12話 けしからんぞ!ルイーザさん。
馬車から荷物を取り出し彼女の馬車に乗りこんだ。 どうやら僕はすでに辺境伯領に入っていたらしく、通報を受けてルイーザさんの騎士団がここまでやってきたらしい。
彼女は騎士団の中でもかなり上の立場らしく、部下に指示を出してから馬車に乗り込んだ。
「荷物はそれだけか?」
「はい。それよりお仕事中だったのに大丈夫ですか?終わるまで全然待ちますよ!」
「誰かさんが魔獣を倒しておいてくれたからな、仕事が早く済んだんだ。後始末は元より部下の仕事だから気にしすることはない。」
ククッと口角を上げてルイーザさんは揶揄うように言った。
これまでの人生でこんなふうに誰かと話したり、冗談を気にせず言ってもらったりする事なんか無かった。
何より、この人と話すのは不思議と怖くない。
これは自分が変わったからなのか、この人の雰囲気がそうさせるのかはわからないが僕の中にあった慢性的な寂しさが少し和らいでいくのを感じる。
馬車が動き始めるとルイーザさんは僕をみて聞きたいことがあると話しかけてきた。
「リリックは魔力測定をしたことがあるか?」
「いえ、ありませんが… 魔力って測定できるんですか?」
「…あの脳筋一家め…」
エメラルド家は魔力に頼らない方針だから測ると言うことすらもしないのか…呆れてははっと渇いた笑いがでる。
「何故リリックに魔力がないと言われたのだ?」
「…盗み聞きですが、僕の瞳。公爵…父上と違って色が濃くて濁っているから大した力は引き継いでいないと…」
「ふむ。確かにエメラルド公爵とは違うな。公爵は透き通った色をしている。お前の目はどちらかと言うと…」
ルイーザさんは指先で顎を擦り僕の目をジッと見つめてくる。
ひょぇぇ…女の人とこんな目を合わせた事なんて今までないよ…けしからん!けしからぞ!!
恥ずかしさで耳まで熱くなるのを感じる。
「おや、私に見られて照れてしまったのか。確かに色は濃いが安らぐ色をしていて私は好きだぞ。」
この人生で一度も言われた事のない言葉をこうもあっさりと言われ完全にキャパオーバーになった僕は 頭から湯気を出して倒れ込んだ。
そんな僕を見てルイーザさんは笑う。
本当にこの人はよく笑う人だ。
「それよりリリックお前は婿養子にはなれんぞ」
「はい?!!」
ひとしきり笑ったルイーザさんは息を整えサラッととんでもない事を言ってきた。
「生まれた子供の色は両親の魔力量に左右される事は知ってるな?お前が婿入りする相手は私の妹だ。お前の魔力量じゃ、子を成しても我が家の色は生まれん。さっきのレッドベアは本来剣の立つ大人が5.6人で一頭討伐するのがやっとの魔獣だ。それをお前は1人で仕留めたのだから相当な魔力量を持っているはずだ。」
「そ、そ、そんな……」
貴族にとって色を継ぐ事は重要な事だ。
男児が産まれなかった家は別の家門から魔力の低い婿養子を取って色を引き継いでいく。
僕にまさかそんなに魔力があったなんて、勇者リリックは剣しか使わなかったから考えたことすらなかったな。
「それじゃ僕、用無しですか?実家に送り返されるんですか?なんとかなりませんか?別の婚約者探してきますからどうか、どうかこの僕を辺境伯邸に置いてください!!」
あの家に戻されるなんて冗談じゃない!僕は必死に懇願していた。
「何か訳ありか?まあ良いとりあえず次が見つかるまでは家に置いてもらえるよう父上に頼んでみるよ。領民を守ってもらった借りもあるしな」
「本当ですか?!ありがとうございます!!ルイーザ様!!!」
ルイーザさんは本当に優しい。
何度も何度も頭を下げて感謝を伝えた。
「ははっ、うむ。爵位や結婚に興味などないが、私の魔力量ならお前にも勝てそうだ。どっちの色が生まれるか一度試してみるか?」
突然にやにやと揶揄うようにセクハラ発言をしてきたルイーザさんに慌てて「僕はまだ精通してません!!」と言い返していた。
こんな綺麗な人にそんなこと言われて相手がその気になったらどうするんだ!本当にけしからん人だ!
プリプリと怒る僕をみて「冗談だ、お前は本当に面白いやつだな」とルイーザさんはまたケラケラと笑っていた。
さっきの発言は取り消す。ルイーザさんは意地悪だ!
しばらくしてモルガナイト辺境伯邸に着いた。
外観に力を入れているエメラルド邸とは違って国境を守る城塞都市のようなモルガナイト辺境伯領は機能性に特化しており城の周りも高い壁がが出来ている。
キラキラした城より、こういう無機質な城の方が僕の好みだ。
城の中もシンプルで使用されてるものは一級品のように思えるが、変にゴテゴテしてなくて上品さを感じられる。
出迎えてくれた使用人に荷物を預けてルイーザさんの後ろへ着いて行った。
「今日は客室へ案内するからそこでゆっくりしていてくれ。私は父上へ報告があるからまた夕食時に会おう。」
部屋に入りベッドに寝転んだ。
「異世界に来て4日。てんこ盛りな日々だったな…」
魔獣との戦闘でやはりかなり疲弊していた僕はそのまま眠ってしまった。




