疲労促進症の特効薬
~ペガサス支部~
「到着……っと」
「無事に、帰って来れたね」
「はい。……でも完全に気を抜くのはローグさんにこれを届けてからです」
「だね。よし。本部へ急ごう!」
レイとティルファは腕にフワラリアを抱え、予め預かっていた選定公を使い本部へ向かう。
~世界連盟勇者斡旋ギルド・フィネックス本部~
「すいません!フェルグランさんに会いたいのですが、ここを通してもらえませんか?」
レイは本部に着くと真っ直ぐにフェルグランの執務室へ向かい、門番の一人にそう呼び掛ける。
「お前はレイ=キリサトだな?」
「はい!」
「フェルグラン様よりお話はお聞きしている。通るがいい。だが、そっちの女を通す訳には行かない」
「彼女も僕と同じ、フェルグランさんからの依頼をこなした仲間です!決して怪しい者では無いので一緒に通して下さい!」
「駄目だ。規則により許可のあるもの以外は通すことは出来ない。これ以上ごねるのなら、お前も危険因子の疑いアリとして一時的に監禁・監察を余儀なくされる。それが嫌なら、女はここで待っていろ」
「でも!」
「おいおい外で何を騒いでいる?レイの仲間なんだろう?通してやれ。俺が許す」
「フェルグランさん!」
レイが門番と言い争いをしていると、後ろの扉が開き、フェルグランが姿を現す。
外での会話が中にも聞こえていたようだ。
「御意。女、通れ」
「行きましょう!ティルファさん!」
「う、うん!」
「悪いな。融通が効かなくて」
二人はフェルグランに案内され、ローグが寝ている寝室に足を運ぶ。
そこでは数人の医者らしき人物と、苦しそうに呻いているローグの姿があった。
「ん、ぐぅぅぅ……あ、あぅ、ぁぁぁぁぁ」
「ローグさん……!フェルグランさんこれを!フワラリアの球根です!」
「おぉ!これがあればもう大丈夫だ!少し待っていてくれ。すぐに薬を作らせる。おい!急いで薬を作ってくれ!」
レイとティルファが医者らしき男にフワラリアの球根を渡してから約数時間。
男はビンに入った粉を持ってきた。
「フェルグラン様、こちらが疲労促進症の薬になります」
「よし。すぐに飲ませてやってくれ」
「分かりました。……ローグ様、聴こえますか?」
「あぁぁぁぅ、くっ、はっ……あぁ、聴こえる、よ、んっ!」
ローグは辛そうにしながらもなんとか返事をする。
「今、ローグ様が罹患している病気の特効薬が届きました。体調が優れない中申し訳無いのですが、これを飲んでもらっても宜しいでしょうか?」
「く、はぅ、あ、はぁ……あぁ……分かっ……た、それを……貸して、くれ」
ローグはそう言うと、男が持っているビンを受けとると、そのまま口にする。
「あ!ローグ様!それは水と一緒に!」
男がそう注意を呼び掛けた時には既に遅く、
「ゲホッ!ゲホッ!ゴホッカハッ!?ゲホッゲホッゲホッ!!!」
ローグは思いっきりむせてしまっていた。
「……お前、ゴホッゴホッ!俺を殺す気か……!?」
「ローグ様が人の話を最後まで聞かずに薬を飲んでしまわれるからですよ。あれは普通の粉薬と違って水分の吸収が異常なまでに速いんです。水と一緒に飲まなければ喉が即座に渇いてしまい、むせてしまうんです」
「ゲホッゲホッゴホッ!悠長に説明してないで、ゴホッゴホッ水を!水をくれ!」
「どうぞ」
ローグは男からコップに入っていた水を受けとると、ゴクゴクとスポンジが水を吸収するように飲み干し、一杯だけでなく何杯も何杯も飲み続けた。
「うぷ……」
その結果、ローグのお腹は水っ腹になる。
先程とはまた別の意味で苦しそうに呻く。
が、その甲斐あってか薬の効果はすぐに現れた。
「……凄いな。あれだけ動くことすらままなら無い程に弱りきっていたのに、それが嘘のように回復している」
ローグの様子を見て、フェルグランがそう呟く。
「ローグ、調子はどうだ?」
「ん?あぁ、かなり……というかほぼ完全に治った感じだ。多少の気だるさは残っているが、さっきほどじゃない」
