Episode13-3.どうやら閉じ込められてしまったらしい。
家から学校までは徒歩10分。
これは比較的歩幅の小さいアンやチコだと14分程になる。
いつも3人一緒に登校してるんだけど、今日はアンと俺の2人きり。
アンは気分が良いのか、「今日はアルちゃんこき使う~♪」なんて不穏な歌詞の鼻歌混じりで歩いている。
本当に何も考えずに見たらとても18歳には見えない。
中学生、下手したら小学生にも見えるアンなんだけど、精神的には案外大人だったりする。
だけど今の行動は子供そのものだ。
「そう言えばさ、アンってなんで生徒会長に立候補したんだ?」
考えてみたら、聞いた事がなかった。
ウチの高校は1年に1回、9月下旬に生徒会選挙がある。
俺が1年の時、そう、まだ俺とアンが隣同士で一緒に暮らす事になるなんて夢にも思ってなかった頃だ。
その時の俺はまだ1年生。選挙ポスターもろくに見てなかった俺が悪かったのかもしれないけど、演説会の日、壇上に立ち演説するアンを見た時は自分の目を疑った。
しかも普段の緩い雰囲気とは打って変わってしっかりとした演説。
不覚にもアンの事を格好いいと思ってしまった事は、もちろん本人には恥ずかしいから言ってない。
「クラスの友達に言われたの。『あんた、勉強は出来ないけど、人気あるんだから試しに立候補してみたら?』ってね」
そう言ってアンは苦笑する。
「それに私、あんまり勉強が得意じゃないから、生徒会長をする事でちょっとは進学に有利になるかな?って考えて立候補したの。結局会長候補は私だけで、信任投票になったから不信任が1票だけで運良く受かったんだけどね」
そういう事か。勉強は出来ないくせに、妙に計算高いアンらしい理由だな。
「そうか、結局俺だけだったんだな、不信任に投票したのは。あの時はアンの性格上、どうせ周りに流されて嫌々立候補したんだろうなって思ってたから、そうしたんだけどな」
「まあ実際はアルちゃんの言う通りだったんだけどね。けど、それにしても酷いなぁ、アルちゃん」
アンはその言葉とは裏腹にすごく嬉しそうな笑顔を見せる。
「まあそれも、私と長く付き合ってきたアルちゃんならではだよね!でもあの不信任票だけど、当時は結構ショックだったんだよ?」
「悪いな。記名方式ならちゃんと名前書いてたんだけどな」
俺が軽く謝るとアンは首を振る。
「ううん、全然!あの不信任票がアルちゃんだってわかって今はすごく嬉しいよ。それってアルちゃんが、私の事をちゃんとわかってるって証拠だもん」
そう言ってアンはもう一度笑顔で俺を見上げるのだった。
「でもこの体育祭で生徒会長としての仕事も終わりかぁ……。面倒だったし大変だったけど……それ程面白い事もなかったなぁ。本当、生徒会長なんて、なるもんじゃないね。こんな事なら家で勉強してた方がよっぽど有意義だったよ」
いやいや正直過ぎるだろう。そこは嘘でも大変だったけど楽しかったとか言っておけよ。それにたとえ生徒会長にならなかったとしても、絶対に勉強なんてしてなかっただろう。
まあ、アンがこんな事言える相手って多分俺を含めた家族だけなんだろうな。
そんな事を話していたら学校に着いた。
タマと美咲には9時半に生徒会室に集合って言ってある。
俺とアンは9時10分に到着し、そして生徒会室に入る。
何気に俺は生徒会室に入るのは初めてだ。
それ程広くはない室内には壁際に書棚とそして長机が2台にパイプ椅子が4脚置いてある。
「何だかイメージと違ったな。生徒会室って会長専用のデスクとかがあって、副会長がお茶を入れてくれたり、みんなでコント染みた事でもしてるのかと思ってた」
「アルちゃん、漫画の読み過ぎ」
そう言って苦笑しつつ、アンは冷房を入れ、書棚の引き出しを開けて書類を取り出す。
「これが今日の手順書ね。アルちゃんと美咲ちゃんに担当してもらいたいのはこの部分ね」
アンが俺を椅子に座らせて、後ろから抱き付くような感じで俺の肩に顎をのせて書類を見せる。
アンって何だか良い香りがするな……って、近い近い。それにこんな場面を誰かに見られでもしたら、生徒会長の一大スキャンダルになるんじゃないのか?
