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23話 リリック13歳 初任務③。

「何者だ!」

 ルイーザさんはすぐに戦闘体制をとり続けて他の団員達も同じ様に剣を構える。

 ゆっくりと近づく男をよく観察すると耳が長くて「ダークエルフ……?」と、ぼそりと前世での異世界敵キャラ鉄板種族の名前を口に出した。


「なんだそれは?」

 僕の呟きを聞いていたのかルイーザさんは眉間に皺を寄せて尋ねる。


「エルフから派生した種族ですよ!堕ちたエルフとかとも言われてます!」

「えるふ…?聞いたことないな」

 ルイーザさんはダークエルフから視線を逸らさず少し首を傾げた。


(え?この世界魔法あるのにエルフいないの?!魔法あったらエルフは絶対居るじゃん!)


 動揺する僕に続けてルイーザさんは「"魔族"か?」と問うてきた。

 「それに入る…と、思います。」


 "魔族"その名前に団員達はざわめき出す。

 魔族は女神ラピスを邪神に変えその時代の王に殲滅された人語を話す長耳のヒトガタ魔物だ。

 その存在は過去の文献に数行しか記されておらずこの500年間存在を確認されたことがない伝説上の魔物となっている。



『ガッハッハッハッハッ!!!』

 突然そのダークエルフは僕たちの会話を聞いていたのか大声で笑い僕を指差して「そこの色(・)つ(・)き(・)よく知っているな。」と言ってきた。


(さっきから、色なし、色つきってなんのことだ?)


 差した指を下ろすと腰に手を当て片足立ちをする。

 剣を向けられているとは思えないほど余裕そうな立ち振る舞いだ。

 怪しむ様にダークエルフを睨んでいると続けて、「ダークエルフは聞いたことないが、堕ちたエルフ…か、気に入った。これからは我が種族をダークエルフと呼ぼう。」


「お前の言う通り俺はエ(・)ル(・)フ(・)だ(・)っ(・)た(・)ものだ。」


「ごちゃごちゃと分からんことを、詳しいことは戦いながら話そうかッ!」

 ルイーザさんは大きく踏み出しダークエルフに切り掛かった。 


「ま、待ってください!!」

 凄まじい魔力量と禍々しい気配。

 幾らルイーザさんでも敵う相手ではないと直感的に感じ止めに入るも聞く耳を持たない。


キーンッ!

 ルイーザさんの剣は相手の前で止まる。

 障壁で塞がれていた。


(ルイーザさんの剣をたった一枚で弾く障壁なんて、、)


「この女の色つきはせっかちだな。」

「はっ!ダラダラと話すのは好きじゃ無いのでね!」

 ぱっと剣を引き体制を整える。

 

「隊長に続け!相手は1人だ!」

「攻撃魔法準備!」


「待って!!」

 団員達も続けて攻撃に向かい誰も止まってくれない。


「うん。虫が多いな、色なしに興味はない。」

 ダークエルフはそう言うと指先に魔力を貯める。


(まずいッ!) 


「《土壁(ウォール)》《魔法障壁(マジックウォール)》」

 団員とダークエルフの間に土壁を建て一人一人に魔法障壁を発動させる。


ピュンッ!ピュンッ!ピュン!

 ダークエルフの指先から小さな光の球が複数放たれた。


〈パリッンッ…!〉

 僕の建てた二重の壁は薄いガラスの様に簡単に壊され、その光の球が団員の頭を貫く。


「あっ…、あ、あぁぁぁ゛!!」

 どさりと膝から崩れ落ちた僕の目の前に広がる光景はまさに地獄絵図だった。

 貫かれた団員は声も出さずに倒れていく。


「っ、貴様ァァァ!」

 第一小隊は僕とルイーザさん以外たった数秒で全滅した。

 怒りを露わにしたルイーザさんは剣を振り攻撃する。


「《風刃(ウィンドカッター)》」

 魔法を混ぜながら相手の障壁を壊すために撃ち続ける。


「ははっ!人間のくせに仲間を思いやる思想を持っているのだな!気に入った!この壁はとって、剣で戦ってやろう。」

 そう言うとダークエルフは落ちてる剣を一振り握りルイーザさんと対面した。


キンッ!キンッ!キンッ!

 金属の音が鳴り響く中、僕は膝をついてただその光景を眺めるしかなかった。

 完全に心が折れてしまったのだ。

 この5年間一緒に訓練を続けた仲間達をたった数秒で失い、守れなかった己の未熟さに。

 そして、仲間のために戦うルイーザさんを置いてまた逃げたいと考えてしまっている今の自分に絶望している。


「あっちのチビはもう折れたようだぞ?」

「アイツはそんなに弱くない!それよりお前の目的はなんだ」

 両者一歩も引かず剣を交える。

キーンッ!思い切り切りかかったルイーザの剣を止めながらダークエルフは「色を返してもらうことさ。その眼を返して貰う」そう言ってルイーザの瞳に手を伸ばす。


グサッ…!「うぐっ…」

「断る」

 間一髪のところで腰に備えていた短剣で相手の腕を刺した。


 ダークエルフは一度距離を取り左手を押さえ「なかなかやるな人間」と鋭く尖った牙をちらつかせながら笑った。



(相手の魔力の差を考えればあと三重壁を足すべきだった。数が多かったんだ、27人全員に壁を十分に作るなんて出来ない。仕方なかったんだ…僕はやった、守ろうとしたし、戦おうとした人をちゃんと止めた!なのに聞かなかったんだ…僕はちゃんとやったんだ…、あの、ダークエルフはやばい。ここにいたら死んでしまう。逃げないと、、)


