22話 リリック13歳 初任務②。
「今回の任務は我が領地内で新たに発見された鉱山に住むミノタウロスの討伐だ!かなりの強敵だが我々辺境騎士団は日々鍛錬を続けた精鋭ぞろいだ!問題なく鉱山を手にできるだろう!各自馬に乗り事前に配置した諜報部隊と合流後討伐作戦を開始する!皆気を引き締めて取り掛かれ!死ぬ事は許さん!」
『「はっ!」』
ルイーザさんの演説後武器を点検し荷物を持ち馬へ跨る。
5年の間に馬にも乗り走れる様になった。
本当は浮遊魔法や飛行魔法を習得したかったんだけど、魔力操作がかなり難しく習得出来なかった。
今回の作戦で編成された部隊は僕とルイーザさん含め30名で構成されており、僕たち以外は皆平民だが全員剣の腕は確かだ。
数名魔法も使える者もいるので戦力としては申し分ないくらいだ。
ミノタウロスは前世でも強敵としてアニメやゲームに出てくるキャラだがこのメンバーなら問題ないだろう。
おそらく僕の初任務だから多めにつけてくれたのだ。
(シグルスさんもルイーザさんも意外と過保護なところあるよな…)
心の中でクスクスと笑いながら大切にされているんだと実感して心が温かくなる。
昔の僕なら1番初めに、僕が頼りないから…とか僕がダメなやつだから…って言葉が浮かんで卑屈になっていたけど、今まで生きて来た中でこんなに人に大切にされた5年はなかったから素直に好意を受け取れる。
目的地はそれほど遠くない位置にあり早馬で約30分ほどで到着した。
到着したルイーザさんは早速諜報部隊より報告を受けていた。
「ふむ…そうか、」
「どうかしたんですか?」
諜報部に報告を受けていたルイーザさんは顎に手を添え考え込んでいる様だった。
その姿は父シグルスさんに似ていてやはり親子だなと思った。
「ミノタウロスが鉱山にいた魔獣を全て倒したそうだ。」
「え?それってラッキーじゃないですか?」
「あぁ、手間が省けていいんだが獲物を追って奥まで入ったらしくてな地図も出来てないからどうしたもんかと…」
「ああ、そう言う事ですか…うーん、洞窟って暗いんですよね?多少の光とかありますか?」
「いや、真っ暗と聞いたが」
「いくらミノタウロスでも真っ暗闇の中を正確に追う事はできないと思うので、魔力反応で追いかけてるんじゃないでしょうか?」
「ああ!なるほど、なら出口付近で我らが魔力を垂れ流せばヤツの方から出てくると」
「そう言う事です!」
いい考えだ!よくやった!とルイーザさんは褒めてくれて、初日からなかなか良いのでは?と自分自身を褒め称えた。
ミノタウロスを洞窟の外に出して街へ向かわれると被害が出てしまう恐れがあったので、洞窟を利用して袋叩きにする作戦だ。
入って数メートル先に広くなった場所があるそうなのでそこでミノタウロスを討つことになった。
今回新たに発見された鉱山内の点検の際にミノタウロスが発見されたらしく、地図だけでなく灯りや道の整備も出来ていない状態だ。
魔獣との戦闘中に派手に暴れたり大規模の魔法を使用すると洞窟が崩れてしまう可能性もあるので、十分に気をつけながら戦わなければいけない。
「配置につけ!準備はいいな!気を抜くなよ!」
広く空いた場所に辿り着き炎魔法で数カ所に灯りを設置し、土魔法で壁と天井を補強して簡易的な戦闘場を作り準備は万端だ。
(《魔力探知》)
初めての狩りで得た魔力探知はバネッサ姐さんとの鬼の修行で数キロ先まで細かく感知できる様になった。
使いすぎると頭が痛くなってくるので乱用はできないが…
「隊長!300m先ミノタウロスの物と思われる膨大な魔力を感知しました。他の魔力反応はありません!」
「よし!全員戦闘体制に入れ!」
入り口を塞ぐ様に団員が配置に着き、僕は少しだけ魔力を放出した。
ダダダダダダダダッ!
すぐに地響きと共に魔獣の足音が向かってくる。
暗闇から少しずつ姿を現した獣は体長は約15mくらいだろうが、跳べば洞窟に頭がつきそうで右手に巨大な斧を持っている。
アニメやゲームで見たそのまんまの姿で二足歩行の鋭い角を持った闘牛だ。
『ウゴォォォォオオオ!!!!』
牛は雄叫びを上げ頭を下げて魔力の発生源である僕に向かって突っ込んできた。
《土壁》
ドーーンッ!
「ぐッ!!すごい力だッ…」
ものすごい勢いで突進して来たミノタウロスは壁を突き破る勢いで進行をやめない。
土の壁は今にも壊れそうな勢いだ。
「ルイーザさん!!」
「わかってる!」ズシャッ…!
ルイーザは牛の背後に回り足首を狙い切り裂いた。
『ウガァァァァァ!!!!』
牛は片膝をついて雄叫びを上げる。
他の団員達も一斉に足に切りかかった。
ザッ!…グサッ!…ブシュッ…!
『ウガァァァァァ!!!』
牛は再び雄叫びを上げ群がる虫を払うかの様に右手の斧を振り回した。
距離をとりつつ全員で攻撃を仕掛けていたが刃先が1人の団員の胴へ向かう
「危ない!!」
《空撃》ドンッ!
