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【書籍化】売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした【コミカライズ】  作者: 遥透子@『推し推し』『売れ残りエルフ』書籍化&コミカライズ
二章

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第117話 柔らかな朝の中で

「ごちそーさまー!!」


 リリィが丁度パンを食べ終え、椅子から力いっぱい飛び降りた。いつものことだが、いちいち元気が有り余っている。台所にばたばた走っていき、餌袋を掴むと、そのまま自分の部屋へ突撃していった。くまたんに餌をあげるのはリリィの毎朝の仕事だ。


リビングにくまたんがいないと思ってたが、どうやら今日はリリィのベッドで寝てるらしい。 


「リリィ、ご飯あげすぎるなよ」

「はーい!」


 聞いてるんだか聞いてないんだが、元気だけはいい返事が返ってくる。


「……賑やかだな」


 ジークリンデがぽつりと呟いた。リリィが駆けていった廊下を目で追いながら、少し目を細める。


「フロイド家は違うのか? メイドが沢山いて退屈しなさそうだが」

「気を遣われているからな。必要以上に話しかけてはこないさ」

「寂しい話だな」


 ゼニスにいた頃なんて毎日が騒がしくてしょうがなかった。なにせあの街にいる奴らは皆、遠慮も加減も法律すら知らない。力を示さなければ、家も財も、生きる権利だって持ってかれる。劣悪な環境だったが、賑やかさだけなら帝都の比じゃない。俺とリリィが出会ったのはそんな街だった。


「なあ、ヴァイス」

「ん?」


 ずっと前から準備していたような声色。直感的に真面目な話だと悟った。ジークリンデの表情で「やっぱな」と心の中で頷く。


「帝都に帰ってくる前は……どこで何をやっていた?」

「聞くのか? 幻滅するかもしれないぞ」


 恐喝、殺人、王族の拉致、奴隷購入────俺のやってきた事を帝都の法に照らし合わせれば、間違いなく絞首台送りだ。


「しないさ。今更お前が何をしようとも」

「はっ、かけれる迷惑は全てかけたか」

「私は本気だ」


 ジークリンデの目は冗談を言ってるようには見えない。だが、それでも真実を話す気は俺にはなかった。ジークリンデも俺のことは昔から問題児だと認識してるだろうが、どれだけ悪い想像を巡らせたところで、いいとこ出身のジークリンデにゼニスの常識は理解出来ないだろう。聞けば卒倒するような悲劇が石ころのように転がってるんだ。


「私にも言えないのか?」


 少しだけ傷ついたような……そんな声。


「悪いな」


 それ以上、何も言えなかった。適当に話をでっち上げても良かったが、ジークリンデに嘘は言いたくなかった。そうするくらいなら黙ってる方がいい。


 しばしの沈黙。

 窓の外では帝都の朝靄がゆっくりと晴れていく。柔らかな光が差し込み、食卓の上の食器をきらりと照らした。


「……そうか」


 ジークリンデは静かにうなずいた。怒るでも、詮索するでもなく、ただ受け入れたように。

 その表情が少し切なく見えたのは、俺の気のせいだったかもしれない。出来ればそうであって欲しい。


「私は……知りたいとは思っているんだ。本当のことを。だが、無理に聞いて壊したくはない。今の、この時間を」


 その言葉に、胸がきゅっと引き絞られた。


 ああ、そうだ。

 俺もまったく同じことを思っていた。


 言われて気が付いた──俺も同じ気持ちだと。 


 本当のことを言って、ジークリンデに嫌われるのは想像したくない。こんな弱さが自分の中にあったのが意外で、少しだけ息が詰まりそうになる。 


「折角こうして三人で暮らすことになったんだ。朝食の時間を気まずくしたくはない」


 ジークリンデはそう言って笑った。

 不器用で、ちょっと泣きそうな、妙に人間味のある笑顔だった。


「……助かるよ」


 本当にそれしか言えなかった。

 コーヒーをひと口啜る──苦味が今日はやけに優しい。


「くまたんがたくさんたべたー!」


 リリィが満面の笑顔で戻ってくる。両手は粉まみれで、頬にも餌のかけらがついていた。


「リリィ、顔が汚れてるぞ」

「え、どこどこ!?」

「ほら、ここだ」


 布巾で拭ってやると、リリィはくすぐったそうに身をよじりながら声をあげて笑う。その笑い声に釣られるように、ジークリンデも少しだけ口元を緩めた。


「リリィちゃん、本当に元気だな」

「そりゃあ、毎日が新しいことだらけだからな」

「……それはいいな」


 窓の外に視線を向けるジークリンデ。どこか遠くを見つめるような静かな横顔だった。


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