 リリックは膝をつき涙を浮かべながらまた1人言い訳を始めた。

 自分は悪くないと前世の自分のように。


「リリック!しっかりしろ!あいつらが死んだのはお前のせいじゃない!お前はよくやったんだ!立て!戦え!」

 ルイーザはダークエルフを相手にしながら屍のような姿のリリックに叫んだ。

 リリックは少しだけ正気を取り戻し冷静に考え始める。


(本当に?僕は悪くないのか?数が多くてできなかったのか?……違うだろう。そこまで頭が回らなかっただけだ。ちゃんと止めた?それも違う、もっと強引にでも魔法で止めれた。もしかしたらって思ったんだよな。強くなった自分と、このメンバーなら倒せるって自惚れたんだ。)


「なら、僕がやることは…」


 自らの甘さが招いた悲劇を受け入れたリリックは唇をグッと咬み立ち上がる。


「ルイーザさん!逃げてください!僕が足止めします!!そして応援を呼んでください!」

 そう叫んで剣を握りしめた時だった。


(ピンッ…)


『きゃっはっはっは!おはようドット。起きて早々戦うとは本当に戦闘バカだなァ〜』

 ダークエルフと同じ魔力反応。

 戦っている奴より劣るがそれでも十分に禍々しい。

 反応の方向へ視線をやると少し小柄で同じ瞳の色、髪色、服装をしたダークエルフが胡座を描いて宙に浮いていた。



(待ってくれ、今戦っている奴もそうだが今どこから現れた…?さっきまでこんな反応は無かったはずだぞ。)


 唐突なこの状況に剣を握った手が緩む。


「イト俺より先に起きていたのか。なら俺が最後なのか?」

「いーや!2番目だよ。僕がいっちば〜ん!」

 ひょいひょいと空中で踊るダークエルフはイトと言う名前で今まで戦っていたのがドットと言う名前のようだ。 


「寝てばかりいたイトが1番早起きとは珍しいな」


(2番…最後…?こんなのがまだ何人も居るのか、、?)


「えっへん!僕は自慢じゃないけど1番弱いからね〜力が回復するのも早かったんだ〜。ん?おやおや〜?」

 1番弱いと自らを語るダークエルフが言葉通りの意味ではないと魔力を感知できる僕にはすぐに分かった。

 そしてこの勝敗の結末も理解してしまった。

 呆然と立ち尽くし2人のやりとりを眺めていた僕に気づいたイトと名乗る小柄なダークエルフは


「君は!落(・)ち(・)こ(・)ぼ(・)れ(・)のリリックくんじゃないか!」


 僕を指差し満面の笑みで楽しそうに言った。


「何故、僕の名前を…?」

「知ってるよ〜、エメラルド家の落ちこぼれくん!急にいなくなったから何してるのかな〜って思ってたけど、こんなところで会えるなんて嬉しいなァ」


 イトはそう言うと胸の前で手を組んで肩をすくめた。

 訳がわからずただ聞くことしか出来ない僕に続けてイトは語り出した。 


「君を見てるのすっごく楽しかったのに急にいなくなったと思ったらモルガナイトに来てたんだねっ!じゃあ、落ちこぼれはおかしいかな〜?う〜ん?あ!嫌(・)わ(・)れ(・)者(・)のリリックくんかな?」


「やめろ。」

 ヘラヘラと語るダークエルフに苛立ちを募らせる。


「生まれてからずーっとハハオヤに訳もわからず嫌われてたもんねー?「いたいっ!お母さんやめてーっ」って!チチオヤもアニタチも君こと全く見えてなかったもんねー?可哀想だったけど、受け入れちゃってる姿は滑稽だったなあ」

「耳を貸すなリリック。」

 ルイーザさんがそっと僕の方へ近寄り声をかける。


「でもでも、1番面白かったのはあの本だなー!」


「やめてくれ。」


「愛されてないのに自分が愛されてるって本気で思い込んでるんだもん!プフッ!勇者リリックってさ。哀れすぎて笑いが止まらなかったよぉ〜」

 ケタケタと腹を抑え笑う姿に怒りを抑えることができなくなった。


「黙れ!」《炎の矢(フレイムアロー)》

 怒りに任せ炎の矢をダークエルフに向かって放ち避けられた矢は爆発音と共に壁にぶつかりボロボロと洞窟の壁が崩れていく。


「ちょっと〜そんな怒ることないじゃん?」

「だまれ!お前に何がわかる!」

 溢れ出た怒りを抑えることができない。

 拳は固く握りしめ血が滲む。

 ドクドクと脈が上がり血の巡る感覚がよく分かる。 

「え〜?でも傑作だったんだから仕方ないじゃん?勇者リリックく〜ん!」

「黙れと言っているだろう!!《氷弾(アイスショット)》!!」

「落ち着け!リリック!!」 

 冷静さを欠いて放たれた氷の弾は再び躱わされ洞窟にダメージを与える。


 僕とリリックは生まれた環境も境遇も違う。

 僕は自ら1人を選んで自分の世界を作ったけれど、リリックはそうするしかなかった。

 そうしなければいけない理由を僕は知っているし僕自身がそうだったからよく分かる。

 僕たちが自分の世界の中で生きることを選んだのは


 そうでもしないと無能で誰にも求めて貰えない僕たちが生きていてもいい理由が分からなくなるじゃないか。


 だからリリックが自分を守るためにした行為を嘲笑われるのが許せなかった。

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