攻撃力を下げた空気の塊を団員へ向けて放つと空気圧に飛ばされて壁へ打ち付けられた。
「ごめん!手荒になった!」
「いや、大丈夫だ!助かった!!」
団員はすぐさま立ち上がりまた戦闘体制を取る。
「一度足止めします!その隙にやってください!!」
《岩拘束》ダーンッ!
地面に魔力を流し膝をついたミノタウロスの足元から岩が手の様に伸び足と腕を締め付ける。
「よくやった!!」
すかさずルイーザは走り出しミノタウロスの正面で高く飛び上がった刹那
『ウゴォォォォオオオオオ!!!』
ミノタウロスはこれまでに無いほどの雄叫びを上げ体に力を込め岩の拘束を破り立ち上がった。
剣を構え正面から飛んでくるルイーザに向かって大きく口を上げ魔力を集める。
「ルイーザさん!!!《岩檻》!《魔法障壁》!《水壁》!」
ミノタウロスが口に溜めた魔力の密度の高さに直感的に危険を感じミノタウロスを檻で囲い1番近いルイーザさんに魔法障壁を出しその間に水の壁も設置した。
ドガーーーンッ!!!
凄まじい音に岩の檻は砲撃の勢いを殺せたものの破壊され水の壁に濃度の高い魔力球が打ち付ける。
ぷすぷすと水は蒸発し水蒸気が立ち上がり煙幕の様に視界を閉ざした。
「悪いな、助かった。」
「いえっ…でも、もう一回来たら次は難しいかもしれません。」
「大丈夫だ。《風刃》」
体勢を整えたルイーザは風魔法で視界を塞いでいた煙を掻き消し牛を捉え一直線に向かっていく。
キーンッ!
鋭い金属音鳴り響きルイーザは牛と一対一での攻防戦をしていた。
キンッ!キンッ!キン!ズシャッ…!
可憐な剣裁きで相手の斧を片手で弾き隙をついて肉を切った。
(この状態で魔法は撃てないな。)
「援護します!」
剣を握り大きく踏み出し牛へ突っ込む。
カードの浅くなった足元を狙い足場から崩す作戦だ。
ズシッ…「くっ、硬い刃が全然通らないじゃ無いかっ!」
筋力も付きパワーも上がったリリックだったが、やはりまだ13歳の少年だ。
ミノタウロスの硬い皮膚に刃を食い込ませることが出来なかった。
(それならッ…)
剣に魔力を流し込む。
この剣はリリックが12歳の誕生日にシグルスにプレゼントしてもらった魔力を流し込める魔剣だ。
「《水の刃》」
剣に魔力を込め剣の周りに細かい振動をつけた水を薄くを纏わせもう一度足首を狙って剣を振りおろす。
スパッ…!『ウガァァァァァ!!!!』
思いの外切れ味がよく足首をそのまま切断してしまった。
バランスを崩したミノタウロスは膝をつき雄叫びを上げる。
「よくやった!リリック!」
ルイーザはすかさず足元を崩したミノタウロスの右手首を切断した。
カーンッ!ドシャッ…
斧は手から離れ右手を失ったミノタウロスは再び口に魔力を集め始める。
「させるかッ!!!」
1度受けた攻撃を易々とルイーザが見逃すはずもなく攻撃が放たれる前にミノタウロスの首に刃を向ける。
「終わりだ。」ズサッ!ブシャァァァアアア!!
剣はミノタウロスの太い首を切り裂き頭を落とす。
頭を失った胴は勢いよく血を吹き出し前に倒れた。
「終わった…?」
戦闘時間は10分足らずだろうが緊張の糸が切れ体がドッと疲れを感じる。
「ミノタウロス討伐だー!」「さすがっす隊長!」「リリックも初日から大活躍じゃねーか!」
頭の落ちたミノタウロスを前に団員達も声を上げてその勝利の喜びを分かち合う。
「お疲れ様です!隊長!」
「ああ、お前もな。」
ミノタウロスの近くにいたルイーザさんに駆け寄り労いの言葉をかけた。
(あんなに硬いミノタウロスの首を剣で一振りだもんな…やっぱり僕はまだまだ鍛えないといけないな)
「少し休憩したら片付けて帰るぞ!」
先ほどの戦闘でルイーザさんも体力を消耗したのだろう。
彼女の口から休憩なんて言葉が出るとは思っていなかったのでラッキーだと思いながら壁にもたれ座った。
(ピンッ…)
鳥肌が立つほどの魔力密度、禍々しい気配。
休もうと一息ついた瞬間発動していない僕の魔力感知にも引っかかるほどの膨大な魔力を感じた。
ルイーザさんも感知したのか辺りを見回し警戒態勢をとる。
「皆さん!!!注意してください!!何か来ます!!」
『うぁぁぁあ!!!』ブシュッ…!
悲鳴の方向は鉱山の奥への道。
薄暗くなっているところへ視線を向けると先ほどまで一緒に戦っていた団員の1人が宙に浮いて向かってくる。
ぽとっぽとっ…と血が滴り灯の下へ来るとその姿を現した。
黒い肌に金色の瞳。
長く伸び少しウェーブがかった黒髪の体格のいい男が団員の頭を握り潰していた。
男の身につけている真っ白なキトンは返り血で赤く染まる。
「ああ… 色なしか…」
そう言うと乱雑に団員を投げ飛ばした。