「薬が効いている証拠ですね。余程質の良いフワラリアを採取してきたのでしょう。普通ならまだ二~三日は寝たきりでしょうからね」
「質の良いフワラリア……」
男のその言葉にレイは少し考える。
あのフワラリアはストーム・ジャルグーンベアーが取ってきてくれたもの。
もし、僕達が見つけて取ってきていたとしたら未だにローグさんは苦しんでいたかもしれないなと。
こんな所でまでストーム・ジャルグーンベアーの世話になり、改めて感謝の念をレイは抱く。
「良かった……ローグさん大丈夫そう」
「ふむ。これもレイと、そちらのお嬢さんのお陰だな。ローグ。礼の一つでも言ってやれ」
フェルグランにそう言われ、ローグはベッドから立ち上がり、二人の前まで歩いて行く。
「レイ、ティルファ。ありがとう。お陰でようやくあの怠い病気から立ち直る事が出来た。これで仕事の方にもすぐに取りかかれそうだ。ローグ・アウグストとして、ペガサス支部のギルドマスターとして、改めて礼を言わせてもらう。本当に助かった。ありがとう」
ローグはそう言うと、二人に向かって深々と頭を下げる。
「いえ、僕がリフレクティノイドとの戦いの後に寝込んでいた時にローグさんにはかなりお世話になったみたいですし、当然のことですよ」
「私もローグさんには普段からお世話になってますし、たまには恩返しぐらいはしとかないと」
「ありがとう。二人とも」
「はっはっは!ローグは良い仲間に恵まれているようだ。友が慕われているのを見ると、私まで嬉しくなってくるよ」
「よせ、照れる」
頬を少しだけ赤らめながらローグはフェルグランの右肩をドン、軽くと小突く。
それを見たレイとティルファがクスリと笑い、ローグは更に顔を赤くする。
職業柄あまり人と密接に近づかないせいなのか、ローグはこの手のことに慣れていないようでその後も暫くフェルグランとレイとティルファの三人にからかわれていた。
「……よし。まぁでもこうして元気になったんだ。バラスト。ローグはもう通常の仕事に戻っても支障は無さそうか?」
「そう、ですね。病気自体は恐らく完治していますが、今まで寝たきりだった分に加え、病気の影響で身体や筋肉がかなり弱りきっていると思われます。私としてはもう二~三日は雑務をしながらでも簡単なリハビリを受けて貰いたいのですが。別に受けなくても問題はありませんが力仕事や戦闘行為は行えないと思っていて下さい」
「だ、そうだが?どうする?ローグ」
「そうだな」
男は……バラストと呼ばれる医者はローグに数日のリハビリを受けるように勧める。
ローグが疲労促進症に罹患して、寝ていた期間は約三日間。
通常ならたった三日寝たきりになったぐらいでそこまで弱りきりはしない。
けれども疲労促進症の場合は別で、これに罹患するとたった三日と言えども身体に多大な影響を及ぼす。
元々身体を鍛えていたローグにとっては日常生活を送るぐらいなら何の問題も無いが、いざどこかで魔物と戦うとなると全快時の二割程度の力しか引き出せない。
ローグも自分の身体のことはよく分かっているのか、バラストからそれを聞くと少しだけ悩むとリハビリを受けると伝える。
「分かりました。ではフェルグラン様、本部の養成施設の一室をお借りしても宜しいでしょうか?」
「あぁ構わない。どこを使うつもりだ?」
「普通の鍛練場と、重力場を使わせて貰いたいのですが」
「……クリスティア!」
「はい!」
「鍛練場……は大丈夫だな。重力場を使用する人は向こう数日間で誰かいるか?」
「え~とですね……あ、スペリー・ベックマン博士が実験で使うだけでそれ以外は特に無いですね」
「よし。あいつに数日予定をズラせと言っておいてくれ」
「分かりました!それでは!」
クリスティアはフェルグランから言伝てを受けとると、またいつものように転移で消えてしまった。
「スペリーさん……」
「ん?レイ君知ってるの?」
