスメイトが先生に話しかけた。
「おはようございます、先生。今、先生が読んでいる本は、なんと言う物ですか?私は読書が趣味なので、気になったんです」
どうやら、その女子も俺と同じように先生の読んでいる本の内容が気になったらしい。
初対面の目上の相手に自分から喋りに行けるなんて、度胸があるな。
「うむ?この本が気になるのか。これはリコリス・リキュールの著書で、題名は『如何にして人付き合いを図るか』だ。これから君たちへ授業を行うため、準備しようと読んでいるのだ。私も自分の顔が子供から怖がられやすいの理解しているからな」
意外だ。授業を行うため本で勉強するなんて、想像と180°違う。
こむつかしい本を時間潰しで読んでいるのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「私も、以前は読書が趣味なだけで、人と話すのは苦手だったんです。ですけど、本を読みながらコミュニケーションの勉強を始めて、かなり喋られるようになったんです」
その女子は自分の仲間を見つけたことが嬉しいのか、言葉が弾んでいた。
そうして時間は過ぎて、授業が始まった。
既に皆席についており、授業を受ける気満々だった。
「諸君、初めまして。君らの薬学基礎の授業を担当するグレイ・アーノルドだ。よろしく頼む」
グレイ先生が自己紹介をすると、俺と先程の女子を除いたクラス全体の雰囲気が固くなった。
確かに、強面の人が相手だと緊張するのは分かる。しかし、相手の内面が穏やかだと知っていると、違和感が拭いきれなかった。
グレイ先生はこのクラスの反応に少し悲しそうなリアクションをすると、話を始めた。
「一口に薬学と言っても、それを説明することは難しい。薬学というのは、そのジャンルの中でも更に枝分かれしていて、それら全てを把握し、理解している人はいないと言っていいだろう。しかし、それらも基礎という共通の土台の上に成り立っている。私は、その土台を君たちの中に築いていきたいと思っている」
基礎という漢字は、基の礎と書いて読む。つまりは、それを身に付けてから初めて、先に進んだ薬学を理解できるようになるということだ。これは他のことにも言い換えることができるし、何事も基礎が一番大事だと、俺は考えている。
そんなことを考えていると、先生は更に口を開いた。
「度々、薬学なんて卒業した後はクソの役にも立たないと、のたまう生徒が現れる。が、私は断固としてそれを否定する。薬学は、その程度に差こそあれ、領主になっても、商人になっても、宮廷魔術師になったとしても多かれ少なかれ関わることになる。その時、薬学を修めているのといないのでは、かなり大きな差が開く。実際、私は薬学を疎かにしたまま卒業した者と薬学をしっかりと学んで卒業した者を見比べてそれを実感した。だからこそ、私は君たちに薬学基礎をしっかり修めてほしいと思っている」
そう言えば、前世でも数学は社会に出たら使わない!や古文は学んでも意味がない!と言っている人がよく見かけたな。
出来ない人がそれを僻んでいるだけで、馬鹿らしいと思って話半分に聞いていたけど、こちらにもそんな人間はいたのか。
なんというか、惨めだな。
しばらくして、これからの授業予定を聞き、授業のやり方などを聞いて授業は終わった。
2限目が終わり、3限目が始まるまでの準備時間、クラスメイトと雑談していると、こんなことを聞かれた。
「リオン君、さっきは、噂を丸呑みにして君のことを勝手に疑ってごめん。それでなんだけどさ、どうしてそんな噂が流れていたんだ?事実と違うってことは、どこかで誰かがそれを捻じ曲げたってことになる。悪意が無ければ、そんなことをする人間なんていない。心当たりはあるか?」
噂の出所か。気になってはいるが、それを知ったのは今日の朝で、調べる時間なんてなかった。
「心当たりはないね。あの噂は、どの段階で広まったの?今朝の段階で既にクラス全体に広まっていたようだったけど」
少しでも多く情報を集めたいので、クラスメイトに質問した。
「うーん。確か、昨日の夕方だっけ?そのくらいの時間帯に、A2クラスの男子から聞いたんだ。最初は本当か分からなかったからね、既に知り合ってたこのクラスの友人に聞いてみたんだ。そしたら、その友人も同じ噂を聞いたと言っていてね、信じてしまったんだ。まあ、結局は嘘だったんだけどね?」
A2クラスか。たくさん人を跨いでいる可能性もあるので断定はできないが、そこに真犯人がいる可能性か高いな。
昨日の夕方といえば、そういえば様子のおかしかった男子が一人いたな。俺の名前を聞くと、何も言わずに去っていったんだっけ。
あの男子は誰なんだろうか。まさかの真犯人だったりして。
噂について考察をしていると、ブライア先生が教室へ入ってきた。そうか、これからある魔術理論の授業で担当だと言っていたな。時間を確認すると、後3分で授業が始まる時間だった。
「みなさん、早く座ってください。もうすぐ授業が始まりますよ」
ブライア先生は俺たちに声をかけて、席に座るよう促した。




