↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

15話 やれば出来る子。

 剣術の訓練を始めてから1ヶ月がたった。

 やはり僕にはあまりセンスがなくていまだに基礎ばかりをしていた。


(ああ、やっぱり無理なんだ…)


 日に日に稽古への足取りは重くなる。

 剣を持って構えて振り下ろす。

 単調な動きだが、これですら剣の重さに重心を持っていかれてまともに振ることができない。


(どんなにやったってきっと出来ない。)


 剣を振りながら蔵三(クラゾウ)は前世を思い出していた。

 生まれた時から蔵三は捻くれていたわけではなかった。

 彼には優秀な兄がいた。

 両親の興味は全て兄へ向いていて、彼は家の中でも寂しさを感じていたのだ。

 優秀な兄に比べ蔵三は凡人であった。

 そんな彼に、彼の両親や先生は「あなたはやればできる子」だと言い続けていたのだ。

 兄弟なのだから同じようにすれば同じになる。

 そう言った意味合いだろう。

 だが、彼はその言葉を言葉通りに受け止めた。

 そして彼は実行した。

 本気で勉強して挑んだテストでいつもより点数が良くなったのだ。

 彼は嬉しかった。

 兄のように両親に褒めてもらえるんだと。

 だけど、返ってきたのは「やれば出来る子なんだから頑張らないと」と同じ言葉だった。

 両親には100点以下のテストなど全部同じで彼の努力など見ていないどころか興味もなかったのだ。

 彼は落胆した、自分は出来たと思ったけど出来ていなかったのだと。

 そしてほっとしていた。

"やっても出来ない子"だとバレなくて済んだと。

 それから彼は"無能"を隠すためにやらない選択をし続けた。

 寂しい人生を送ってきた彼だからリリックの過去に酷く心を痛めリリックを誰よりも理解した。


 「はッ!」ビュン…

 剣は風をきって振り下ろされる。

 勢いに体が少しふらつく。

 僕は過去を思い出しながら淡々と振り下ろしていく。


「集中出来てないな。」

 僕の素振りを見ていたシグルスさんが止めに入る。


「まだ出来ます!」

「一旦休憩にしよう。気分転換だ外で食おう」

 そう言ってシグルスさんはお昼に誘ってくれた。


(あ…がっかりさせてしまった。やっぱり僕には、、)


 庭の木の木陰に使用人たちがお昼を用意してくれていた。

 気分は重く食欲も湧かない。

 腰を下ろしてサンドウィッチをちびちびと食べる僕に「どうした、何を悩んでいるんだ?」とシグルスさんは話しかけてきた。


 「やっぱり僕には剣術の才能無いなって、、、やっぱり僕は何をやっても出来ない奴なんだなって…思って…」

 気づけば思いのまま吐露していた。

 これ以上1人で抱えることがキツくなっていたのだ。

 きっとがっかりさせてしまうだろうと思っていた僕にシグルスさんはこう問うてきた。


「お前の言うやっても出来ない、出来るの基準はなんだ?」

「それは…」

 言葉に詰まった。

 分からなかったのだ。

 これまでずっと囚われてきた言葉なのに僕は何をもって出来たと判断するのかは分からなかった。

 ただ自分は何をやっても出来ないとそう思っていたから出来るの基準を考えてこなかったのだ。


「基準を決めなければ"出来た"は達成できないだろう。それに達成できたとしても、それが全てではない。お前からすれば俺は"出来た"に入る人間だろう。だが出来ていても負ける時が来るかもしれない。そうなった時、今までの努力も含め出来てないになるのか?それはあまりにも悲しいだろう。」

 シグルスさんは僕に優しくそう言った。

 桜色の瞳は木漏れ日によってキラキラと輝やき温かく、どうしようもない焦燥感や不安感で固まった身体がゆっくりと解けていく。


「出来た、出来てないに拘ってしまうなら基準を決めよう。」

「基準…ですか?」

「ああ、簡単に昨日の自分っていうのはどうだ?お前はゆっくりだが成長している。思い切り振れなかった剣は振れるようになり、反動で膝をついていたが今は膝をつかなくなった。誰だって簡単に強くなれたりしない。ちゃんと成長してるんだ。だから焦らなくていい」

 シグルスさんはそう言って僕の頭をわしゃわしゃと力強く撫でた。


(ああこの人を信じてやっていこう。)


