反撃し、反撃される者
「恐れよ。地の神を。敬え。樹の神を。讃えよ。獣の神を。我は彼らの眷族なり。
耳を傾けたまえ。地の神よ。我は汝の体を駆ける者。
耳を傾けたまえ。樹の神よ。我は汝と共存する者。
耳を傾けたまえ。獣の神よ。我は汝と勇む者。
地を統べる3柱の神に願いを申す。
我に汝らの力の一部を与えたもう。
身体之極化!」
ティルファはイオマンテの姿を捉えると即座に身体之極化の詠唱を完了させ、発動する。
これで先程までとは比べ物にならない程に身体が強化された。
イオマンテに比べると若干その力は劣っているが、一対一で相手取るには充分だ。
ティルファは身体之極化発動時にしか使えない技を惜しみ無く繰り出す。
「魔導式剣術漆之型・輪舞響響!魔導式剣術捌之型・刀魂烈火!魔導式剣術玖之型・天狐迅雷!」
『グガァァァ!?』
ティルファの繰り出した技が正確にイオマンテへと向かう。
それを避けようと音速で移動するも、その移動した先にも技が待ち構えており、完全に避けきることが出来ない。
輪舞響響は円を描くように鋭い斬撃・鋭くない斬撃を交互に放つ技だ。
鋭い斬撃は体の部位を切り落とす為のもので、鋭くない斬撃は深傷を負わせて苦しませながら弱らせる為のもの。
斬撃が円を描くように飛ぶ為に、どれだけ技の特性を熟知している者でも避けるのは難しいとされる。
刀魂烈火は剣・刀の切っ先に魔力を込めて、炎系の魔法を斬撃に付与して放つというもの。
攻撃の形は魔空波斬と変わりはなく、斬撃に属性が付与されているかいないかの違いがあるだけである。
しかし、傷口が発火しそこから更に燃え上がるという事を考えればその脅威は魔空波斬とは比べ物にならない程に上がっている。
天弧迅雷は刀魂烈火と同じく切っ先に魔力を込めて斬撃を放つというもの。
刀魂烈火との違いは、その付与する属性が雷であり、それを頭上の雲に当てることでほんの少しだけ落雷の位置を自在に変えることが出来る所だ。
これら三つの技を使いティルファはイオマンテを翻弄し、的確に攻撃を当てていっている。
輪舞響響が避けられれば刀魂烈火で位置を誘導し、そこに天弧迅雷で落雷を落とす、といったように。
如何に音速で移動出来るとは言え、その速度は落雷よりも遅い。
限界まで自身の肉体を強化したティルファにとって、音速で移動する生物を誘導してそこに雷を落とすことなど造作も無いこと。
十手先までイオマンテの動きを予想し、肌で空気の揺れを感じて場の状況を把握し、なんとか目視出来るようになったその姿を一瞬も見逃さない。
これだけのことを身体之極化の効力が続くまで行使出来るのだ。
少しの余裕を感じてきたティルファはこのまま倒すことが出来るのではないか?と思う。
事実先程までとは立場が逆転し、劣勢なのは明らかにイオマンテの方である。
だが、ここでその状況を覆す事態が発生してしまう。
「天弧迅雷!……え?どうして発動しないの!?くっ!なら!刀魂烈火!……これもなの!?」
魔力切れが起きたわけでも無いのに、ティルファが放った技はいずれもただの斬撃のみ。
攻撃の手が緩んだイオマンテはティルファと一度距離を置く。
「一体何が……!まさか!?」
突然の事態にも焦らずティルファは冷静に現状を分析する。
そして二つの技がちゃんと発動しなかった原因に気づく。
「高速移動!……やっぱりこれも駄目なのね」
高速移動が発動出来なかったことからティルファの考えは疑問から確信へと変わる。
「なんてタイミングの悪い……!」
『ゴガァァァァァァ!!!』
「くッ!?」
「ティルファさん!」
「来ないで!レイ君はそのままチャンスを掴むことだけに集中して!」
「……っ!了解です!」
ティルファが魔法を使えなくなった理由、それはジャルグーン樹海を秘境とたらしめている所以である魔力磁場の作用によるものである。
偶然にもレイ達が戦っている付近一体は魔法が一切行使出来ない環境になってしまった。
しかも、これにより天候までもが急激に変化し、バケツをひっくり返したようなスコールがレイ達を襲う。
「うっ!?」
「くぁ!?」
全く動けない程ではないが、それは二人の動きを鈍らせるには充分な量と勢いである。
ティルファには身体之極化の効果があるので少しだけパフォーマンスが落ちる程度で済んでいるが、それも時間の問題だ。
