第31話 噂
リベルトと魔法の撃ち合いをし、互いの実力を確かめ合った俺たちは、寮へ帰ってきた。
「ねえ、君がリオン・ヒュードであってるよね?」
そして、俺は顔すらも合わせた事の無い人に突然絡まれた。
「う、うん。俺がリオンで合ってるけど」
突然話しかけられて困惑しながらも肯定すると、俺に絡んできた男子は少し目を見開いて、礼も言わずにどこかへ消えてしまった。
「リオン、今のは何だったんだい?」
リベルトも、今のが不思議に思ったようで俺に聞いてきた。
「いや・・・・・・俺もよく分かっていないんだよね。一体、何があったんだろう」
困りながら返すと、リベルトはこう言った。
「さっきの魔法の撃ち合いに関する話がここまで届いたんじゃないかい?それだとしても、名前を聞くだけで去って行ったのは謎だけれども」
冷静に考えて見なくとも、俺が話しかけられる話題なんて今回の魔法の撃ち合い合戦ぐらいしか無い。もし俺の知らない違う話だったとしても、特に俺が迷惑するようなことはないだろう。
◆◇◆◇◆◇
翌日、俺は授業を受ける為教室へ来ていた。
現在の時刻は8:30。朝のHRが始まるのは9:00らしいので、俺はそれまでクラスメイトとの交流を深めるためにも、近くの人に話しかけた。
「やあ、おはよう。俺の名前はリオン・ヒュード。君達、よろしくね」
俺が話しかけたのは、二人で話していた赤髪と青髪の目立つ二人組だ。
最初挨拶をした時は優しく返してくれたのだが、自己紹介の為名前を言うと、突然態度を変え、眉を顰めてこう言った。
「ごめんけど、今俺たちは話しているから邪魔しないでくれ。それに、君みたいな人はあまり好きじゃない」
「そう、邪魔したのならごめん。じゃあね」
最初の話題作りは失敗に終わってしまった。しかし、『君みたいな人はあまり好きじゃない』か。どうして、そんなことを言われてしまったのだろうか、心当たりはまるでないのだが。
自己紹介で名前を言った瞬間、俺は沢山のクラスメイトから視線を浴びせられた気がした。
それは好奇心や興味などのようないいものではなく、屑を見下すようなそんな視線が俺に浴びせられた。
どうしてこうなったと考えていると、後ろで教室の扉が開いた音がした。
誰だと思い見ると、ミューだった。
「リオン、おはよう。クラスメイトとは、仲良くできそうなの?」
ミューは教室を見渡して俺を見つけるなり、こちらにきた。
それと同時に、俺に集まっていた視線が変化して、一部はミューに対する哀れみの念、そして残りは俺への軽蔑をさらに増したものが送られてきた。
モテる男は辛いね(涙)
「おはよう、ミュー。クラスメイトは、仲良くしたくて話しかけたのはいいものの、何故か軽蔑するような視線を向けられて、仲良くしたくてもも出来ないんだ」
ミューに事情を説明すると、彼女はあろうことかこちらを茶化してきた。
「貴方が何か、やらかしたんじゃないの。リオンならやりかねないわね」
「ふざけないでよ。こっちは至って真剣で・・・・・・」
ミューを説得しようと話していると、背後から声をかけられた。
誰だと思い、そちらを振り向くと、そこにいたのはリベルトだった。
「おはよう、リオン君。君に少し聞きたいことがあるのだけれど、答えてくれるかな?」
「おはようリベルト。いいよ、答えられる範囲でなら何でも答えるよ」
リベルトは、声をかけるなり突然こちらに質問をしてきた。
その顔はとても不安そうにしていて、こちらを心配させる。
「あの噂は本当なのかい?教えてくれ」
噂?何のことだろうか。雰囲気的に十中八九俺が睨まれている原因に直結することなのだろうが、俺に噂されるようなことなんてあったっけ。
「噂?ごめん、何のことかわからないよ」
素直に謝ると、リベルトは疑心暗鬼になりながら話を広げた。
「その態度からして、本当に知らないようだね。教えてあげるよ。その内容は、2年前、君は公爵家の弱みを握り、そこにいるミュレイ嬢と婚約させるよう脅した。さらに、今度の入試ではミュレイ嬢と釣り合う順位じゃないと公爵家が恥をかく事になると脅して、不当に結果を改竄させ、次席で合格した。と言うものだ。これは嘘なのかい?嘘ならそうだと言ってくれ。僕は君のことを友人だと思ってるんだ。友人を疑わせないでくれ。そして、僕を安心させてくれないか」
なんて荒唐無稽な話なのだろう。公爵家を脅して婚約させた?入試で不正した?馬鹿馬鹿しい。一体どこからこんな根も葉もない噂が出てきたのだろう。
事実と合っているのは、俺がミューと婚約を結んだことと、入試で次席を取ったと言うことだけ。
チラリとミューの顔をのぞいて見たが、ミューもこの話が理解できないようで、驚いた顔をしていた。
火の無い所に煙は立たないというが、一体その日はどこにあるというのだろう。
俺に訴えてきたリベルトの顔はとても悲しげな雰囲気を纏っており、それを一刻も早く晴らす為にも、俺はリベルトの説得を始めた。
「リベルト、安心してくれ。その噂は嘘だから。ミューとの婚約は互いの意思を尊重した上で話し合って決めたし、入試では俺の実力でこの成績を取ったんだ。昨日、魔法の撃ち合いで俺の実力を知ったリベルトなら、俺の言葉が嘘じゃないってわかるはずだ」
俺がリベルトを説得していると、何故かミューも加勢をしてくれた。
「そうよ、そもそも婚約の時はリオンが一番消極的だったのよ。私は、脅されたとしても嫌いな奴とは婚約しないしね。それに、不正をしてそれでやっと次席なんておかしくない?不正をしていたのなら、そんな中途半端なものじゃなくて首席を取っているはずよ。つまり、リオンは不正も何もない試験で、私に負けたの」
おい、何励ますフリして後ろからナイフ突き立ててきてるんだ、やめてくれよ。サポートするはずの立場が味方を刺してどうするんだ。
ミューの言葉がトドメになったのか、リベルトは安心したようでその笑顔を取り戻した。
「ミュレイ嬢がそこまでいうのなら、僕はリオンを信じるよ。これ以上話を聞いていると、リオン君が可哀想だからね」
どうやらリベルトに人の心はあったようで、ミューの言葉による攻撃は止められた。
とりあえず、リベルトの笑顔を取り戻せてよかった。もし俺が何も解決できなかったらと思うと、何処からともなく出てくるお姉様方に何をされるかわからない。
今の会話は、互いがそれなりの声量で喋っていた。つまり、他のクラスメイトにも聞こえていたはずだ。
今ので多少は影響を与えていることを祈りながらそちらに目を向けると、彼らの俺に対する視線から軽蔑の念は消え去り、興味関心が込められていた。
次第に、彼らはこちらに話しかけてきていつの間にか俺たちの周りに人だかりができていた。




