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Episode13-5.どうやら閉じ込められてしまったらしい。

「……どうかな?アルくん」


 密着させた体から美咲の体温が伝わる。


「ちょっと熱い」


「そっか……実は私も」


 美咲は赤く染めた顔で微笑んだかと思うと、少し名残惜しそうな表情に変わり、俺から離れる。

 美咲の体が熱く感じたって事はこの倉庫の気温はまだ36、7℃に届いてないって事か……。まあいくら密閉されてるとはいえ、短時間だしな。

 結構暑くは感じるんだけど、これってやっぱり暑さだけでなく湿度も関係してそうな気がする。


「えっと……ごめんね、アルくん。浮気っぽい事させちゃって。あと、あの……怒らないでほしいんだけど……」


 そう言って美咲はおもむろに立ち上がると、倉庫の出入口に向かい、いきなり照明を落とす。

 何の予告もなく消されたので、真っ暗で何も見えない。


 ガチャン


 ん?今、ガチャンって……。


「ごめんね、アルくん。実はこの扉、内側から鍵の開け閉めが出来て、さっきは私が後ろ手に鍵を閉めたの」


 そう言いつつ、美咲が体育倉庫の扉を開けると、爽やかで涼しげな空気がやんわりと感じられた。

 え……?じゃあ今までの美咲のしてきた事って、全部演技だったのか?

 しかも内側から開閉が出来たなんて……。って俺もそれに気付けよ!


「さっき、漫画みたいなジュースの渡し方をしてきたから、体育倉庫イベントを装って仕返ししてみたの。どうだった?アルくん」


 出入口で逆光を背に、おそらく美咲は悪戯っぽい表情をしているんだろう。


「そうだったんだな。全然気付かなかった。恐れ入ったよ」


 俺は腰が抜けたって訳じゃないけど、まさか美咲がそんな悪戯をしてくるなんて思ってもなくて、まだ立ち上がれないでいた。

 美咲はそんな俺に手を差し伸べる。


「私はね、結構楽しかったよ!好きな漫画の事も語れたし、ラブコメシチュエーションや人間クーラーまで試せたしね」


「まあ楽しんでくれたのなら何よりだ」


 俺は美咲の手を取って立ち上がる。そうか。美咲は人間クーラーを試してみたかったんだな。

 そうして俺達は体育倉庫を出る。

 毎日暑い日が続くなって思っていたけど、体育倉庫から出てすぐに感じた空気は秋の香りも少し含まれているような、そんな気がした。


「今日は結構涼しかったんだな……」


「うん、もうすぐ2学期だもんね」


 俺が独りごちるとそれを聞いた美咲が嬉しそうに返事をする。


「あのさ、アルくん!私、また色んなラブコメシチュを試してみたいからさ。もし良かったらこれからも付き合ってね!」


「ま、事前に言ってくれたら付き合うからさ、これからはこんなドッキリみたいな事はすんなよな」


 満面の笑顔でそんな事を言ってくる美咲に対して、俺はそう釘を刺したのだった。




 生徒会室に戻るとアンとタマはすでに作業を終えたのか、体操服のまま寛いでいた。

 エアコンの効いた部屋に入ると一気に汗も引いていくような気がする。


「2人とも、お疲れ様」


「お疲れ様でした」


 アンとタマが俺達を労ってくれた。

 部屋の時計を見ると11時過ぎ。

 作業を開始したのが10時頃だったから、体育倉庫に閉じこめられていた時間はだいたい2、30分ってとこか。

 思ったより長く閉じこめられてたんだな。

 それでもあまり退屈しなかったのは、美咲がいたからなんだろう。


 俺と美咲も椅子に座って一息つく。


「何かあったの?随分汗だくだけど」


「いや、暑かっただけ」


 さすがに何があったかなんて言えない。

 特にタマの前だしな。

 あの時はもしかすると俺も美咲も暑さで正常な判断力を奪われていたのかも知れない。

 アンやクリスとの事も含めると、タマに言えない事がどんどん増えていくようで、何だか罪悪感を覚えてしまう。


 顔を上げるとタマの笑顔が正面にあった。

 そして俺がジッと見ると、少し赤くなって目を逸らす。

 そう言えばタマは今日もメガネをしていない。

 前はクリスみたいなメイクだったけど、今日はナチュラルメイクだ。

 2学期もその姿で出てくるのかな?

