17話 魔法適正。闇魔法って響きがイイ。
剣の稽古を始めて2ヶ月半が経ち今では騎士団の稽古に混ぜてもらっている。
団員との手合わせは負け、負け、負け、負け、勝ちくらいの勝率だけど、少しずつ自分が強くなっていっているのを感じる。
「リリックちょっと来い」
団員に混ざって稽古している最中に、シグルスさんに呼ばれた。
(なんだろう…稽古はサボらずやってるし、まさか?!勉強の方の出来が悪いから怒ってるのか?!)
この世界にきてもやはり僕は勉強が苦手で、先生も手を焼いてることが見て取れる。
僕が育ってきたところと、価値観が全然違うからなかなか頭に入ってこないのだ。
貴族階級なるものや、奴隷制度とか…
僕はシグルスさんの後ろをついて行きながら何で怒られるのかとそわそわしていた。
そんな僕に気づいたシグルスさんは「ビビリすぎだ、今日から別の訓練をしようと思ってな」と笑いながら言った。
ついていった先はこの邸に来て最初に紹介してもらってから一度も寄っていない魔法訓練場だった。
「今日から魔法をしようと思ってな、魔法の先生を呼んだ」
「魔法ですか?!」
そう言ってシグルスさんは白いローブを見に纏った紫色の瞳の少女を紹介した。
「彼女はバネッサ・アメジスト伯爵令嬢。私の妻の姪で魔法騎士団の副団長だ。」
「やっほ〜始めまして!だいすきな叔父様の頼みだからこのバネッサちんが来てやったわよ!」
彼女は、ぱちりとウインクして僕を指差した。
身長的に14.15歳くらいだろうか、髪の色は薄い紫で、瞳と良く合っている。
アメジスト家はソフィア様の実家でモルガナイトの隣に位置する。
この両家はかなり友好的だと聞いていたが、副団長を僕の先生にするなんてアメジスト家の方々怒らないかな…
そんな心配をしつつも「精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」と元気よく挨拶した。
そんな僕をシグルスさんは微笑ましそうに見ていた。
「ついてこい」
そう言うと、シグルスさんは大きな水晶の前に案内してくれた。
この水晶で魔力量と適性を測るみたいだ。
続けてシグルスさんは魔法適正について話してくれた。
魔法は、大きく 火・水・土・風この四つに分けられていて平民は大体1種類〜2種類の属性しか持ってないが、貴族は最低でも2種類、4種全て持ってる人も多いみたいだ。
水晶は1番初め白く光り、その光の強さで魔力量が分かる。
その後に水晶が属性によって部分的に色が変わるそうだ。
最も適性のある属性は広範囲に色が広がり濃くなる、属性はあるもの範囲が小さく単体では使えないと言うのは結構あるようで、その得意属性に他の属性を組み合わせて攻撃をしていくのが一般的だそうだ。
僕が魔獣を突き飛ばした氷状の如意棒は水と風を混ぜて作ったものらしい。
「で、この四属性の他に光属性と闇属性がある。」
(なんだって?!闇属性だと!!!)
「この二つは貴重で四属性と使い方も異なることが多くて適性があっても使いこなせず、そもそも適正も滅多に出ない。」
(貴重で、使いこなせない…闇属性。なんってイイ響きなんだろうか。ククッ、久々に左手が疼いてきてしまった…)
僕が自分の世界に浸ってるうちにシグルスさんは水晶に手をかざした。
瞬く間に白く強い光を放つ。
その後水晶がじんわりと色を映し出す。
水晶の半分ほどが真っ黒に染め上がりその下に赤、青、茶色この三つは同じくらいの大きさで、それより一回り大きい緑色がある。
(それより…シグルスさんってもしかして…)
「なんとなく分かるだろ。俺の得意適性は闇だ。俺じゃあ魔法を教える事ができなくてな、だからバネッサに来てもらったんだ。」
(ウヒョーー、師匠まぢかっけぇ、パネェ見せてほしい!!貴重な闇属性がこんなにすぐ見れるなんて、、ワンチャン前世の隠キャが高じて闇属性でないかな?)
