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K

 先手必勝。

 レイはティルファの許しが出ると同時に観察眼(ハウンド)で目の前の魔物を解析する。



「あっ……!?」



 解析の結果、レイは驚くべき事実を知ることになる。



K(キング)・イオマンテ


 ジャルグーン樹海の王たる資格を持つジャルグーンベアーが数多くの魔物を喰らって進化し、存在を昇華させたことで自身に眠るK(キング)の称号を覚醒させた存在。


 前身であるジャルグーンベアーと比較するとその身体能力は遥かに上昇し、両腕から放たれる全力の一撃はカマイタチに止まらず、全てを切り裂く暴風(ストーム)を巻き起こし、地を全力で駆け抜ける脚から生まれる速度は音速を超え、障害物を薙ぎ払うソニックブームが発生する。


 王たるが故の咆哮は格下の魔物であれば意のままに操ることの出来る絶対的な強制力を誇っており、Q(クイーン)J(ジャック)A(エース)の称号を覚醒させた魔物でさえも自在に操ることが出来る。


 進化の際に、ジャルグーン樹海に生息する魔物特有の体質である、体全体を包むような植物は喪失し、植物が由来の特殊な攻撃性は失われてしまっているが、その代わりに頭に生えた角からは微弱な電波を発せられており、近づく生物との距離を正確に把握出来るようになっている。また、自然治癒能力も遥かに向上し一種の再生能力に匹敵するまでになっている。


 また、その力に過信すること無く常に辺りに警戒を払っているが、自信に課した目的を達成すると完全に警戒を解いてしまう習性がある』



 目の前の元ジャルグーンベアーは言葉の意味そのままで進化しており、存在そのものが全く別のものへとなっていた。

 憎しみの果てに進化したその体は強靭で、おぞましさを感じさせるもの。


 変わり果てたその姿に呆けている二人を前に、イオマンテは攻撃を仕掛けようと一歩前に踏み出す。



 ドパン!ドパン!ドパン!



「!?」


「消えた!?」



 イオマンテが前に進もうとすると同時にその姿が一瞬にして消えてしまい、辺りから奇妙な破裂音が聞こえ始める。

 レイとティルファは何が起こっているのかが分からず、とにかくイオマンテの姿を捉えようと神経を最大限に張りつめて、辺りを見回す。



 ドパン!ドパン!ドパン!



 奇妙な破裂音は尚も続き、終わる様子が無い。

 破裂音ではあるが、鉄砲のようなもので撃たれているわけでは無いようだ。

 その代わりに辺りの樹や茂みがガサガサと揺れ、その後にその樹や茂みがバラバラになるか、吹き飛んでいる。

 そうしてレイが音の正体を考えていると、先程のK(キング)・イオマンテの解説文が頭に思い浮かび、正体に気づく。



「まさか!?ティルファさん!防ぎ―――――」



 それをティルファに伝えようとしたのと、レイが攻撃を受けるのは同時であった。



『ゴガァァァァ!』



「レイ君!?」



 レイは後方へ勢いよく吹き飛ばされ、途中何度も樹木に当たりながら巨大な樹に衝突してようやくその勢いを止める。



「――――――――――」



 樹に衝突し、動けなくなってしまったレイは力無く地面にドサッと落ちる。

 意識は無いように見える。



『ゴガァァァァ!』



「あなた何をしたの!」



 イオマンテがレイにした攻撃は単純で、ただ単に体当たりをかましただけだ。

 ただし、音速でという条件がこれには付く。

 イオマンテが消えると同時に聴こえていた破裂音は、物体が音速で移動することにより発生するソニックブームである。

 突然音速で移動し始めた為に二人にはイオマンテが消えたように見えたのだ。

 ソニックブームという概念を知らない……ましてやイオマンテの解説文もまだレイに知らされていなかったティルファは何も対処が出来ず、それに気付いたレイも知らせる前に攻撃を受け、意識を失っている。

