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20話 リリックという子供。

 王族の色は深く青みがかった緑色で、膨大な魔力を有している。

 そして現国王陛下には光属性の適性が有る。

 リリックの目はまだ緑色が強いが王家の人間は成長と共に目の色が変化して行く。

 瞳の色が成長と共に変化するのは王族のみだ。



『リリックが王家の血を引いている』


 可能性は十分に高い。

 もしこれが事実であれば、現国王陛下とエメラルド公爵夫人が不貞を働いたと言う事だ。

 他の王族の先代国王は長く病に伏せており、王弟は女性嫌いで生涯独身を宣言して王位継承権を放棄したのだから。

 このスキャンダルは国を揺るがす事件になりかねない。

 

 アレキサンドライト王国は一夫一妻制で浮気や不貞を断じて許さない国だ。

 それは女神アフロディーテ様が愛を司る女神で1人を深く、その命尽きるまで愛すること好ましく思う女神だからだ。

 そして、その対価に加護を授けてくれると言われている。

 政略結婚が多いものの夫婦で信頼関係を高め、後に愛し合う事が多いのもこれを美徳としているからだろう。

 そして国の主である国王は最も女神に近い人間として特殊な制約があり正式な婚姻関係の元で生まれた子供が、ある一定の条件を満たさなければ王位継承権の証は出ない。


 過去に一度過ちを犯した王がいる。

 その王は妻以外の女性に手を出し子を孕ませた。

そして国では10ヶ月間止まない雨が続き作物は育たず川は氾濫し国が滅びかけたのだ。

 後に王の不貞が判明し、出産時期からこの雨は女神アフロディーテ様の悲しみの涙だとされ、国を危機に陥れた王は失脚を余儀なくされた。

 国王の不貞で生まれた子供は王族の瞳を持ち勉学・剣術・魔法全てに優れており条件も満たしていたが何年経っても王位継承権の証は現れなかったのだ。


 シグルスは現国王陛下が愛妻家だと言うことをよく知っている。

 だからどうしても主人が不貞を働いたとは思えなかった。

 それにリリックの出産時期に女神からの罰も無かったし、国王以外の王族の誰かかもしれない。

 確かな証拠がない状況下で公表しリリックが血を引いてなかったとすれば不敬罪としてシグルスやリリックの首は飛んでしまうだろう。

 国王の正式な婚姻関係の間の子ではないから王位継承権の証は出ないが、リリックの能力に疑惑を持たれるのは時間の問題であろう。

 そして何よりもシグルスが不可解に感じていたのはリリックへの虐待だ。


「王族の子だと知りながら虐待をしていたと言うのか?それとも王の血を引いておらず本当にエメラルドの血筋だとすれば、これまで透き通った緑色が持って生まれた強さの証とされていたが本当は深い緑が才能の保持者だったと言う線もあり得る。」

