災害VS災厄
「えっ!?」
突然脳内に鳴り響いた声明の内容にレイは驚き、混乱するが、すぐに冷静になりすぐさま新しく会得した能力とこれまで放置していた無呪裸の能力に観察眼を使用する。
もしかすると、現状を打破できるものかも知れないと淡い希望を抱いて。
『固有能力・無呪裸
使用者を中心に半径15m以内に居る生物全てを対象に、使用者が想像するままの幻覚を発現させることが出来る。
想像力が強くなればなるほどそれに比例して幻覚もより現実味を帯びる』
『修得能力・真に仲間を想う心
真に仲間を想う心の能力を持つ者が近くに居る場合、その数に比例して身体能力が上昇する』
『固有能力・闇之天体
未知の侵略者が進化した上位互換の能力。
能力の発動の際に消費する魔力の調整をすることが出来、消費した魔力の量によって放たれる黒球の速度・威力が変わる。
また、使用者が触れているものに魔力を流し続けることで流した魔力の量だけ重力を加えることが出来る。
“解析不能”と併用することで“解析不能”の基となる能力を統合して各種“解析不能”を解放することが可能』
「また解析不能……?いや、そんなことはどうでもいい!これなら……いける!」
解析の結果はレイの予想を大きく上回るものだった。
再び解析不能の言葉が出てきたことに疑問を抱くもすぐにそれを振り払い、即座にイオマンテに向けて両手をかざし、闇之天体を放つ。
「闇之天体!」
左手と右手から1つずつ未知の侵略者の時と同じような黒球が飛び出し、真っ直ぐとイオマンテに向かって飛んでいく。
ただし、その速度は未知の侵略者と比べようもなく速い。
闇之天体が発動されてからほんの数秒で黒球は内包された威力を解放し、着弾地点一帯を押し潰して消滅させる。
消滅した範囲こそ未知の侵略者には劣るが、それでもイオマンテの暴風と同じくらいの範囲は消滅している。
これをまともに喰らえば確実に死を与えることが出来るのだが、
「やっぱりそう簡単にはいかないか」
手負いとは言え仮にも相手はジャルグーン樹海の絶対的強者となった魔物。
直前に黒球の驚異的な威力に本能で気づき、体が軋むのも気にせず全力で後ろへ飛び退いて回避していた。
この攻撃によりイオマンテはティルファ同様レイのことを自らの命を脅かす危険因子として認識する。
イオマンテは攻撃を回避してから間髪入れずに今放てるだけの暴風とカマイタチをありったけレイが居る方向へと放つ。
それに対してレイは避けるわけでも防ぐわけでも無く、完全に無防備な状態で飛んでくる全ての攻撃をその身で受け止める。
後に残ったのは無惨に刻まれた樹木と消し飛んだ地面のみ。
『オォォォォォォォォォォ!!!』
あっけなくも確かに殺した手応えにイオマンテは勝利の雄叫びを上げる。
狂喜乱舞。
そう例えるのが適切な程にその雄叫びは喜びに満ちていた。
しかし、イオマンテの歓喜の雄叫びはすぐに驚愕の咆哮へと変化する。
『ゴガ?アァァァァァァァァ!?!?』
ふいに額の角に感じた背後からの生物の接近。
本来ならばそんなことはありえない。
周囲にはイオマンテとレイ、それに瀕死のティルファしか生物は存在せず、そのうちのレイはイオマンテが殺し、ティルファは動ける状態では無かったのだから。
けれどもイオマンテが後ろを振り向くとそこには確かに生物が居た。
それもイオマンテが殺した筈のレイが。
そして、イオマンテの驚愕は更に続く。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
「ギャゴ!?!アァァァァァ!!!?」
レイがイオマンテの左腕を切り落としたのだ。
完全に気が緩みきっていた所に突然の接近。
ふいをつくには充分すぎる環境が整っていた。
イオマンテは現実に起きたことに対して理解が追い付かず、パニックになる。
何故生きている?どうして左腕が切り落とされた?何時近づいてきた?