「すっ、すごいです!師匠!貴重な闇属性を使いこなせてるなんて!!」
僕は目を輝かせてシグルスさんに拍手を送った。
「えっへん!そうよ叔父様は本当に素敵なの!戦場に立てば敵は皆、叔父様をみて跪くのよ」
(なぜ君がドヤ顔しているんだ…)
バネッサさんは僕と師匠の間にひょっこり顔を出して胸の前で手を組んでうっとりと語った。
跪くと言うことは精神系の攻撃なのかな?その後、色の説明をしてくれた赤色は火属性、青色は水属性、茶色は土属性、緑色は風属性らしい。
「ち、な、み、に、私の得意適性は水よ!私は他の3属性もそれなりに適正あるから単体でも使えるわ!」
バネッサはどう?すごいでしょ?、と言わんばかりの顔で言ってきた。
(なんだろう、この先生とうまくやっていけるだろうが…)
「さ、お前もここに手をかざしてみろ」
「はい!」
ドキドキと心臓の鼓動が早くなっていく。
僕の得意属性ってなんなんだろう…
(闇来い!闇来い!闇こい!!!!)
ふわっと水晶が白く光る。
シグルスほどでは無いが少し眩しいくらいだ。
後ろで2人がザワザワしていたがそんなことより得意属性が気になってしかたなかった。
(闇こい!前世で考えたシャドウファントムマジックをやりたい!!)
水晶に色が付いていく、赤、青、茶色、緑。
赤色が他の3属性より少し大きいくらいだがほとんど同じくらいだ。
だけど僕の求めていた色は現れなかった。
「すみません。リセマラで」
「ちょっと、なんなのよあんた。」
「これほどとは思っていなかったな…」
落胆する僕をよそに2人は驚いた表情をしていた。
(僕、何かしちゃいました?)
そんな王道的な台詞が頭に過ぎる。
「適正もキモいけどそれより魔力量よ!あんたほんとにエメラルド家の子供なの?!」
(キモいとは失礼な、歴とした一員だよ緑色の瞳なんだし)
バネッサさんは信じられないと言う顔で続けて「叔父様の魔力量を100とするならあなたは60。貴方くらいの年齢の子供で魔法に優れた貴族家系でも出て20よ!それなのに、魔力の少ないエメラルド家でこの魔力量!それに適正も、本来もっと偏るはずなのよ半分は赤でって、それがほとんど均等じゃ無い!」と説明してくれた。
そう言われれば確かにおかしい気もする、が、僕は闇の属性が出なくて傷心中なのでそれについて深く考えられなかった。
「リリックよ、これだけすごい結果が出たのになんでそんな不服そうなんだ?」
「だって、、師匠と同じ闇属性が欲しかったんです…」
はっはっはっと大きく口を開けて笑ったシグルスさんが僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でて「可愛いやつめ」と一言言った。
逆サイドから鋭い視線を感じたがあえて無視する事にした。
「ゴッホン!とりあえず属性の説明をするわよ、貴方の得意属性は火、だけど他の属性も強いから四属性全てに得意適性があるって思ってもらっても構わないわ、魔法の鍛錬はイメージ力と使い続けて魔力量をさらに伸ばすこと…ん、え?!」
咳払いをしてバネッサさんが説明を続けていたが、水晶を見て情けない声を上げた。
「光…小さいけど光属性もあるわ。」
(何?!闇と反対じゃ無いか!)
バネッサさんは水晶の赤と青の間にある小さな光を指差した。
「まだ小さいけど、光属性の適正がある…」
「光属性とは、なかなかだな。ここ十数年適性のあるものすら現れていない。現国王陛下以来だな、」
シグルスさんは顎に手を置いて神妙な顔つきをしてバネッサさんと顔を見合わせた。
「これって使えるようにできるんですか?」
「光はほとんど未知なのよ、使えたかと思ったら使えなくなったりするのよ」
(なんだよそれ、闇がダメなら光で我慢しようと思ったのに…)
しゅんとする僕にシグルスさんは「お前なら気づかんうちに使いこなせてるさ」と励ましてくれた。
僕を過大評価し過ぎている気もするが、シグルスさんの言葉は本当にそうなんじゃ無いかって思わせてくれるから安心してしまう。
僕の魔力量と適性の判定が終わり実際に訓練を始める事になった。
バネッサさん曰くやはり魔法発動にはイメージが大事らしく呪文等はあまり無いそうだ。
ただ、イメージを固めるためにある程度技の名前などはあるらしく発動の際はその名前を唱えるそう。
「ところでリリックちんはレッドベアを単体で倒したのよね?魔法はさっきも言った通りイメージが大事なの、だから魔法を見た事ないとイメージ出来ないんだけど、どこで魔法を見たの?」
(アニメで見ました…なんて言えるわけないし、僕は今まで家から一度も出た事ないからなあ…うーん、、)
「なんとなく…こうなったらいいなっ、みたいな?」
「ほお、それであのウォータースライダーカッターなる強力な技ができたのか」
(まって!まだその名前生きてるの?!)