 だとすると、鮮烈な新学期デビューを果たしそうだな。





「あのさ、この後みんなで食事に行かない?」


 アンが俺達にそんな提案をする。

 そうだな。俺も家に帰って昼食の準備をするのはちょっと億劫だし、それで良いような気がしてきた。

 俺は奈緒にrineを入れて、お昼はチコに作ってもらうように伝える。


 それにしても憧れの生徒会長のイメージを守るアンってそれはそれで大変だな。

 本来なら1秒でも早く家に帰りたいだろうに。


 こうして俺達は着替えを済ますと一緒に学校を出る。

 家を出たときよりも幾分高い位置に移動した太陽は、俺達4人を容赦なく照らすのだった。




 俺達がやってきたのはクリスが何度か泊まっているホテル。

 そのホテルのビルにはレストラン街が併設されていて、ヨネダコーヒーを始め色んなレストランや居酒屋があったりする。

 俺達が入ったのはその中でも特に激安で有名なイタリアンをベースとしたファミレスだった。


 店に到着したのが12時前。

 すんなりと座れて良かった。

 食事は4人ともドリンクバー付きのランチを頼む事にした。


「あ、アルくん、ドリンクバー、一緒に行っても良いですか?」


 いや、ドリンクバーなんて好きな時に行けば良いのでは?なんて思ったけど、タマの場合は全く違った。

 俺がコップをとり、氷を入れて烏龍茶を入れる。その仕草をマジマジと観察しているのだ。


「あのさ、タマ。もしかして……」


「ふふっ、ど、ドリンクバーなんてもう慣れっこよ」


 まだ何も聞いてないんだが……。

 それにしてもタマの含み笑い、久々だな。


「タマ、深呼吸。で、正直に言ってみ?」


 すると深呼吸したタマは正常に戻る。


「じ、実は初めてでして。ドリンクバー……」


 はい、よく出来ました。

 それにしても意外だったな。

 こう言うのって、友達同士で来る機会とかあったりしないんだろうか?

 って、俺も考えてみりゃアンとチコ以外の誰かとドリンクバーのある店には来たことないんだけどな。


「あのさ、タマって普段遊びに行くような人って……?」


 するとタマは少し焦ったように視線をキョロキョロさせる。


「え、えっと、佐藤さんとママとクリスちゃんが……」


 って身内が2人程入ってるし。それに俺の知る限り美咲と知り合ったのって5月だし。

 そうか。タマも俺に負けず劣らずのぼっちだったんだな。

 俺が言うのもなんだけど、タマって女子高生としてちょっと枯れすぎてないか?

 まあ良いか。

 それを言ったら俺も男友達なんて、性別が行方不明気味のレオだけだし。

 でもまあ友達付き合いが希薄で、親とこういうファミレスとかに来てないのなら、ドリンクバーを知らないってのも無理はない。


 でもドリンクバーなんていくらタマでも一目見たら覚えるだろう。

 実際タマは俺の烏龍茶を入れている姿を見て、自分もしっかりジュースを入れていたしな。

 これからはタマもドリンクバーのある店に入っても楽しむ事が出来る事だろう。

 ただタマと付き合っていく上で、こういったタマにとっての色んな初めてってこれから先も出てくるんだろうな。

 俺もそれ程人生経験がある訳ではない。

 むしろタマよりも4ヶ月ほど生まれが遅いんだけど、俺って彼氏としてちゃんとやっていけるのか、ちょっと不安になってくる。

 まあなるようにしかならないか。


「ああ、そう言えば。タマ。この後時間あるか?」


 俺はとある事を思い出し、タマに尋ねてみたのだった。



 食事中の話題はやはりタマとクリスとの事が話題の中心になった。

 クリスは何故か毎日のようにrineで三葉さんやタマとのやり取りを詳細に送ってくる。

 タマはそんなクリスとのやり取りを話すんだけど、クリスの報告と見事に一致していた。

 俺はタマのその話を聞いて、クリスの顔を思い浮かべつつ昼食をいただいたのだった。

 

 ここまで読んでくれてありがとうございます!


※今回のお話で、体育倉庫に閉じ込められる演出がありましたが、昨今の暑さでこれをすると、熱中症の危険があるためする真似はしないようにお願いいたします。


 ブックマークやご感想などはお気軽にどうぞ。


 それではまた次回♪

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