Episode11-5.どうやら俺達は見つかってしまったらしい。
「お待たせ、アルくん」
今日は駅のコンコースで待ち合わせ。いつものベンチに座って待っていたら委員長がやってきて、隣に座る。
「いや、今日はタマ達が来る事もないんだし、座らなくて良いんじゃね?」
「ああ、そう言えばそうだったね」
すぐに委員長は立ち上がる。
「で、今日はどこに行くんだ?」
実は行き先を知らされてなかったりする。
まあ日帰りで行けるとこならどこでも付き合えるんだけどな。
「えっとね、今日は名古屋!」
この駅から名古屋までは急行で40分も掛からずに行けるって事で、この辺りの人間は何かと名古屋に繰り出す機会が多い。
まあ俺はあまり自発的に行こうとは思わない。アンやチコに引っ張られて荷物持ちとして行く事がある程度だ。
「実はね、もうすぐお盆でさ。ちょうど従兄弟の男の子もこの時期誕生日で毎年会う度にプレゼントの交換をしてるの」
って事でプレゼントを買いにきたらしい。
ちなみにその従兄弟は現在中2。って事で、俺に意見を貰いたいらしい。
「ちなみにアルくんだったら今何が一番ほしい?」
「……トレッドミル……?いや、クロストレーナーかな?」
これなら室内でも運動不足の解消になるもんな。
すると委員長はスマホでそれを検索する。
「って、そんなトレーニング機器なんて無理に決まってんじゃん!」
そう言って軽く俺は軽く叩かれたけど結構痛い。
「予算は?」
「5000~1万円ぐらいまでかなぁ?」
うーん、それぐらいだったら、俺としては高級調味料のセットとかが嬉しかったりするんだけど、俺も結構世間からズレてるから参考にならないよな。
そうだなぁ……。
「ヘッドフォンとかどうだ?音楽に興味があったら喜ばれるし、興味が無かったとしても中2男子ならそれをきっかけに音楽にハマるかもしれないしな」
すると委員長は目から鱗が落ちたかのような表情になる。
そこは全く考えてなかったようだ。
「確かに、それなら値段も色々あるだろうし、それが良いかもね!よし、見に行こうよ!」
そう言って俺達は電器屋の方へ向かったのだった。
「うん、やっぱりアルくんを連れてきて正解だったよ。私だったらヘッドフォンなんて多分思いつかなかったもん!」
ちなみに委員長が購入したのはワイヤレスのヘッドフォン。見た目が機械的で中2男子の好きそうなデザインだ。
目的は果たしたんだけど、委員長はまだ色んな場所を見ていきたいって言ってたから俺もそれに付き合う。
基本は委員長のファッション関連だけど、たまにメンズの店とかに寄ったりして「あれってアルくんに似合いそう!」とか、まるでデートのように店を回ったのだった。
そしてお昼時。俺達は駅ビルのレストラン街で食事を楽しむ。
今回のお店はオムライスで有名な店にした。
「やっぱりアルくんと一緒にいるとすごく楽しいな。本当、こんな素敵な彼氏がいるなんて、タマちゃんが羨ましいよ」
委員長が窓から見える景色を眺めながら呟く。
いや、反応に困るから、そんな事を言われると。
「お褒めに預かり光栄です」
結局俺はこんな冗談めかした事しか言えなかった。
だいたい委員長みたいな気が利いてスタイルも良くて美人なら、俺より良い男を捕まえる事も出来そうなもんなのにな。
「でさ、前に言ってた委員長の好きな奴って、その後は進展あったのか?」
俺は強引に話題を切り替える。まあ実際に俺も気になってた事だ。
だいたいこんな所で彼女持ちの男を連れて買い物するよりも、もうちょっと勇気を出して、そいつを誘った方が良いと思うんだけどな。
「んー、そうだね。2歩進んで3歩下がるって感じかな?」
いや、後退しちゃダメだろうに。
でもそんな委員長は、まあ実際にかなり美味しい濃厚な卵を使ったオムライスだったんだけど、すごく幸せそうな表情でそれを食べている。
そんな委員長の表情を見ていると、俺が心配する事でも無いのかもしれないな……なんてそんな考えも浮かんできた。
「あ、それと、アルくん。レオくんもそうなんだけど、その私を『委員長』って呼ぶの、あんまり好きじゃないなぁ。せっかくここまで仲良くなったんだしさ、名前で呼んでよ」
委員長は多分演技なんだろうけど、少し不機嫌そうな表情でそんな事を言う。
「えーっと、佐藤、で良いか?」
「えー!?それじゃ日本に180万人以上いる佐藤さんと同じじゃん!せめて名前で呼んでよ」
えーっと、確か委員長の名前って……美咲だったよな。でも美咲ってそれほど珍しい名前でも無いような気がするぞ?