 ティルファはレイの身を案じ、レイの下へと行こうとするが、



『ゴガァ!』



「くっはっ!?あぁぁぁぁ!!!?」



 イオマンテはそうはさせじとティルファの前に立ちはだかり、右腕を思いっきり降り下ろす。

 ティルファはそれをなんとか受け止めるが、その余波で足下から暴風が巻き起こり、体勢を崩し転んでしまう。



「なんて…メチャクチャな!」



 だが致命的なダメージを受けたわけではない。

 強烈な一撃を受けた両腕は衝撃でビリビリと痺れてはいるが、動くことには何の問題ない。

 体勢を取り直すと再びレイを目指して駆け抜ける。

 しかし、そんなティルファを黙って見過ごすわけが無く、同じように音速で移動・攻撃でティルファを翻弄する。



『ゴガァァァァ!!!』



「くっ!あっ!ふっ!」



 それをティルファはギリギリの所でやっとの思いで受け止め、力を外に受け流す。

 本来なら初撃でやられていてもおかしくは無いのだが、ティルファのこれまでの努力と経験が成した業なのであろう。

 苦戦をしつつも少しずつレイの下へとティルファは近づく。



「あと、少し……で、も!」



 けれどもそれは気絶をして無防備なレイに凶暴なイオマンテを近づけさせることになる。

 ティルファと言えども何の防御も無しにこの攻撃を受ければただでは済まない。

 それがまだ未熟なレイなら尚更だ。

 だから少しずつ近づきながら、レイが目を覚ますまでの時間稼ぎに全力を尽くす。

 一対一では間違いなく勝ち目は無い。

 だが二対一ならまだ希望はある。

 そう思いながら頑張っていたのだが…………



『ゴガァァァァァァァァァ!!!』



「キャア!?」



 とうとうティルファは押しきられ、イオマンテは後ろにいるレイに全力の一撃をぶつける。

 カマイタチをも凌駕する、暴風(ストーム)を巻き起こして。



「駄目ぇぇぇぇぇ!!!」



 カマイタチが幾十にも重なり、せめぎ合って完成した球形の暴風(ストーム)は触れるもの近づくものを容赦なく切り刻みながら真っ直ぐレイへと向かい、爆散する。

 未知の侵略者には及ばないものの、暴風(ストーム)が着弾した場所には直径数十mのクレーターが出来上がっており、周囲の樹木は跡形も無く吹き飛んでいる。

 そこにレイの姿は、無い。



「そんな…………」



『グガァァァァ!!!』



 ティルファが絶望を感じる中、イオマンテは忌むべき敵を殺したことで喜びにうち震え、勝利の雄叫びを上げる。

 その姿は誰が見ても歓喜に満ち溢れていることが分かる。

 それ故に、完全に油断しきっていることも分かる。

 油断をするということは、周囲に対する警戒を解いているということ。

 つまり攻撃の絶好のチャンスである。

 今現在の少しの気の緩みが命取りとなる戦いの中で、それを見逃す愚か者はここには居ない。

 イオマンテであれ、ティルファであれ。

 そして勿論、レイであっても。



『グ……ガ……!?』



「えっ!?」



 ティルファの目に入ったのは、突如としてイオマンテの背中に生えた数十本の炎の槍。

 否。

 それは呪文の詠唱も何も無く、音さえも出すこと無く発動させた炎槍(フレイムランス)だ。

 鋭く高熱の槍で背中を貫かれたイオマンテは激痛で膝を地面に着いてしまう。


 だが攻撃はそれだけでは終わらない。

 イオマンテを取り囲むように円状の魔法陣が展開され、四方から柱が出現する。

 そしてその柱からは銀色の鎖が出現し、イオマンテをがんじがらめに拘束する。



『グガァァァァァァ!!!』



 イオマンテは拘束を解こうと暴れるが、鎖が切れる様子は無い。

 それどころかかえってキツく締め付けられてしまっているのが見てとれる。



「何が……」



 ティルファが理解するよりも先に追撃は続く。



「罪を償え。咎を認めよ。汝に降りかかるは天星よりの裁き。1を0としその身を清めたまえ。我は汝の罪を赦す者。『(カルマ)』!」



 聞き覚えのある声で詠唱が完了すると、イオマンテの頭上から黒い煙のようなものが現れ、イオマンテを包み込む。

 何が何だか分からないままティルファがぼーっとしていると、後ろから声を掛けられる。



「ティルファさん!急いで逃げますよ!あれはあまり効果がありません!時期にあいつは拘束から逃れまた僕達を襲って来ます!少しでも距離をとって体勢を建て直しましょう!」


