Episode11-6.どうやら俺達は見つかってしまったらしい。
「あはは……多分、私達、見つかっちゃったね。もしかしてクリス、誤解しちゃうかも……?」
そう言って美咲は笑うけど、後で弁明するのも面倒なので、俺はクリスにrineを入れる。
《今日は美咲を連れてるけど、タマにはちゃんと言ってあるから誤解しないように!》
本当にクリスが誤解するかどうかはわからないけど、念には念を入れてそう送っておいた。
公開収録は2時間の予定だったようだけど、俺達が見物出来たのは後半の1時間だけだった。そしてクリスはどうしても俺達の事が気になったのか、収録中、チラチラと何度も見てきた。
「あはは、クリス、私達の事、めっちゃ気にしてたね」
そりゃ気になるだろう。
だけどそこはプロだけあって、何事もなくこなしていた。俺達と同い年なのにそこはすごいと思う。特に身近な存在だから余計にな。
俺ってそんなすごい人に好かれてるのか……。
「もちろん私は今もアルの事が好き。だけど別にそれって私が我慢さえしてれば、友達を続けられるよね?って、そう考えるようにしたの」
先日、クリスから言われた言葉を思い出す。
多分クリスは俺に対して何か幻想のようなものを抱いてるんだろう。
そうでないと、俺を好きになる理由なんて思い付かない。
そうだな。せめてクリスが俺に抱いている幻想が、現実となるように俺も立派な男にならないと……。
俺はそんな事を考えつつ、公開収録を終えて誰もいなくなったステージを眺めていたのだった。
公開収録が終わった後、俺と美咲はその後もぶらぶらとしつつ、夕方頃に名古屋を出たのだった。
「あのさ、俺、夕食の買い物してくから、先帰るか?」
時間は16時。買い物をしても充分明るい時間帯に帰れるような時間だ。
「うーん……もし良かったら、私も買い物に付き合って良い?料理上手なアルくんが、普段どんな店で買い物するのか知りたいしさ」
買い物を一緒にするのってそんなに楽しいか?
でも考えてみたら、今日は俺も美咲と一緒に買い物出来て楽しかったしな。
まあ別に良いか……。
こうして俺と美咲は2人で我が家の夕食の買い物をする事になり、いつも通り魚正のおっちゃんに冷やかされつつ買い物を済ませたのだった。
そして俺と美咲は並んで商店街から帰る。
今回は美咲に合わせていつもと違うルートだ。だからといって特に帰宅時間が変わる訳ではない。運が悪ければ踏切で止められる程度だ。
そして俺達はその踏切に差し掛かる。
「今日はありがとう、アルくん。すごく楽しかったよ。後でタマちゃんにもお礼を言っておくね!」
「ああ、いいん……美咲、すぐそこだけど、気をつけてな」
こうして俺と美咲はお互いの家が見える程の位置にある踏切で手を振りつつ別れたのだった。
「ただいまぁ」
「おかえりー!」
今日も奈緒は元気に出迎えてくれた。
取りあえず買ってきた物を冷蔵庫に入れて、部屋に戻る。
実は少し前にスマホに通知が来てたんだ。
多分クリスだろうなって思いつつも、取り敢えず家も近かった事だし無視していた。
《まず、美咲と来てた事、それは誤解がないようにすぐにrineしてくれたのは、良しとしといてあげる。その上で聞くけど、今日は何故連絡無しに来た?》
あ、なんか連絡しなかった事を怒ってるみたいだ。
もしかして連絡が欲しかったのかな?
