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Episode13ー4.どうやら閉じ込められてしまったらしい。

 体育倉庫は校庭の端に位置している。

 グラウンドでは朝から運動部が練習に精を出していた。

 ちなみに我が校にインターハイなどの全国的な大会に出られるような、いわゆる強豪と呼ばれる部活などはなく、ガリ勉が集う学校ってイメージが定着している。

 実際に入ってみると別にそんな事はなかったんだけど、俺だってここに入るまではそんなイメージだった。

 そう考えるとアンやチコ、それにタマとレオが入学出来たのは本当に奇跡的だと思う。



 体育倉庫は部活の練習の為か、開けっ放しになっていた。


「暑いし体育倉庫イベントが起きるといけないから、このまま開けっ放しで作業するか」


 俺がそんな事を言うと、美咲は体育倉庫イベントをちゃんと知っているようで、嬉しそうに笑う。


「アルくんって、ラブコメとか結構読む方?私は少女漫画も少年漫画も問わず、ラブコメや恋愛系は結構いけるクチだよ?」


 それは知らなかった。


「え?美咲ってあんまりそう見えないけど、もしかしてオタクなん?」


「ま、人並みにね。アルくんは?」


「俺も人並みだと思う」


 大体人並みのオタクってどれぐらいなのかいまいちわからない。

 取りあえず俺は適当に電子書籍を読む程度。ラブコメだって読むし、バトル物とかも好きだ。

 でも前に美咲の部屋にお邪魔した時は紙媒体ではファッション雑誌ぐらいしかなかった。美咲も漫画に関しては電子書籍派なのかもしれない。

 まあ単行本とか置いておくと、場所を取るからな。



 そして俺達は手順書に従って、備品のチェック。破損はしてないか、数は揃っているかのチェックなんだけど、これと言った不備は特になかったし、チェック項目も少なかった事から順調そのもの。作業を始めて30分程で終わってしまった。


「いやぁ、思ったより早く終わったねぇ」


 作業量は少なかったけど、ペースを考えずに作業したからかちょっとへばってしまった。

 持久力系のトレーニングとかあまりしてないのが原因かな?

 ちなみに美咲もあまり持久力はないらしく、しかも暑かったのもあって少し上気した顔でマットに腰掛けて一息ついている。


「ちょっとここで待ってて。すぐ戻る」


 俺はそう言うと、体育倉庫を出て近くの自販機でスポーツドリンクのペットボトルを2本購入した。

 出てきたスポーツドリンクはこの暑さに全く負けずによく冷えている。

 それをもう一度体育倉庫に持って行くと俺はそれを後ろ手に持って隠す。


「どうしたの?アルくん」


「うーんそうだな……ちょっと向こう、向いててくれないか?」


 不思議そうな表情をした美咲は、言われた通り、だけど不思議そうなその表情は変えずに後ろを向く。

 俺はそんな無防備な美咲に近付き、ペットボトルを美咲の頬に当ててやった。

 ラブコメ漫画にありがちなシチュエーションの1つを真似した感じだ。


「ひゃっ!」


 小さな悲鳴を上げる美咲。そして俺を見上げて抗議の視線を浴びせる。


「もうっ、私がラブコメ好きじゃなかったら、これってただの嫌がらせだよ?」


 そう言って、スポーツドリンクを受け取ると満面の笑みを浮かべて「ありがとっ!」と礼を言うのだった。



 やっぱり美咲も喉が渇いていたのだろう。ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。

 美咲みたいな爽やか系美少女がこういうふうに飲むと、まるでスポーツドリンクのCMみたいだ。


「ん、どうしたの?」


 俺の視線に気付いた美咲が俺を覗き込むように見上げてきた。


「いや、美味そうに飲むなって思ってさ」


 俺がそう言うと、美咲は少し恥ずかしくなったのか「もうっ、あんまり見ないで!」って言って、俺の背中を軽く叩くのだった。

 いや、でも結構痛い。




「あ、あのさ、アルくん」


 美咲はスポーツドリンクを半分程飲んだところで一旦キャップをし、顔を俯かせて俺に話しかけてきた。


「せっかく体育倉庫に来たんだしさ、体育倉庫イベントみたいな事、してみない?」


 美咲は何を言ってるんだ?