「ん、まぁ、その、ちょっとね」
フェルグランのスペリーの扱い方にレイはなんとも悲しくなってしまう。
あれだけのことをやってしまった以上、しょうがないと言えばしょうがないのかも知れないが、それでもレイはスペリーに対し同情の念を抱かずにはいられなかった。
「……あいつの研究など、遅らせた所で大した問題は生じない。本来ならまだ暫く独房にぶちこんでおいてやりたいが、下手にあいつが優秀なせいでそうもいかないからな……!」
なんとも言えぬ感情でフェルグランがぼやく。
それを聞いたレイはあははと苦笑いをし、フェルグランから視線を逸らす。
「はぁ……まぁバラスト。重力場はお前達以外誰も使わないようにしたから自由に使ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「あぁ。ローグも、早く復帰できるよう頑張ってくれ」
「当たり前だ。いつまでもギルドマスターが不在じゃ格好がつかないからな。それをアイシャに仕事を投げっぱなしなのも心苦しいし、せいいっぱい頑張るよ」
「そうしてくれ。それではバラスト。宜しく頼んだぞ」
「はい。それでは失礼します」
「レイ、ティルファ!俺がペガサス支部に戻ったらいつでもいいから一度顔を出してくれ。頼みたいことがあるんだ」
「あ、分かりました」
「分かりました」
「おう!それじゃあまたな」
ローグは二人にそう言い残すと、バラストと共に部屋から出ていった。
「ふぅ。よし。これで一先ず解決だな。私の方からも礼を言わせて貰うよ。ありがとう。レイ。それに、お嬢さん」
「当然のことですから」
「私もです」
「ふふ、ローグは本当に良い仲間に巡り会えたようだ。……それじゃそろそろ報酬の話をしようか。レイと……」
「あ、ティルファです。ティルファ・ローエンスです」
「名前も知らず申し訳ない。それでレイとティルファは報酬は何が良い?一応レイだけに向けた指名クエストで、分類としては秘境への薬草の採取クエストではあったが2人のその様子を見る限り、かなり過酷なクエストになってしまったのだろう?」
レイとティルファはフェルグランにそう言われ、改めてお互いの顔や容姿を見て見る。
肌が露出している部分は必ずと言っていい程に傷を負っており、着ている鎧や服も傷だらけになり血や土で薄汚れてしまっている。
マジマジと観察せずとも2人がそれなりの修羅場を乗り越えてきたのは明確だった。
そんなお互いの姿を見て、2人はあははと苦笑いを浮かべるしかなかった。
「フワラリアの採取だけだから比較的安全なクエストになるだろうとタカをくくっていた私のミスだな。恐らくレイだけではこのクエストの達成は難しかったのだろう。どういう経緯で、何が起こったのかは分からないがレイだけではなく協力者であるティルファにも同様の報酬を出す事を約束しよう」
私は何もしてないです。レイ君が居たからこそ達成出来たんです。と、ティルファは言いかけたがそれはレイによって止められる。
レイとてティルファが居なくとも完全にクエストを達成出来ていたと自信を過大評価する程愚かではない。
ティルファが居たからこそ、こうして無事にフワラリアを採取出来たと実感している。
だから自分1人に手柄が向かうような真似は絶対にさせない。
「今回の二人の働きは感謝をしてもしきれない。私の友を苦しみから救い、貴重な代わりの効かないギルドマスター職に長期間穴を空けずに済んだ。だからどんなものでも無制限に、というわけにはいかないが私の権限で用意出来るものであればなんでも用意させてもらおう」
フェルグランの報酬の話にレイとティルファは悩んでしまう。
元々レイは報酬の為では無く、ローグの為に依頼を受けた。
それはティルファも同じで報酬が欲しいからといってレイに付いていったわけではない。
二人ともローグへの恩返しの為に今回の依頼を受けた為に、これといって欲しい報酬が思い浮かばないのだ。
