王の資格を持つもの、再び
『………………』
ジャルグーンベアーは現れたレイ達を睨み付け、まるでお前達に先手を譲ってやると言わんばかりにその場に鎮座し、動かない。
けれどもレイ達は攻撃のチャンスだと分かっていても動くことが出来ない。
何故なら、
「レイ君」
「……はい。分かってます」
「前に出会った時よりもこのジャルグーンベアーは遥かに成長しています。多分、力も前とは比べ物にならない程に」
レイ達が出会ったジャルグーンベアーは以前に見たジャルグーンベアーよりも一回り大きく、その巨体から放たれる威圧感が凄まじいのだ。
ほんの少しの油断が命取りになりかねない。
本能的にそう考えてしまう程に目の前の敵は驚異的であるとレイ達は感じていた。
数多くの修羅場を潜り抜けてきたティルファでさえもだ。
「……レイ君。作戦通りに行くよ」
「……分かりました」
「走って!」
「はい!」
「魔導式剣術肆之型・散斬集空!」
それでもここで動かなければやられてしまうのは自分達。
最初の一手を切り出したのはティルファであった。
『グォォォォォォォ!!!』
ティルファが自分の目の前で剣を高速に振ると、そこから複数の斬撃波が放たれ、ジャルグーンベアーの頭上へと飛んでいく。
そして放たれた斬撃がジャルグーンベアーの頭上に到達すると、全ての斬撃波が集約し、雷のように真下へ落ちる。
この散斬集空という技は、剣を高速で振動させることにより複数の斬撃波を生み出し、その斬撃波は狙った場所へと飛んで行き、その斬撃波が全て集まると1つ1つの斬撃波だけでは考えられ無い程の貫通力を持つ斬撃波へと変貌し、真下に落ちる。
その威力は城壁をも貫くと言われている。
壱之型、弐之型が複数の敵を倒すことを目的とした技であるのなら、肆之型はたった1体だけを倒すことにのみ特化した技である。
当然斬撃波が集約されるまでに飛んでいる斬撃波にも攻撃力はあるのだが、それはあくまで副産物に過ぎないので倒せたらラッキー程度のものでしか無い。
そんな一撃必殺にも等しい散斬集空であるが、初見にも関わらずジャルグーンベアーはいとも容易くそれを避け、ジャルグーンベアーもまた右手を大きく振りかぶり、ティルファに向けてカマイタチを放つ。
『グォォ!』
「!!!くっ!?」
辛うじてティルファはそれを受け止めるが、そのカマイタチの威力は高く、受け止めたその衝撃で手を痺れさせてしまい、握っていた剣を落としてしまう。
「しまっ!?」
『グォォォォォ!!』
剣を拾おうとするもジャルグーンベアーがそんな自由を許すわけがなく、追撃のカマイタチを放つ。
そのカマイタチはティルファが剣を拾うよりも速くティルファに元へと届き、その身を真っ二つに切り裂いてしまう。
はずであった。
レイが居なければ。
「凪壁!」
『グガァ!?』
ティルファの直線上には、ジャルグーンベアーの背後にティルファの合図で走っていたレイが位置している。
そしてそこからレイはティルファの目の前に凪壁を展開し、カマイタチから守る。
凪壁は防御系の上級魔法である。
これは指定した場所に完全な無風状態を強制的に作り出す効果を持つ。
風の魔法や斬撃波など、空気の力によって殺傷性を生み出す攻撃を打ち消す為の魔法で余程強い威力で無ければ凪壁の後ろにいる者を傷つけることは出来ない。
その為ティルファは無傷。
手の痺れも落ち着き、再び剣を構えジャルグーンベアーと向き合う。
「ナイスレイ君。この調子で落ち着いていこう」
「はい」
ティルファが洞窟でレイに提案した作戦の1つが、常に互いを直線上、若しくは対角線上に見据えて、その中間に敵をはさんでお互いの援護をし合うというもの。
レイは実戦経験があまり無いのにも関わらず、見事にティルファの作戦に付いてきている。
「風槍!」
「魔導式剣術弐之型・閃々月波!」
前方から風槍、後方から閃々月波がジャルグーンベアーを襲う。
どちらもまともに喰らえば軽傷で済む攻撃ではない。
前に逃げれば風槍が、後ろに逃げれば閃々月波が、左右に逃げようにもどちらの攻撃も範囲が広いので逃げようにも逃げようが無い。
なのでジャルグーンベアーはそのどれでも無い場所に退避する。
「なっ!?」
「えっ!?」
前後左右が駄目なのなら、上に逃げればいい。
ジャルグーンベアーは二本足で立つと、力を込めて思いっきりジャンプする。
そな巨体からは考えられ無い程の高さまで跳ぶと、しきりに腕をじたばたと動かす。
「飛び上がり過ぎて焦っている……?いや、違う!ティルファさん!こっちに来てください!」
「そういうことっ……!」
レイとティルファがその場から飛び退いた瞬間、二人の周りにあった樹々がバキバキと音を立てて粉砕され、地面には複数の大きな爪痕のような跡が出来ていた。
「馬鹿みたいな威力だな……!あんなのを連発され続けたらとてもじゃないが避けきれないぞ!?」
「あのジャルグーンベアー……本当に以前私達が戦ったジャルグーンベアー……?戦い方が全然違う……」
今、ジャルグーンベアーが行ったのは高高度にまで跳び上がることで敵を明確に捕捉し、そこから下に向けて手を大きく振りかぶることでカマイタチを放つというものだ。
高く跳び上がって腕をじたばたさせていたのは焦っていたからでは無く、何度も腕を振ることで複数のカマイタチを発生させる為。
そのことにいち早く気づいたレイはティルファに指示を出し、避けれるように誘導した。
凪壁を発動させようにも、発動する時間よりもカマイタチが到達する速度の方が早かったので凪壁を発動させることが出来なかった。