そんな考えでイオマンテの頭は一杯になる。
それはつまり、一瞬の隙が生死を分けるこの戦いの中で致命的な失敗と言える。
「なるほど……これはかなり便利かもしれないな」
続いて右腕もたった一撃で切り落とされて初めてイオマンテはある感情にその身を支配される。
これまで生きてきた中で一度あるか無いかの感情。
けれどもこの樹海の王者としてそれを認めたくは無い。
その迷いが更にイオマンテの感覚を鈍らせ、レイの追撃を許してしまう。
「名付けるなら重力剣……といった所か」
すんでの所でレイの攻撃を見切り、左側へ飛び退くが完全に避けきることは叶わず脇腹に裂傷を負ってしまう。
そこからは滝のように血が流れ、少しずつ命を削っていく。
獲得した自然治癒能力も切り落とされた腕の付け根の傷を治すことが精一杯で中々脇腹の傷を治すまでにはいかない。
スコールでレイの動きがまだイオマンテよりも劣っている為になんとか逃げることは出来るが、それも時間の問題。
徐々に徐々に互いの距離は詰められていく。
そして後が無いほどに追い詰められる、イオマンテは逃げるのを止めてレイと向き合う。
『………………』
認めたくは無かった。
部下を大勢殺し、尚且つまともに戦いもしない弱者が自分を追い詰めるなど。
この樹海において最早敵など居ない程に強く、進化した自分がこんな卑怯者に対して恐怖を抱くなど。
だからこそ、ここでようやく気付くことが出来た。
自分が如何に部下の命を雑に扱ってきたのかを。
大勢の部下にしても、自分以外では一番古参だったジャルグーンベアーにしても死に対する恐怖はあったはずなのに、それを意にも介さずただただ強制的な命令に従わせて無理矢理戦わせていた。
それがどれ程恐ろしいことなのかが、今なら分かる。
だからこそ、自分も逃げるのを止める。
部下が戦って死んだように、自分も戦って死ぬのがせめてもの弔いとなると考えたからだ。
イオマンテはこれをレイとの最後の戦いにすると決め、自分に活を入れる為に、レイに威圧を与える為に力の限り雄叫びを上げた。
『オォォォォ!!オォォォォォォォォ!!!』
イオマンテが雄叫びを終えると、その姿に更なる変化が現れ始めた。
「何が……?」
紅と漆黒に染まった剛毛が少しずつ深い緑色に変化し、全身に負っていた傷口は全て塞がり流血も止まっていた。
両腕こそ再生していないものの、イオマンテの姿は前身であるジャルグーンベアーに酷似しているものとなった。
最後の最後で自らの愚かさを自覚し、覚悟をしたが為に肉体がそれに呼応して退化したのだ。
「……観察眼」
『ストーム・ジャルグーンベアー
K・イオマンテが過剰に魔素を体内に取り込んだ結果変異した姿。また、ジャルグーンベアーが一定の経験値を積む事でも変異する事の出来る姿。
身体能力は通常のジャルグーンベアーよりも上昇している。加えて風を扱う能力や技の使用などに特化している。
全身を覆う深い緑色の体毛と、驚異的な再生能力が特徴』
(ストーム……ジャルグーンベアー……?弱くなった、のか?)
ストーム・ジャルグーンベアーはK・イオマンテに比べて遥かに身体能力が落ちている。
当然、戦闘能力も比べ物にならないくらいに減衰している。
この突然の退化にイオマンテは怒ることも、嘆くこともなく、ただただ喜びにうち震えた。
憎しみの果てに進化し、絶対的な強者となって数多くの命を無駄にさせてしまったK・イオマンテの時の肉体よりも、産まれた時の自分の姿に酷似している今の肉体の方が何故か心が軽く感じるからだ。
その理由は分からない。
けれども、新たな力を手に入れ、体力こそ削られてはいるがこれでまともに戦うことが出来る。
部下を弔うことが出来る。
償うことが出来る。
今のイオマンテにストーム・ジャルグーンベアーに憎しみの感情は無い。
純粋に澄みきった仲間への心がストーム・ジャルグーンベアーの心を満たしている。
だからこそ、今のストーム・ジャルグーンベアーは強い。
『グガァァァァァァァァァ!』
ストーム・ジャルグーンベアーが天に向かって雄叫びを上げると、あれだけ酷く降り続いていたスコールが一瞬にして止み、雲は晴れて晴天となる。
青天豪咆という名の、咆哮一つで雲を吹き飛ばして曇りや雨を晴れにする天候干渉型のストーム・ジャルグーンベアーが変異の際に手に入れた能力だ。
これで地形的条件はお互いに一緒になった。
「お前……正々堂々と戦おうとしているのか?……いや、まさかな。でも、お前がその気なら僕も全力で相手をしてやる!無呪裸」
無呪裸によりS・ジャルグーンベアーは目の前に複数のレイが迫り来る幻覚を魅せられる。
どれもが全く別の動きをし、見た目だけでは本物か偽物かを見分けることは出来ない。
だが……そんなことはS・ジャルグーンベアーにとっては関係が無かった。
『ゴガァ!』
「クッ……と!何の迷いも無く狙ってきたな」
今のストーム・ジャルグーンベアーは風の扱いに長けた魔物である。それ故に風は自身の一部のようにもなっていた。
今、この場の大気はストーム・ジャルグーンベアーに掌握されており、どれだけ小さな大気の乱れであってもその詳細を肌で感じ取れるようになっていた。
その事により、最も大気の動きが乱れている場所にいるレイが本物であるとみなして思いっきり横蹴りを喰らわせたのだ。