魔力磁場により魔力を供給出来なくなった身体之極化は徐々に効果が薄くなってきており、完全に効果が解けるまで約五分という所まで迫っている。
この効果切れまでに現状を打開しなければ二人に待ち受けているのは逃れようの無い『死』のみである。
イオマンテも音速で動けなくなってはいるものの、二人よりは遥かに自由に動くことが出来る。
全身の裂傷に突き刺さるスコールの激痛に意識を失いそうになるも、攻撃の手が緩んだ今こそが好機だと捉えてイオマンテが反撃を始める。
『ゴ、ガァァァ!ァァァ!!』
「そろ!そろ!倒れなさい、よね!魔導式剣術拾壱之型・血桜之舞!」
イオマンテの放った全力の一撃、二つの暴風と、ティルファの放ったガトリングの如く激しい斬撃の弾幕がぶつかり合う。
しかし、一方は単発大威力の攻撃、一方は連発小威力の攻撃。
互いが互いの攻撃を相殺し合うということは無く、若干威力を落とすぐらいに止めて真っ直ぐ互いを狙う。
「きゃぁぁぁぁ!」
『ゴガ……ゴガァァァ!!!』
暴風によって避けきれない数のカマイタチがティルファを襲い、威力を消しきれ無かった細かい斬撃が横から落ちてくるスコールのようにイオマンテを襲う。
「ティルファさん!」
今までとは比べ物にならない程の衝撃にレイはとうとう飛び出してイオマンテの前に姿を現してティルファを介抱する。
「簡易治癒!応急治癒!完全治癒!……まだ駄目なのか!」
しかし、魔力磁場の影響は尚も続きティルファの治癒をすることが出来ない。
傷の痛みとスコールの激しさにティルファは意識を失う
流石にこのままでは本当に不味いと思い、スコールに打たれながらもレイはティルファを抱えてイオマンテから距離を離す。
幸いにもイオマンテは両膝を地面につき、頭を垂れてグッタリとしている。
今こそまさに未知の侵略者を放つ好機であるのだが、ティルファがこんな状態な以上、何が起こるか分からないこの樹海で例え数分でも魔力切れで完全に無防備な姿を晒すわけにはいかない。
レイはイオマンテを後ろ目に見ながら必至に移動する。
その時、イオマンテに異変が起こっているのをレイは確認する。
グッタリとしていた体はブルブルと震え、黒い体毛は心なしか逆立っているようにも見える。
これは急がないとヤバいと思うが時は既に遅く、
『ゴギャァァァァァァァ!!!』
これまでに無い巨大な咆哮を上げたかと思うと半ば錯乱状態で目に見える物全てを片っ端から攻撃、破壊していく。
幸いにもまだレイ達の姿は捉えられていない。
レイは動けないティルファを近くにあった樹のウロに隠し、イオマンテを逆の方向に誘導する。
『ゴギャァァァァァァァ!?!』
「来い!こっちだ!」
ティルファの攻撃により自然治癒が間に合わなくなったイオマンテの移動速度は格段に落ち、それに加えて未だ降り続けるスコールの影響もあって大した傷を負っていないレイでも追い付かれることなく逃げることが出来た。
途中、吹き飛ばされた木片が所々掠ってしまうものの、大体ここぐらいまでなら安全だろうという距離まで逃げるとバッとイオマンテに向き直り、対峙する。
それを見たイオマンテも暴れるのを止め、身を震わせながらレイを睨む。
『ゴギャァァァァァァァッッッッ!!!』
「くっ!」
改めて感じる完全な強者のプレッシャーにレイは気圧されるが、それでも怯むことなく剣を構える。
(……今の僕にはこいつを倒せるだけの力は無い。魔法が使えず、能力も一発限りの未知侵略者だけじゃ……。でも、倒すことが出来なくても更にダメージを与えることは出来るかも知れない。ティルファさんが目を覚ますまでの時間稼ぎにはなるかも知れない。その為なら……僕は!)
「さぁ来い!K・イオマンテ!今度は僕が相手だ!」
『修得能力・真に仲間を想う心が解放されました』
『真に仲間を想う心の解放により、解析不能の能力の使用条件が満たされました』
『解析不能の能力が発動されました。固有能力・未知侵略者を進化、固有能力・闇之天体へと進化しました。この能力はまだ進化の可能性を秘めています』
若干ぼかした表現ですが、35話目にしてとうとう正体不明の能力が発動されました!
これが一体どのような力を持っているのか、やっと着手することが出来そうです。
プロットが弱いのでまだまだ練らないと……!
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次回の投稿も次の土曜日を予定しています。