 シグルスは頭を悩ませていた。


コンコンコンッ…

 「失礼致します。」

 静かな客室に扉の叩かれた音が響く。

 入って来たのはリリックだった。

 ぶつぶつと呟きながら思いに耽っていたシグルスは、ふぅと息を吐き「どうしたんだ?」と何事もなかった様に見せた。


「あの、父上…エメラルド公爵様は何しに来たんでしょうか?」

 幼い少年の顔は暗く沈んでいた。

 "連れて帰られるのかもしれない"そんな不安があるのだろう。


「いや、お前が死んだのではないかと心配して見に来たそうだ。」

「シ … シンパイ ?」

 リリックは目を丸めて首を傾げた。


 シグルスは正直に話す方が良いと考え先ほどのイーサンとのやりとりを簡単に説明した。

 リリックは理解できない様な顔をしているが無理もないだろう。

 少年にとってイーサンは父親とは名ばかりな壁でしか無かったのだから。


「そ、ですか… なんかよくわかりませんね。実家に連れて帰られるとかじゃないならよかったです。」

 リリックは安堵のため息を吐きその姿にシグルスはその言葉にホッとしていた。

 本当の親が心配するなら帰りたいと思うんじゃないかとシグルスも不安だったのだ。

 いつのまにかシグルスにとってリリックは大きな存在になっていた。

 最初こそ同情心だったが、訓練を通してリリック自身を見る様になった。

 リリックは嫌々だっただろうが逃げずに訓練をし続けて、弱音を吐きながらも自分を変えようと必死に戦っていた。

 初めての魔獣狩りでホーンラビットの群れに囲まれた時、正直シグルスは逃げると思っていた。

 そもそも、8歳の子供が魔獣狩りをする事などモルガナイト以外ではあり得ない事で自身の娘すら初の魔獣狩りはホーンラビットより格下の小型魔物一体のみだ。

 だが、剣を上手く振れなくて半べそをかいていた少年は逃げるどころか立ち向かい剣を振り凄いスピードで成長していった。

 リリックの成長を見ることがシグルスにとって楽しみとなっていたのだ。

 普段物静かで子供らしくないリリックが、剣や魔法を見て年相応に目を輝かす時に愛おしさを感じ、息子が居ればこんな感じだったのだろうかと思う様になっていった。

 

「リリック。俺はお前を本当の息子の様に思っている。息子がいたらこんな感じだったのだろうかと、お前のおかげで毎日が楽しいよ。」

 ふぅと胸を撫で下ろしたリリックにそう言うと、小さな少年は焦り顔を赤らめて "な、なんですか?!急に!感謝されるなんて何か裏ありませんか?!" と早口で言う。

 "はっはっはっ!"とシグルスは笑い「本心だ!もしお前を返せと言われたら戦争起こしても良いくらいにお前を大切に思っているよ」と大きな手のひらでリリックの頭を乱雑に撫でた。


「物騒すぎますよ…」

 乱れた髪の下で頬が緩む。

 

 少年は生まれて初めて愛を感じたのだ。



…………………………………………………………………………




 イーサンが息子への対面を済ませて帰ると慌てて飛び出してきた執事に報告を受けた。


「なんだと?!あの使用人が殺されただと?」

 使用人とはアンジーの事だ。

 帰った後イーサン自ら妻が関与しているかどうか拷問するつもりだったのだ。


「犯人は?監視はどうした?!」

 イーサンの問いかけに執事は声を詰まらせる。

 早く言えと催促を続けてようやく重い口が開いた。


「…奥様です。逆らったとされて監視兵はクビにされました。」

「なんだと?」

 驚いたように言ってみたはいいもののイーサンも始めからそうだろうと勘づいてはいた。

 自ら証拠を消すと言うのは、関わっていたと認めるようなもんだ。

 それでも証拠を消されてしまえばどうする事もできない。


「なにを考えているんだ。クローリア…」

「あら?私がなんですか?」

 背後に現れたクローリアは扇子で口元を隠し、何事もなかったように現れた。


「何故使用人を俺の許可なく殺したのだ?」

「あら、だってリリックを見殺しにしたのでしょう?私の息子にそんな事をしただなんて許せないわ!然るべき罰を与えるのが母親の役目だもの」

 ふふ、と笑みをこぼす妻に少し恐怖心を抱きながら


「私の許可なくするべき事では無かった。今後屋敷の人事権の全てを取り上げる。勝手なことはするな。」

 そう言った夫の言葉に腹立ったのか扇子の下で夫人は奥歯を噛み締め苛立ちを見せた。


「パドリック。クビになった監視兵を戻せ」

「かしこまりました。」

 夫人はふぅと一息を吐き


「で、リリックの遺体はあったのかしら?」

 と尋ねてきた。


「いや、遺体は無かったが…魔獣に襲われた子供が1人いたそうだ。胃の中から出した時にはもう身元確認ができないほど骨まで溶けてしまっていてな、街に行方不明の子が居ないし年齢的にもリリックである可能性は高いと言われたよ。」

 イーサンは嘘をついた。

 結婚して13年目にして初めてついた嘘だ。

 この女はリリックが生きていると知れば必ず殺しに行くだろう。

 そして案の定この女は扇子の下で笑みを浮かべている。

 リリックが自分の身を十分に守れるほど強くなるまでの時間を稼ぎたかったのだ。

 それが父として最後に出来る事だった。

 

読んで頂きありがとうございます。

7月13日夕方頃一章の後半全て公開予定です。

戦闘シーン多めになります。

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