 俺が不思議に思っていると俯いていた美咲が立ち上がり、一度俺の顔を見て微笑んだと思ったら、おもむろに出入口に近付き扉を閉める。

 少しずつ細くなっていく外から差し込む光。

 そしてその光は完全に遮断され、残ったのは真っ暗な空間だった。

 まさか体育倉庫を閉めるとこんなに暗くなるとは想像もしなかったな。


 パチッ


 そしてそんな暗闇を照らす人工的な光。

 美咲が出口付近にあるスイッチを入れ、天井の蛍光灯に光が灯る。


「体育倉庫イベントって、結構緊迫感がありそうなのに、思ったより平気なもんだね」


 美咲が振り返り、まるで拍子抜けって感じでヘラッと笑う。


「そりゃな。あんな都合よく閉じ込められる事なんて、そうそう無いだろう」


 ガチャン


「え?」「え?」


 あれ?何だか嫌な音が……。

 すると美咲も驚いたみたいでまた振り返って扉を開けようと引っ張る。


「ど、どうしよう……。アルくん……開かない」


 不安そうな表情で美咲は振り向く。


「いやいや、そんな漫画みたいな事……」


 俺も扉に手をかけて引くけど……ビクともしない。


「うわっ、マジかよ……」


 俺と美咲は熱の籠もるこの体育倉庫に閉じ込められてしまった。


「美咲さ、電話って……」


「ごめん、生徒会室に置いてきた」


「ああ、俺もだ」


 俺も小銭持ってきてたならスマホも持って来いよ!なんて自分にツッコミを入れる。


「まあそのうち遅くなったらアンが来るだろう。無駄に動いて汗かくよりジッとしてようぜ。幸い飲み物もあるしな」


 そう言って俺はマットに座り、半分ほど減ったスポーツドリンクを一口飲む。

 暑さのピークは越えたとはいえこの気温だ。とにかく熱中症に注意しないと。


「うん、そうだよね!」


 そして美咲の方も閉じ込められた悲壮感など全く感じさせない表情で俺の隣に座ったのだった。





「あの漫画のラストはそれはそれで納得だけど……でも個人的には次女が一番好きだったなぁ。私って昔から負けキャラが好きになるタイプでさ。だから古い漫画だけど、西園が勝った時は嬉しかったなぁ」


「本当に俺達って読んでる漫画、被ってるんだな」


 美咲は今まで読んできた漫画の中で、俺に気を使ったのか特に少年漫画のラブコメの話題を楽しそうに語る。

 それにしても俺達がまだ生まれる前の漫画までしっかり読んでるなんて、なかなかやるな。

 まあそれを読んだ事のある俺も俺だけど。


 ふう、それにしても暑いな。

 閉じこめられてからどれぐらい経っただろう?

 時計がないからわからないけど、スポーツドリンクの減り具合やまだそれ程温くなってない事を考えると、それ程時間が経ってない事はわかる。


「暑……」


 だけどこんな日差しを遮る物がない無い校庭の中にある密閉された空間に閉じこめられたんだ。

 暑くなるのも当たり前か。


「あのね、アルくん。人間クーラーって知ってる?」


「いや、聞いたこと無いな」


 美咲が妙な事を聞いてくる。

 人間クーラー?お互いに何かで扇ぎ合うとかか?


「これはね。古代のエジプトの話なんだけど……」


 美咲が言うには、エジプトでは気温が50℃を超える日がザラにあったらしく、そんな日の王侯貴族は奴隷の肌と密着して、涼んでいたらしい。

 確かに50℃の気温と比べたら人間の体温の方がはるかに冷たいからな。


「ね……アルくん……私、すごく暑くてさ。試してみる?」


 美咲が俺を見上げながらそんな提案をしてくる。


「でもさ、美咲は嫌じゃないのか?彼氏でもない男と密着するなんてさ」


 俺が美咲に気を使って尋ねると、美咲は弱々しい笑顔で俺を見つめてきた。


「他の男の子なら嫌だけど、アルくんなら……ううん、むしろ私はアルくんが良い……かな?アルくんはタマちゃんの事、考えてるんだよね?だったら大丈夫。今は緊急事態なんだから」


 ああ、暑くて考えが纏まらない。

 でもそうだよな。

 このまま熱中症になったら2人とも命の危険もある。

 今は緊急時だ。

 俺はそう自分に言い聞かせる。


「美咲、ちょっと汗で気持ち悪いかもしれないけど……」


「ん、大丈夫」


 そう言って美咲は腕を広げる。

 俺はそんな美咲に引き寄せられるように、案外華奢で細いその体に腕を回して抱き締めたのだった。

 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 ブックマークやご感想などはお気軽にどうぞ。


 それではまた次回♪

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