12月:家
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二次会には参加せず、私たちは披露宴で帰った。ここから先は大人の時間だ。
ドレスを脱いで式場を出ると、輝美さんの車が待っていた。
制服姿に戻った私を見て、輝美さんは
「ドレスはあ?」
と残念そうに言った。なんでみんなそんなに見たがるかな。
車に乗り込むと、私はさっそくみどりちゃんの握ってくれたおにぎりを食べた。
帰りの車内、輝美さんは式はどうだったとか、その手のことを聞かなかった。
かわりに私は、おにぎりを頬張りながら、輝美さんにたずねた。
「輝美さんは14歳のときどんなだったの?」
「14? なんだ急に」
彼女はしばし過去に思いをはせて
「勉強と、部活と、委員会でいっぱいいっぱいだったけど、歌手とかアイドルとかにキャーキャー言ってるどこにでもいる女子だったな」
「好きな子とかいなかったの?」
「えー? いたにはいたけど、向こうは彼女がいたからべつになんにもなし」
「じゃあ、草太さんと出会ったのは?」
「えー? てゆうかなんだよさっきから」
「いいじゃん聞かせてよ」
「私も聞きたいー」
春美ちゃんも加勢した。
輝美さんはしぶしぶ口を開いた。
「出会ったのは大学のボランティアサークル。向こうが一個上で、私が二年生になったときに付き合い始めた。大学卒業しても付き合いは続いてたけど、お互い仕事が忙しくて、疎遠になって、自然消滅」
「でも再会したんだ?」
「サークルの忘年会でな。現役生もOBも来る結構でっかい集会で、そのとき私はだいぶ仕事でまいってて、転職を考えてた。見かねた同級生が私をそこに呼んで、そこに旦那がいたんだよ。実際会ったのは7年ぶりぐらいかな。それで無理やり旦那の前に座らされて、私は延々愚痴を聞いてもらってた。児童相談所でいろんなケースの家庭に、まるで警察か探偵みたいに事情を聞いて回って調べ上げて、それで出来ることも限られていて、理想と現実ってやつに板挟み。まあ、実際まいってたよ。旦那は私が感傷的な人間だって知ってたから無理に今の仕事を続けろとは言わなかったな。つらいならやめたほうがいいって。福祉に未練があるなら余裕のある仕事をしながらボランティアをしてもいいし、里子を取るのもいいって。男もいないのに里子なんて取れるわけないでしょうがって、私はちょうど隣の席に呼ばれて立ち上がったのよ。そしたら、ちょっと待って、って旦那が私の腕を引っ張った。それでなんかごちゃごちゃ考え込んでたと思ったら、急にいいことを思いついたって」
「それで?」
「『結婚しよう』」
キャーと春美ちゃんが後部座席から声を上げた。
「本当にそれで結婚しちゃったの?」
「すぐしたわけじゃない。それがまあきっかけにはなった」
「それで喫茶店はじめたんだ?」
「旦那も里子だったんだけど、我が子のように可愛がってもらったらしくてな。あの建物はその里親の親の持ち物だ。話したことなかったか?」
「草太さんから聞いたかも」
「そうか」
輝美さんは言った。
「てゆうか、なんなんだよ。普段こんな話してこないくせに、あれか? 結婚式であてられたのか?」
「そうかも」
私は言った。
「魔法にかけられたみたい」
夕方。家に帰ると、みんなリビングにいた。
みのりちゃんとみどりちゃんが、ソファーで並んでテレビを観ていて、一孝はいつものようにダイニングテーブルで勉強していた。
「おかえり」
と口々に迎えられる。
輝美さんは二人の座るソファーに無理やりお尻をねじ込んだ。
「バームクーヘンあるよ。食べる?」
私は引き出物の袋をごそごそしながら言った。
「食べる―」
とみのりちゃんが言い
「私、切るね」
と過保護なみどりちゃんが言った。
私は
「コーヒー淹れるね」
と言った。
「式どうだった?」
バームクーヘンを、きれいに六等分に切り分けながら、みどりちゃんが言った。
「どう?」
私は少し考えて言った。
「まあ、いい式だったんじゃない?」
みどりちゃんはやさしく微笑み、切り分けたバームクーヘンをそれぞれの元に運んだ。
キッチンには私と、コーヒーサイフォンだけが残った。
「ねー、ドレス着てみせてよ」
ソファーにもたれながらみのりちゃんが言った。
「やだよ。写真いっぱい撮ったからそれ見て」
「俺は見たよ」
てっきりガリ勉していると思っていた一孝が会話に入ってきた。
「この前、一瞬だったけど」
「ええーずるーい」
私は黙って人数分のコーヒーを淹れた。
みどりちゃんが運ぶのを手伝ってくれた。
ソファーが満員なので、私は自分のカップを持って、一孝の斜め前に座った。
砂糖をいっぱいまぶしたバームクーヘンを口に運び、その甘さをコーヒーで溶かした。
一孝も勉強の手を止めて満足そうにバームクーヘンを食べていた。やはり彼は甘いものを好む傾向にある。細いのに不思議だ。
私は疲れもあって、テーブルにぐてーと顔をつけた。
そのまま行儀悪く、バームクーヘンを口に放り込みながら、一孝の顔を眺めた。
私は彼を好きになるだろう。
だけど、それはいまではない。
私の中から父の影が完全に消え去ったとき、私がまたガラスの靴を履ける日が来たとき、私は彼に伝えるだろう。