だから結論として、二人が望む報酬はこう言うしか無かった。
「それならローグさんに欲しい分だけの休暇を得る権利を上げて下さい」
「……は?」
「あ、なら私もそれでお願いします」
「…………?」
2人の回答は完全に予想の斜め上を行っていた為か、フェルグランは言葉に詰まってしまう。
そして、ようやく頭の中で二人が言っていることを理解すると今度は大声で笑い始めた。
「くっふっふっ!あっはっはっはっはっ!なんと!なんと欲の無いことか!いくらこうして無事に帰ってきたとしても、2人のその様子を見れば如何に危険な橋を乗り越えてきたのかは想像するのは容易い。それなのにお前達はその報酬を、ローグの為に使うか!くっくっくっ!」
二人の言葉に嘘は無い。
それを見抜いているからこそ、フェルグランは笑う。
そうして笑いが落ち着くとフェルグランは言葉を続ける。
「分かった!それならローグにそう伝えておくとしよう。全く……お前達のような勇者は始めてだよ。この前のレイもそうだったが……くっくっ!まぁそれはお前達が決めることだからな。お前達がそれで良いのなら私は全然構わない」
「はい」
「はい」
「まぁでも、そうは言っても流石にそれだだけだと私が心苦しくなってしまうからこれを渡しておこう。何よりも私はお前達が気に入った!」
フェルグランは机の中から銀色のブレスレットを二つ取り出すと、それをレイとティルファに手渡す。
「そのブレスレットは簡易版の選定公だ。名前を集合公と言う。それさえあれば選定公が無くとも本部へ自由に来ることが出来るし、私にも無条件で面会が出来るようになる」
「凄い……」
「そんなものを……頂いても宜しいのでしょうか?」
「あぁ構わない。お前達の我が友、ローグへの想いは本物であるようだし、私もお前達は信頼に値する人間だと判断した。だから何も気にすることは無い。本部には支部には無いような設備も沢山ある。機会があればたまには遊びに来てくれ」
「分かりました」
「ありがとうございます」
レイとティルファは受け取ったブレスレットを左腕に着ける。
「使い方はアセンブルと唱えればいい。基本どこからでもここに来ることが出来る。元の場所に帰るときも同じように、途中で他の転送石板を使ってさえ居なければ元居た位置に帰ることが出来る」
「なるほど……了解です」
「はい!」
「後は……他に伝えなければならない事は何も無いか。お前達から何か他に私に言いたいことはあるか?」
「いえ、僕は何も」
「私もです」
「そうか。なら後は好きにしておいてくれ。私も通常の業務に戻るとするよ。邪魔さえしなければここに居てくれてもいいが、まぁ好きにするといい」
レイはティルファと視線で会話をすると、ペガサス支部に帰ることに決める。
「あ、それなら僕達はもう戻ります」
「そうか。お前達も疲れているだろうからな。ゆっくり休んでくれ」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「それでは、失礼します」
二人はフェルグランの部屋から退出すると、本部に設置されている各支部へと繋がっている転送石版を使い、ペガサス支部へと戻っていった。
ようやく秘境でのお話が終わりました。
長々とやってしまって読者の皆さんを飽きさせてしまったのでは無いかと懸念しております……
次回からは長いこと戦闘パートが続いていたので暫くはのんびりゆっくりとした物語にしていくつもりです。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます。
次回の投稿は申し訳ありませんが私の都合でお休みさせて頂いて、その次の土曜日の10月31日投稿させて頂きます。
まだまだ拙い作品ではありますが、これからも
『こちら世界連盟勇者斡旋ギルド!チート勇者を募集中!』
を宜しくお願い致します。