「レイ君!?死んだんじゃ……!?」


「早く!話は後です!」


「う、うん!」



 そこに居たのはティルファが死んだと思っていたレイであった。

 レイは必死な形相でティルファにこの場から逃げるよう促す。

 未だに現状に理解が追い付いてはいないが、ここはレイの言う通りに逃げて体勢を建て直すのが最善だと考え、レイに連れられるままにイオマンテから距離をとる。


 高速移動(ラ・クイックロード・ファイストロ)を使って安全圏まで逃げたレイは自分が生きていたことと、K(キング)・イオマンテについて、そして先程の攻撃の説明をする。



「全く……勇敢と言うか無謀と言うか……命があって良かったよ」


「ご心配をお掛けして申し訳ありません。でもこの方法が一番効果的だと考えたんです。足止めをしてくれてありがとうございました。お陰でなんとかダメージを与えることが出来ました。……最も、あまり効果は無いでしょうけど」



 まず、レイが生きていたのは至って単純な理由だ。

 攻撃の瞬間に高鋼身化ラ・アイアフォーゼ・テルフィードを使って自身の体を鋼のように固くして物理的なダメージをほぼ受けないようにしていたからだ。


 それに加えレイの持つ固有能力(ユニークスキル)、“精霊皇の加護”による耐性の効果も働いた事も大きい。


 精霊皇の加護の効果である全属性耐性とは、炎による「熱」や雷による「電撃」は勿論、重力や水の重さによる「圧力」や外部からの影響で発生する「眠気」や「混乱」なども耐性の範囲内になる。

 その中には当然衝突などによる「衝撃」の耐性も入っている。


 このお陰でもの凄い勢いで樹に衝突したのにも関わらず、その身に受けた衝撃を緩和して気絶することなく、尚且つ大したダメージも受けずに済んだのだ。


 そしてそのまま起き上がらずに気絶をしたフリをしていたのは、レイが見たイオマンテの解説にあった「目的を達成すると油断する習性がある」というのを狙う為であった。

 最もその狙いの成功確率が低い事は試す前から分かりきっていたことで、上手くいけば儲けもの程度の考えであったのでティルファがレイを守る為にイオマンテの前に立ちはだかり、確実に死を与える(ストーム)を引き出させたのは運が良かったと言える。


下手な小細工をする必要が無く、安定してイオマンテに自身を殺したと勘違いさせることが出来たのだから。

勿論逃げ出すタイミングが少しでもズレていればレイの命は無かったのであるが。



「あまり効果が無い?見た感じかなりのダメージを与えているように見えたけど?」


「最初の炎槍(フレイムランス)は確かにダメージを与えたでしょうけど、イオマンテの治癒能力でいずれは回復してしまうでしょう」


「なら……あの鎖で繋いだ後に包み込んだ煙は?」


「あれは(カルマ)という異世界魔法なんですが、本来ならよっぽどの例外(フェルグランさん)で無ければ一撃必殺の威力があります。しかし、イオマンテを拘束した鎖と魔方陣が魔法の効果を無力化してしまう効力を持っているんです。だから多分ほんの少しの足止めにしかなっていません。それに……最上級魔法なので不完全な発動をしてしまってるのでより効果が薄いかも知れません」