勿論それを大人しく喰らうレイではなく、すんでの所で剣で受け止める。
普通ならそのまま蹴りの力で横に飛んでいってしまうのだが、今のレイが持っている剣は闇之天体により何十トンという重さの剣になっている。
いくらS・ジャルグーンベアーと言えども何十トンもの剣を蹴るだけでは動かすことは出来ない。
剣そのものが身を守る盾と化している。
それに、剣聖の能力のお陰でレイは重さを一切感じることは無いし、どれだけ攻撃を受けようとも壊れることも無い。
何よりも大概の物質であれば何の力を加えずとも慣性の法則に従いながら降り下ろすだけで斬ることが出来る。
レイがK・イオマンテの時の両腕を難なく切り落としたのもこれのお陰である。
「でも……イオマンテの時に比べると、やっぱり遅い」
レイは好きが出来たストーム・ジャルグーンベアーの脚を斬りつける。
『ゴガ!』
切断するまでにはいかなかったものの、深い切り傷を負わせることに成功する。
けれどもそれは即座に再生し、ストーム・ジャルグーンベアーの反撃がレイを襲う。
「おいおい冗談じゃ無いぞ……!?」
無動作でストーム・ジャルグーンベアーから放たれたのは天高く伸びる二本の竜巻。
“激竜槍”と呼ばれる風を扱う技の中では最上級魔法にも匹敵するものである。
削られる体力が相当な技なのであるが、ストーム・ジャルグーンベアーは気にしない。
当たれば一撃必殺の技。
移動速度もそれなりにあり、思考の余地が無い程にレイに真っ直ぐと向かってくる。
「四の五の言ってられないなこれは……!頼むから魔力切れを起こさないでくれよ!闇之天体!」
それに対してレイはこれまでよりも多く魔力を加えた闇之天体をそれぞれの竜巻に放つ。
竜巻の威力がレイの想像を遥かに越えており、加えた魔力量では闇之天体をもってしても威力を完全に消すことは出来なかった。
けれども移動速度を落とすぐらいには効果があり、その間にレイは新たに先程加えた魔力を倍にした闇之天体を放つ。
『ゴァァァ!?』
それでようやく竜巻を消すことに成功する。
ストーム・ジャルグーンベアーもあれが消されるとは思っていなかったのか、驚愕の声で吠える。
……が、それだけ自信のあった技を放っただけあって、レイもかなり体力を消耗していた。
魔力が切れる寸前の所まで来ており、体に支障が出始めたのだ。
「はぁ……はぁ……クソ!ヤバイぞ……!どうにかしないと……」
脚は震え、頭痛が酷く、息切れも激しい。
まともに思考をすることさえも難しくなっている。
レイはなんとか時間を稼いで魔力の回復を狙うが、
『ゴガァァァァァァァァ!!!』
まだ元気のあるストーム・ジャルグーンベアーはそれを許さない。
レイと同じようにかなり体力を消耗してはいるが、まだ敵を追い詰めて攻撃するぐらいの力は残っている。
そのままレイに駆けより全力で蹴りつける。
……蹴りつけたつもりだった。
『ゴァ?』
実際にストーム・ジャルグーンベアーが蹴ったのは何の変哲もないただの岩だった。
敵の姿を見間違えることの無い自分と、事実岩と敵を見間違えた自分の妙な違和感に一瞬考え、一瞬で原因に気づく。
体に走る激痛と疲労で幻覚を魅せられていた事に気付かなかったのだと。
それに気づくや否や、レイの姿を確認する前にとにかく高くジャンプして逃げる。
「チッ気づいたか」
どこからレイが攻撃してくるのか分かっていたわけではない。
だが、前回の経験からまた背後から攻撃されるだろうと考えたので上空に逃げたのだ。
「でも……空中じゃ完全無防備。これなら……!」
勿論考えなしに上空に逃げたわけではない。
前は確かに無防備であったが、今は違う。
風を操ることに長けた魔物。
それは突き詰めれば、大気をも操ることになりうる。
ストーム・ジャルグーンベアーは自身が使える最高の技をレイに仕掛ける。
いくら再生能力がずば抜けているとは言え、失った血や体力は時間をかけて戻すしかない。
それ故に、ストーム・ジャルグーンベアーの体力もそろそろ限界に近い。
だからこそ、まだ最高の技が使えるだけの体力が残っているうちに戦いにけりを付けようと考えたのだ。
恐らくこれが、ストーム・ジャルグーンベアーにとって最後の攻撃になるだろう。
突如として無風状態から発生した突風は鋭く速くなり、それはカマイタチと化し、巻き起こるカマイタチは風に乗って爛々と飛び交う。
そしてそれらはやがて1つの場所へと集約し、荒ぶる大気の力を秘めたものへと変貌する。
それはK・イオマンテの時の暴風やカマイタチの比ではない。
例えるならこれは嵐。
人類が恐れる自然現象の中でも広範囲に渡って甚大な被害を出す災害。
レイはこの攻撃がまともな威力では無いと人間の本能で感じとりそして、ストーム・ジャルグーンベアーの最後の攻撃だと感じとった。
レイは全力で戦うと望み、誓った以上それに応える義務があると考えている。
何よりも、これだけやって勝てないのなら自分の努力不足だと言うことで、何も悔いは無い。
だからこそ、レイも最後の攻撃として全力の一撃を放つ。
魔力を完全消費した闇之天体を。
「これで……終わりだぁぁぁぁ!!!闇之天体!」
投稿するのが遅れて本当に申し訳ありません!
次回の投稿はちゃんと出来るように頑張ります!




