1月:告白2
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1月。
「二人で合うのは久しぶりだね」
喫茶店の窓際の席でお父さんは言った。
どの口が言うか。
由衣さんがはじめてここを訪れて以来、お父さんの隣にはいつも彼女がいた。二人で合うのは本当に久しぶりだった。
「べつに由衣さんと来ても良かったんだよ。式以来会ってないし」
「ああ、実は誘ったんだけどなぜか怒られてしまって。女の人はわからないな」
由衣さんなりに気を使ってくれたらしい。
「それよりタンブラー持ってきた? コーヒー淹れたんだけど」
私はお父さんの前で魔法瓶を振ってみせた。
「ああ、もちろん」
お父さんは手縫いと思われるケースからタンブラーを取り出した。見せつけてくれますね。
私は魔法瓶からさっき上で淹れたばかりのコーヒーを、タンブラーの中に注いだ。
「ありがとう」
お父さんは一口だけ飲んで、ケースごとタンブラーを大事そうに鞄にしまった。
「それと今日はもう一つあって」
私はクッキーを一袋お父さんに差し出した。透明な袋越しのそれをお父さんは驚いた様子で見ていた。
「静さんに教えてもらったの。紅茶のクッキー。お父さんも食べたことあるでしょ?」
「いぶきが焼いたのかい?」
「一応」
お母さんと違って失敗はしなかったけど、慣れないことをすると疲れる。
「いっぱいあるから由衣さんと食べて。多分おいしいよ。みんなもおいしいって言ってたし、社交辞令かもしれないけど」
「ありがとう大切にいただくよ」
お父さんはまるでへその緒でも扱うみたいに、大切にクッキーを鞄にしまった。
「そうだ、僕からも渡すものがあるんだった」
お父さんはそう言ってジャケットの内ポケットから封筒を一枚出して、テーブルの上に置いた。表には『衣装代』と書かれている。
「いぶきのドレスの代金を春美さんに渡してくれないかな。できれば直接渡したいのだけれど」
「いいよいいよこんなの」
私は手をぶんぶん振った。
「頼んでもないのに春美ちゃんが勝手に作ったんだから」
「いや、そうゆうわけにはいかない。あんな素敵なものを作ってもらったのだし、これは衣装代として結婚資金から出ているから」
「えー」
私はしぶしぶ封筒を手に取った。確認はしないけど、なんか結構入ってる感じがする。今度春美ちゃんになにかおごらせよう。
私は言った。
「お母さんならもっと派手なドレスにしたんだろうね」
「そうだね」
お父さんは言った。
「彼女は派手好きだったから」
お父さんは言った。
「田辺さんとは交流してるのかい? クッキーを教えてもらったと言っていたけど」
「クッキーは教えてもらったけど、たまにLINEするくらいだよ。それといまは佐藤さん」
「そうか、そうゆうこともあるか。もうずいぶん会っていないものな」
「でも会ったときにお母さんの話をいっぱいしてもらったよ。お父さんがぜんぜん話さないから」
「そうだね。もう少ししたら話してあげられるかもしれない」
「ゆっくりでいいよ。この4年間はすごく長かったもん。なにもかも急に変わらないよ」
「そうだね。長かった」
「お父さんがここで再婚する言い出したのも、もう半年前」
「8月だったかな」
「うん。夏休み。最初はなんとも思ってなかったけど、私あれからいっぱい考えたよ。もう一生分考えた。恨んだよ。でも本当はもっと前に考えなきゃいけないことばっかりだった。私逃げてたんだね」
「きみは僕に似て考え込むたちなのかもね。でもまだ14だろ。本当は考えなくていいことばかりのはずだ。僕がふがいなかったんだよ」
「静さんがね、私は外側はお母さんそっくりだけど、中身はお父さんそっくりだって」
「コメントに困るな」
お父さんは言った。
「きみはなにか変わったかい?」
「そうだね、変わったと思う。なにがどうってわけじゃないけど、私もうちょっと学校の友達と遊んでみようと思う。ここは居心地が良すぎて甘えちゃうけど、自分もちゃんと外に出なきゃ」
「そうか。それはいい変化だね」
「お父さんは? なにか変わった?」
「そうだね。結婚式の準備に追われながら、本当に忙しくて、自分の大切なものがどんどんそぎ落とされていくように感じたよ。でも、それは本当は大切にしなきゃいけないものじゃないって、少し身軽になった気分だよ」
「身軽? 結婚したのに? 子供とかは作らないの?」
「それはもうちょっとゆっくり考えさせてくれ」
お父さんは輝美さんの淹れたコーヒーを口に運んだ。
「ふーん」
私は言った。
「私は好きな人が出来たよ」
お父さんは激しく咳き込んでコーヒーを吹き出した。
娘と会うために着込んだ、一張羅のシャツとジャケットに大きなコーヒーの染みが出来た。
「ゴホッ、ゴホッ、なんだって?」
ははは。
いい気味だ。