《偶然だ。どうも俺とクリスの間には偶然が罠を仕掛けているらしいな》
実際に偶然だしな。
《何?そのカッコつけた言い回し。あーあ、少しはアルと話す事が出来たのにって思ったのにさ。本当、タイミング悪いなぁ》
そうだな。俺も一応クリスのSNSをフォローしてるんだから、チェックしといたら良かったけど、基本連絡はrineで事足りるし、あまり閲覧をしていないんだよな。
《ちょっと話は変わるんだけど、今どこにいるんだ?》
俺はちょっとした事を思い付いて、クリスに尋ねてみる。
《今、家だけど?それがどうしたの?》
俺はその返信を確認すると、ビデオ通話の発信をしてみる。
すると少し間を空けてクリスが出た。
「も、もしもしって言うのもなんか変だよね……。アル、どう?ちゃんと映ってる?私はアルの顔、ちゃんと見えてるよ?」
何だか気恥ずかしそうな表情のクリスがスマホに映っている。
「ああ、大丈夫だ。画質が悪いのは我慢してくれ」
「うん、全然良いよ。こうやってアルの顔を見られて、アルの声が聞けただけで、私は満足」
そう言ってクリスが微笑んだその表情は、俺のスマホの画面でもよくわかった。
「ああそう言えば、最近母さんと会ったんだ。で住んでた場所と、幼稚園の名前を聞いといた」
そして俺は母さんに教えてもらった幼稚園の名前と住んでた町の名前を伝える。するとクリスは「やっぱりね……」と呟き、何だか嬉しそうな表情になる。
「私もその幼稚園に通ってたの。しかも実家も同じ町内。多分、私達、子供の頃に会っているわね」
そうだな。それに多分タマとも……。
「母さんもクリスとタマ、それに2人の母親の事、知ってたぞ?」
するとそれを聞いたクリスは小さく笑う。
「あはは、私達、2人とも名前が変だから覚えてたのかもね。でもそのお陰でクリスって名前を貰えたんだから、ある意味うちの両親にアドバイスをした占い師に感謝よね。多分普通の名前だったらそんなあだ名、貰えなかったもん」
そう言えば、クリスとタマ。2人の本名は占い師のアドバイスで決められたらしい。多分両親が2人とも未熟児だったって事で、心配して藁にもすがる思いだったんだろう事は想像出来る。
結果、2人とも大きく成長し、今では女子の平均身長よりも高めになったんだけど。
「でも俺も名前に関しては占い師に関連してるんだよな。俺にアルってあだ名をつけてくれたのも占い師だしな」
俺にアルって名付けてくれたのはプリンセスキリハラ。そう、アンとチコの母親で、現在は俺の義理の母親でもある占い師だ。
「へぇ……そう言えば、アルの本名って?私、ずっと山田アルかと思ってた」
ああ、そう言えばクリスに俺のフルネームは教えてなかったな。別に俺は自分のフルネームに関しては好き嫌いとか考えた事は無い。
アルの方が耳なじみが良いだけだ。
「俺のフルネームな。山田有真人って言うんだ。親が言うには鹿嶋市にあるサッカーのクラブチームに所属していた事のある、偉大な選手から取ったんだってさ」
するとクリスは少し不思議そうな表情になる。
「うーん……『アルシンド』って名前……。どこかで聞いたことがあるような……」
クリスの実家のある場所にはサッカーの有名クラブチームがあるからな。覚えがあるのも当然じゃないだろうか?
そんな事を考えつつ時計を見てみるともう18時をまわっていた。
「悪いな、今から夕食の準備しなきゃいけないから、あんまり時間取れないんだけどさ……えっと……」
俺が次の言葉をなかなか出せないでいると、クリスはその様子を察したのかクスリと笑う。
「うん、大丈夫。あのさ、また私が家で暇してる時とかまた掛けるからさ。その時は付き合ってよ」
「ああ、何でも話してくれて良いからな」
俺はそう返事をすると、名残惜しくはあったんだけどビデオ通話を切ったのだった。
ここまで色々わかってくると、多分だけど記憶の少女の正体って、クリスかタマのどっちかなんだろうな。
って言うか、考えてみたら俺ってタマに記憶の少女の面影を感じて付き合い始めたけど、俺って記憶の少女と再会出来たとして、結局何をしたかったんだろうか?
どうも俺は今まで追い求めてきたものがまるで崩れ去るような、そんな感覚を感じつつ、夕食の準備を始めたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
今回のお話はアルくんと奈緒ちゃんの実母が登場しましたよ。
委員長の事を美咲って呼ぶようになりましたよ。
そしてクリスとはやっぱり過去に色々あったっぽいですよってお話をお送りしました。
何だか彼女のタマ、完全に脇役状態です。
タマをもっと出せって方(いますか?)、ご安心ください。次回はタマ、そしてクリスの2人がメインのお話です。
狙ってた訳ではないんですが、ちょうど物語の時期と今の時期がリンクしてまいりました。
皆様におかれましても、熱中症などに注意していただき、日々をお過ごしください。
次回、12話は全8部分でお送りする予定です。
もしよろしければ、次回もお付き合いください!
それではまた♪