「あれで不完全なの!?」



 イオマンテを拘束した魔法は、最上級魔法・“神獣縛りの祠”。

 効果は対象となる生物を半永久的に拘束し、魔法を外部・内部から無効化するというものである。

 ただ、レイは最上級魔法を完全には発動できない。

 発動できたとしても発動したとは言えない程に意味の無いものであった。

 その問題を緩和したのは他ならない無呪裸の特訓によるものである。


 無呪裸の特訓で魔力感知・魔力操作の能力(スキル)を得たレイは上級魔法だけでなく、ほんの少しなら最上級魔法の力を引き出すことが出来るようになっていた。


 これによって無理に発動した神獣縛りの祠は、本来の力こそ引き出せてはいないものの、短時間対象の生物を拘束し、外部・内部からの魔法の効力を4分の1以下に落とすという形で発動を可能にした。

 なので(カルマ)もレイの言う通り大したダメージは与えられていない。

 せいぜい足止めが良い所だろう。



「はい。恐らく間もなく神獣縛りの祠の効果も切れている頃でしょう。すぐに襲ってくるということは無いと思いますが、炎槍(フレイムランス)の怪我が癒えたら僕達を襲ってくる筈です」


「なるほど。………………」


「ん?どうかしましたか?」


「いや、今ふと思ってさ、いつの間にかレイ君逞しくなっているよね。最初に出会った頃はリシェンに追い回されてる情けない男の子だったのに、あれよりも格上の魔物と戦って、細かい分析を的確に済ましているなんて。凄いなぁと思ってさ。今言うことじゃないんだろうどね」


「そう言ってもらえると……嬉しいです。ありがとうございます」


「ううん。本当のことだから」



以前よりも頼もしくなったレイにティルファは素直に驚いていた。

ほんの数週間前まではこの世界に来たばかりの何も分からない男子がここまでの成長を遂げているのだ。

長い時間をかけて力をつけていったティルファにとっては信じられないことなのだろう。



「……だからレイ君、私はレイ君の指示に従うことにする。多分今回に限っては私の意見よりも、レイ君の意見を取り入れる方が確実だと思う。事実私はまだイオマンテにかすり傷さえ与えられていない。任せてもいいかな?」


「…………分かりました」



 レイは一考し、ティルファの提案を受け入れる。



「ではティルファさん、まずあのイオマンテには先のジャルグーンベアーで行った二手に別れて各個撃破の形は通用しません。攻撃が当たってもすぐに治癒されてしまうからです。あれを倒せるのはそれこそ未知の侵略者のような一撃必殺の力を持つ攻撃しか無いでしょう。ですが音速で移動する相手にその手の攻撃を当てるのは不可能に近いです。なのでティルファさんにはかなり危険ですが、あいつと一騎討ちをして先程のように足止めをしてもらいたいんです。…………頼んでも大丈夫でしょうか?」


「勿論。全く攻撃を捌けないわけでは無いことが分かったからね。足止めは任せて」


「ありがとうございます。チャンスを得られたらすぐに未知の侵略者か別の異世界魔法を発動させますのでその時は僕の合図で即座に僕に向かって逃げて来てください」


「分かった」


「…………とりあえずはそれだけです。緻密な策を練るよりも単純な策を用いる方がいいでしょう」


「レイ君がそう言うならそれを信じるよ」



 レイよりもティルファの方が戦闘経験は豊富で戦場での状況判断能力が優れているのは間違いない。

 だが、今この時に限ってはレイに任せるのが最善だと本能でティルファは感じ取っていた。

 だからティルファは素直にレイの指示に従うことにする。



「……それでは、お願いします。そろそろ来ますよ!構えて下さい!」


「了解!」



 レイの言う通り、イオマンテはその後すぐに二人の前に再び姿を現した。



『ゴガァァァァァァァァァ!!!』



背中の炎槍(フレイムランス)の傷の痕跡は治癒能力により完全に消えている。

二人対一体の戦いが再び始まった。

前回の後書きで今回の投稿のハードルを上げてしまったことを少し後悔しています。

期待に添えていればいいのですが……



ここまで読んで下さりありがとうございます!

感想・評価・批評等なんでも受け付けておりますのでこれからもよろしくお願いいたします!

次回の投稿も次の土曜日を予定しています!

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