 シグルスさんの言葉は僕に自信を持たせてくれた。

 その後も稽古を続けたが体の緊張が解けたのか、今まで以上にスムーズに身体を動かすことができたのだ。


 それからまた一ヶ月が経った。

 この家にきてから季節が変わり今は日本でいう真夏、8月頃だろう。

 昔の僕は部屋にこもってばかりだが、今は外で剣の稽古をしているのが楽しいと感じ始めていた。

 汗を垂らして何度も剣を振るう姿を前世の僕は想像もできないだろう。

 あの日から僕の成長スピードは上がった。

 自信が出たせいか、今ではシグルスさんに剣を打ち込んで指導をもらっている。

 


「はッ!」カンッ

「力が足りんもっと腰を入れろ」

「はい!師匠!」カンッ

「今度は動きが単調すぎるすぐ死ぬぞ」

「はい!師匠」カンッ

 僕はいつの間にかシグルスさんを師匠と呼ぶようになっていた。

 周りと比べてしまうとやはり僕は、まだ弱い。

 だがあの日言われた昨日の自分を超えるために毎日真剣に取り組んだ。


「よお、調子はどうだリリック」

 訓練所にやってきたのはルイーザさんだった。

 最近は仕事が忙しいらしく二週間ぶりに会った。

 シグルスさんはルイーザさんと僕を交互に見て、


「ふむ。よし、リリック、ルイーザと手合わせしてみろ」

「え?!!」

 無理だよ流石に、いや前に比べると多少は良くなったが…


「ルイーザさんもお疲れでしょうし、僕はまだまだ未熟なので…」

「謙遜するな受けてたとう。お前の実力を見せてくれ」

 いやいや、断ってよ、、僕は心の中で涙を流したがやると決まってしまえばこの親子は絶対に引かない。

 仕方ないと、腹を括って本気でやるしかない。

 心の中では嫌と言いつつも自分にどれくらいの実力があるのか実際に試すことが出来るのは楽しみでもあった。


「準備はいいな。それでは始め!」

 シグルスの声を合図に対面に位置した2人はまっすぐ走った。

「はっ!」カーンッ!

 剣がぶつかり木剣の音が響く。

 重なり合った剣の間から互いに目を合わせる。

 真剣なリリックに対してルイーザは余裕そうに口角を上げた。


(ルイーザさんはかなり手を抜いてる)


 リリックは一度引き体勢を整え、再度剣を振るった。

 角度やタイミングをずらし相手の隙を誘う。

 しかしルイーザはそれを難なく跳ね除けた、守りに転じてたルイーザはリリックの隙をついて攻撃に回る。

 ルイーザの振る剣は一撃一撃が早く重い。

 リリックは剣筋を予想して守るしかできなかった。


(これじゃ、ダメだ…勝ってこない。)


「はっ!どうした?受けるばかりじゃ埒があかんぞ」

 ルイーザは一つにまとめた銀色の髪を靡かせ楽しげに剣を打ち込む。


カンッ…!カンッ!カンッ.


(無理だ…いや、ダメだここで諦めるのは師匠やルイーザさんに、そして今日まで頑張った僕にだって失礼じゃ無いか!)


 リリックはルイーザの剣筋を予想して受け止める瞬間にそのまま受け流した。

 ルイーザはバランスを崩す、その隙をつかさずリリックは背後から狙った。


(いける!)


「うぉぉぉりゃぁぁあ!!」


ドスンッ…


「ぐはっ…、ゲホッ」

「そこまでッ!」

 一瞬のことだった。

 完全にルイーザさんの隙をついたと思ったのに、気づけば地面に膝をついている。

 ルイーザさんは僕の剣を避けそのまま腹に一発くらわせたのだ。


「最後の動きはなかなか良かったぞ」

 へへんっ!と、どや顔でルイーザさんに褒められた。

 腹の痛みはケドリックのことを思い出させたけど、それより改善点や反省点のことで頭がいっぱいだった。


「よーし、リリックお前は負けたから罰として場内10週走ってこい」

「へっ?!罰ありなんて聞いてませんよ!」

「リスクのない戦闘なんてない!いいから走れ!」

「そんなぁ〜」


(師匠の鬼!鬼畜!)


 僕はそんな不満を思いながらまだ僅かに痛む腹を抱えて走り出した。



「なあ、ルイーザ、リリックのことお前はどう思う?」

「ふっ、つくづくエメラルド公爵様は見る目がないなと思いましたね」

「ははっ!そうか、お前もか、やはり私の娘だな。俺もそう思う。」


 訓練所に残った親子は走り出す金髪の少年の背中を見てそう言って笑った。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。