初日という事もあって今日の訓練にはシグルスさんも付き添うらしく僕の黒歴史をすぐに掘り返して来た。
「ああ、レッドベアの首を一撃で落としたっていう?」
「水の刃です!名前変えたんです!」
慌てて僕は過去の失敗を隠そうと声を上げた。
「ミズノヤイバ…ウォータースライダーカッターの方がかっこよいぞ?」
シグルスさんは何故?みたいな顔で見てきたが僕はつかさず「さあ!稽古しましょ!何するんですか?」と話題を変えた。
「とりあえず、己の限界を知るために一杯魔法撃って。」
「はい?」
(なんなんだここの人たちはシグルスさんにしても色々とざっくりしすぎだよ…)
「まぁ見てな、火球」
そう言ったバネッサさんは指先に魔力を集め直径1メートルほどの火の球を作ってひょいっと天井に撃ち込んだ。
ドーンッ!
火の球はドーム型の天井にぶつかって消えた。
「まあこんな感じの簡単な魔法をひたすらあの天井に打ち込むの、魔法障壁貼ってるから遠慮なくどうぞ♪
簡単そうにバネッサさんは言ったが、僕が魔法を使ったのは魔獣と戦った時だけだ。
それ以来使ってないない。
僕は少し不安を抱えながら体に流れる魔力を手に集め先ほど見たバネッサさんの火の球をイメージする。
じんわりと手があったかくなると小さな火の球が次第に大きくなる。
「火球!」ドーンッ
手のひらの球はスピードをつけて天井に打ち込まれた。
「できた…」
一筋の汗を垂らして安堵していた僕にバネッサさんは「そ、その調子でどんどん撃ち込んでいきなさい」と爽やかに言ったのだ。
それから僕はひたすら火球を撃ち続けた。
「ファイヤーボール!ファイヤーボール!ファイヤーボール!ファイヤーボール!」
10回ほど打った頃から徐々に疲れが出始めた。
その後続けて20回打った頃には、ふらふらで魔力を貯めるのが難しくなってきた。
それでもまだ続けて撃つ。
クラクラして吐き気もするが何よりもあの憧れの魔法を放っている事が楽しかった。
そして、合計45回打った頃、僕は意識を失った。
「ちょっと、いつまで寝てんのよ!起きなさい!」
「んっ…、あれ、僕寝てましたか?」
意識を失いどうやらそのまま訓練場の真ん中で寝てしまっていたようだ。
「そうよ、まさか倒れるまで魔法打つとは思わなかったわ」
「だってひたすら撃てって言ったじゃないですか…」
「いや、ふつー気持ち悪くなってきたら辞めるでしょ、まあ根性あるようで見直したわ」
(この世界の普通なんて知らないよ…)
と思ったが、前世の世界でもそれは普通のことだった。
根性ではなく僕は楽しさのあまりやり過ぎてしまったようだ。
「これで貴方の魔力量の限界値や、それに連なって出る症状を身をもって体感してもらったけど、やっぱりすごい魔力量ね。魔力量は自ずと増えていくけど魔力切れになるとさっきみたいに倒れちゃうからさっきのを基準に考えて魔法発動させるのよ」
どうやら大雑把だがちゃんと教えてくれようとしていたみたいだ。
確かに限界を身をもって知っていれば倒れる前に休むことができる。
「僕とそんなに歳変わらないのに意外と教えるの上手いんですね…」
ボソリと本音が漏れてしまい、はっと口を塞いだが遅かった。
「バカにしてる?私もう20歳ですけど?!」
なんと?!びっくり中学生くらいかと思っていたが成人済みだったのだ。
「す、す、すみません!お若く見えたのでつい…」
「本当かしら?まあ若く見られるのは嬉しいから今日のところは許してあげる!」
(よかった…見逃してくれた…)
「さ、今日の訓練はおしまい!明日からは厳しくいくわよ!」
手のひらをぱちんと合わせてバネッサさんは楽しそうに言い残して颯爽と帰っていった。
「今日の訓練も十分厳しかったんだが、、」
先生に対して若干の不安はあるものの、明日からの魔法の訓練が楽しみで仕方なかった。