「アン、近い。暑い」
俺がそう言うとアンは少し不機嫌な表情になりながらも俺の座っている隣に椅子を置き、並んで座りながら説明してきた。
「おはようございます!」
そうこうしているうちにタマと美咲もやってくる。
現在9時15分。結構危なかったな、アン。
って事で俺は生徒会室から締め出されてしまった。
女子3人が体操服に着替える為だ。
俺は3階の生徒会室から中庭を見下ろす。
色とりどりの花が以前よりかは少し緩んだ夏の日差しに照らされて、みずみずしく咲き誇っている。
この中庭の花壇を管理してるのはレオ率いる我が校最大の部員数を誇る園芸部だ。
なんでも1つの教室に入りきらないぐらいの人数で、レオ以外はみんな女子だって事だ。
モテモテだな、レオって。
あ、よく見たら、レオが他の部員数名と一緒に花の水やりをしている。
「うんうん、レオくん、今日もしっかり頑張ってるね」
いつの間にか体操服に着替えたアンが俺の隣に立って中庭を見下ろす。
「そう言えば、アンってレオと知り合いだったよな。なんで知ってたんだ?」
「ああ、レオくんね、園芸部の部長だから、春の部長会議で知り合ったの。部員数多いから部費の配分も多いしね」
おお、レオって2年生にして部長をしてたんだな。それは意外だった。
「アルくん、お待たせ!」
美咲が後ろから声を掛けてきた。
タマも続いて生徒会室から出てくる。
「じゃ、俺も着替えてくるわ」
そう言って俺は生徒会室に入り、ちゃっちゃと体操服に着替えたのだった。
手順書によると俺と美咲の仕事は全て体育倉庫内で完結する作業だった。
俺と美咲はアンとタマの2人と別れて体育倉庫に向かうけど、ちょうど通り道の中庭に寄っていく。
「レオくん、今日もお疲れぇ!」
「アルくんに委員長!おはよう!」
レオが俺達2人を見て笑顔で挨拶をしてくる。
俺達が何故学校にいるのかとか、そんな細かい事はどうでも良いみたいだ。
「レオくん♪誰と話してるの?」
すると数人の園芸部員が寄ってきて、俺を見て何故か凍りついたように動きを止める。
「……や、山田……アル……!」
部員の1人、かなり派手なギャルっぽい子が俺の名を呟く。
いや、俺の本名って山田有真人なんだけどな。まあ俺の愛称が浸透しているようでちょっと嬉しい。
何だかその部員達は暑いのかそのギャル部員以外は揃って頬を赤く染めて、俺とレオをキョロキョロと見比べている。
そしてギャル部員に関しては何故か俺を上目遣いで睨む。
ああ、そうか。レオに話し掛けたいけど、俺がいると話しにくいんだろうな。
「じゃあな、レオ。俺達、しなきゃいけない事あるから、もう行くわ」
そう言って俺はレオの頭をポンポンと軽く叩く。
「はぅっ……!」
女子部員の1人が頭を抑えて力が抜けたように膝から崩れ落ちそうになっている。おいおい、大丈夫かよ……?
ギャルっぽい部員に支えられたその女子部員は何だか幸せそうな表情になっていた。
いったいどうしたって言うんだ?
「おいおい、大丈夫か?」
「ヒッ!」
俺が声を掛けるとその女生徒は他の部員と共に後ずさる。
いや、そこまで怯えなくても……。
「アルくん、そろそろ行こ?」
美咲が俺のシャツをクイクイ引いてきた。
「え?でもさ……」
「良いから、大丈夫だから!」
何故美咲が大丈夫だってわかるんだろう?
俺はその倒れそうになっていた女生徒を心配しつつもその場を離れたのだった。
「大丈夫なのか?熱中症とかじゃないか?あの人」
体育倉庫に向かう道すがら、俺は先程の園芸部員を心配すると、「あの子達はあんまり慣れてないから……」と、あの部員達程では無いにせよ、少し顔を赤くした美咲がそんな事を言うのだった。
「そっか、まあよくわからないけど、美咲もちょっと顔赤いぞ?大丈夫か?」
俺がそう尋ねると、美咲は顔を逸らしつつ聞こえるか聞こえないかのような微かな声で「もうっ、誰のせいだよ」と呟いたのだった。
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