それだけジャルグーンベアーが上空から放ったカマイタチは速かったのだ。
『グォォォォォォォ!!!』
「くっ!今はそんなこと考える暇は無い、か!レイ君!未知の侵略者を放つ隙はありそう!?」
「炎槍!炎矢!……放つだけなら出来ます!でも多分あいつの素早さじゃ避けられます!」
「そう、だよね!魔空波斬!」
『グォォォ!!?オォォォォォォ!!!』
ジャルグーンベアーは樹を薙ぎ倒しながら素早く動き回り、何度も遠方からカマイタチを放ってくる。
二人もそれに魔法や剣技で応戦するが、どれもギリギリの所で避けられてしまい中々ダメージを与えることが出来ない。
「たちの悪い敵だなっ……!」
「レイ君、もう一度二手に別れよう!」
「了解!目を閉じて下さいティルファさん!閃光珠!」
『グォォォォォォォ!?』
レイが発動した中級魔法、閃光珠により強烈な光が辺りを照らし、それによって目が眩んだジャルグーンベアーに隙が出来る。
そこを狙って二人はまたジャルグーンベアーを挟むように相対する。
(さてこれからどうするかな……あまりにもこいつは素早過ぎる。攻撃を当てようにも簡単に避けられてしまうし、多分前が見えてないこの状況でもこいつは……)
「炎槍!」
(やっぱり、か)
ジャルグーンベアーはまだ目がまともに使えないにも関わらず、レイが発動した炎槍を正確に避ける。
そして避けたと思ったらジャルグーンベアーは炎槍が飛んできた方向からレイの居る位置を予測し、カマイタチを放つ。
「ホント、手強い相手だなお前は!前みたいに仲間の魔物をけしかける戦法はどこにいった!」
八つ当たり気味にそう訴えるが、魔物相手に人間の言葉が通じる訳もなく、少しずつ目が見えるようになってきたジャルグーンベアーはまた攻撃を再開する。
しかし、今度はカマイタチに頼った遠距離攻撃ではなく、カマイタチすら巻き起こすその強靭な腕力による接近戦だ。
ジャルグーンベアーは初めにレイを標的にし、その巨大な腕を力の限りレイに降り下ろす。
「くっ!高速移動!……ぐぁぁぁ!!?」
「レイ君!!!」
紙一重の距離でジャルグーンベアーの攻撃を避けるが、攻撃の余波で小規模のカマイタチが発生し、それがレイを襲う。
予想外の攻撃の為にこれには対応出来ず、レイはまともにダメージを負ってしまう。
「ク、ソ!」
『グォォォォォォォ!!!』
更にジャルグーンベアーは怯んだレイの隙を狙って更に同じ攻撃を繰り返す。
レイもそれを避けて直撃こそしないものの、同じように攻撃の余波で発生したカマイタチが避けきれずに次々とダメージを負ってしまう。
初撃よりはカマイタチを避けれるようになってきたが、ダメージを負うごとにレイの動きは鈍くなり、普通の攻撃でさえも避けることがままならなくなってきている。
ティルファも後方から剣技で援護はするが、
「この!こっちに来なさい!ジャルグーンベアー!魔空波斬!閃閃月波!」
『グォォ!』
カマイタチで相殺されほんの少し攻撃の手を緩めるぐらいにしかならない。
当然魔法でも攻撃したが、それさえも避けられむしろその奥に居るレイに誤爆しかねないので迂闊に攻撃が出来なくなっていた。
(なんとか……決定的な隙を……!)
避けて避けて避けながらレイは反撃の機会を伺う。
正攻法ではジャルグーンベアーを倒すことが出来ないのを悟ったレイはこれまで考えた戦法を全て捨て、一から考え直すことにする。
『オォォォォォォ!!!』
「ぐっ!重い……な!こんの!」
レイはやっとの想いでジャルグーンベアーの腕を剣で受け止め、攻撃の手を止めることに成功する。
ジャルグーンベアーは反対側の腕でレイを攻撃しようとするが、
「高速移動!キャアっ……くっ!大丈夫!?」
「ティルファさん!ありがとうございます!」
ティルファの加勢で事なきを得る。
しかし、いくら鍛えているとは言え女の身でジャルグーンベアーの巨体から繰り出される怪力を受け止めるには少々荷が重く、少しずつ押されてきているのが分かる。
ティルファもそうなるのが分かっていたから敢えて接近戦には持ち込まなかったのだが、あのまま放っておけばレイの命に関わっていた為にやむを得ずこうして出てきた。
だが、これでようやく体勢を立て直すことが出来る。
レイは自分とティルファに腕力を向上させる魔法を掛ける。
「露にも知らず矮小なる人間よ。何人の為に命を賭ける勇敢な心に敬意を込め一撃で粉砕してくれよう。一目鬼!」
「これは……ありがとうレイ君!」
『グォォォォォォォ!?』
「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
『グォォォォォォォ!!!?』
そして身体強化の異世界魔法、一目鬼により腕力が向上した二人はジャルグーンベアーをゆっくりと押し、バランスを崩した所で一気に押し返す。
ジャルグーンベアーは不意を突かれ、その場に転んでしまう。
「今だ!未知の侵略者!」
レイはそれを見逃さず、ジャルグーンベアーに向かって未知の侵略者を放つ。
『グォォォォォォォォォォォォォォ!』
自らの命が危険にさらされていることを本能で感じとったジャルグーンベアーはなんとか避けようと、必死に起き上がりその場から退避する。
が、時既に遅く、山岳でさえも押し潰す超重力がジャルグーンベアーを襲う。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「やった……?」
後には樹海の中に出来た不自然な巨大な穴があるだけだった。