「じゃあ美咲、で良いか?」
ちょっと恥ずかしい。まあでも考えてみれば俺って基本的に誰に対しても呼び捨てだしな。クリスなんて初めて会った時からそんな感じだったし、まあ良いか……。
ただ言われた方の委員長改め美咲は何だか顔を赤くしてる。恥ずかしいのならそんな事言わなきゃ良かったのに。
「ちょ、ちょっと照れちゃうね……」
「じゃあ委員長に戻すか?美咲」
俺はそんな照れている美咲に対して少しからかい気味にそんな提案をしてみた。俺もちょっと恥ずかしかったから、その仕返しだ。
すると美咲はまるで身を乗り出さんとするような勢いでテーブルに手を掛けて「そっ、それはダメッ!」と、焦ったような赤い顔で俺の提案を拒否するのだった。
「そっかぁ……。アルくんって結構ドSだったんだね」
食事が終わった後、俺達は駅ビルに隣接する数年前にできたビルに移動し、1階ずつ店を見ながら下の階に降りていく事にした。
そして美咲は一緒に歩く俺を見上げながら、そんな事を言ってくる。
そうか、俺ってドSだったのか。
「何だかね、私をからかっている時のアルくんてさ、何だか妙に楽しそうな表情なんだもん。こりゃタマちゃんも大変だ」
俺ってそんな表情をしてたのか……。やっぱり自分では気付かないもんだな。
何だか特に最近、そんな事を指摘される事が多くなってきたような気がする。
表情筋が死んでいるってのはレオの言葉だけど、俺も遂に表情が豊かになってきたのだろうか?
「でもアルくんもさ、以前よりは、本当に微かなんだけど、色んな表情を見せるようになってきたね。もしかしてタマちゃんのお陰かな?」
それにしても、そんな変化に気付くなんて、美咲の観察力もたいしたものだ。
結構俺の事、ちゃんと見てくれてるんだな。
そして少しずつ店を見ていきながら下の階に降りていくと、ビルの吹き抜けから、マイクを通した女性の声が聞こえてきた。
「えー、皆様、お集まりいただき、誠にありがとうございます!本日のZop-FM『アフタヌーンチャージ』は公開収録。そして本日のゲストは引き続き、現在『vis』の専属モデルで『10代女子のカリスマ』、橋田クリスさんをお招きしてお送りしています!」
それが聞こえた俺と美咲は吹き抜けから下を見る。
いや、この階はまだ高過ぎて、ちゃんと見えないな。
「もしかして、美咲、知ってた?」
すると美咲はフルフルと首を振る。まあ確かに美咲は読んでる雑誌が違うっぽいし、タマほどクリスを崇拝している事もないしな。
っとなると、また偶然かよ?
「えーっとどうする。見に行くか?」
俺が美咲に尋ねると、美咲は笑顔で俺を見上げる。
「うん、私、仕事中のクリスをいっぺん見てみたい!」
って事で、俺達は下の階に降り、2階から吹き抜けを見下ろしてみた。
吹き抜けの1階部分にある催事場には今日の為にステージが組まれたのだろう。
そこの壇上には先ほど話していたラジオパーソナリティの女性と一緒にクリスが立っていた。
今回はアウトレットモールで見たときよりもステージが近く、クリスの表情もしっかりと見えている。
「おおっ、何だかクリスが芸能人っぽい事してるよ、アルくん!」
美咲はクリスの事を何だと思ってるんだか……。
「それにしても、この番組も何回か公開収録してますけど、ギャラリーがここまで若い女性達ばっかりなのは初めて。さすが若者に絶大な人気を誇っているだけありますね!」
パーソナリティが観客達を見ながらクリスを褒める。
するとクリスは少し照れたような表情になった。
「あはは……。そうですね。まさかこんなに観客が集まっていただけるなんて……」
喋りながらクリスは1階を見渡し、続けて2階を見回す。
あ、クリスと目が合ってしまった。
その瞬間、クリスは芸能人にあるまじき表情を一瞬だけ見せたんだけど、すぐにいつもの微笑みの表情に戻ったのだった。
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