手に入れた力
「……とりあえず、おかえりなさい。レイ君。無事、試練を乗り越えることが出来たんだね」
「……はい」
「レイ君の命を勝手に危険に晒してごめんね。でも、これから先のことを考えるときっと必要なことだと思ったから。……多分、レイ君が与えられた試練は魔法に関するものだったと思う。話では無呪裸はその人間が最も不得意なことを試練として出されるって聞いていたから」
「……大丈夫です。これは、間違いなく僕には必要なことだったので。その点についてはティルファさんに感謝しています。それに、ティルファさんの言う通り、無呪裸では僕の魔法を扱う力を上げる為の試練が出されました。事実、2つ魔法に関する能力を修得しました」
「……そっか。それは良かったね」
「はい」
「…………」
「…………」
二人の間に無言の時間が出来る。
レイがティルファにされたことに対し、怒って空気が悪くなっている訳ではない。
この無言の理由は、レイが試したとあることによる。
レイは現実世界に戻ってくるや否や、すぐさま魔導具の無呪裸に魔力を込め、精神世界に行こうとした。
しかし、レイは精神世界に行くことは出来なかった。
何度も試したが、無呪裸が発動することはただの1度も無かった。
何故、無呪裸が発動しないのか?
その答えは、ティルファがレイに教えた無呪裸という魔導具の成り立ちにあった。
無呪裸という魔導具の成り立ちには諸説あるが、最も有力なのが約3000年前に、真勇者と魔王がそれぞれの軍勢を率いて争っていた時代に作られたとされていものだ。
文献によると、無呪裸を作ったのはその時代、最も稀有な才能を持つとされた人間の魔術師・アルドラント・ムー。
彼の使う魔法は当時の魔法の常識を尽く塗り替え、彼の開発した強力な魔法は現在では古代魔法や最上級魔法として伝わっている。
そして彼は偉大な魔術師であると同時に、偉大な錬金術師と魂魄師でもあった。
強大な魔術と精錬された錬金術、それに稀有な魂魄を操る術を駆使して彼は様々な魔導具を創りあげていった。
その中でも最も有名で、今尚広く使用されている魔導具こそが古の英雄の魂が複数に分けられ封印されているという無呪裸である。
罪人を手軽に処刑し、処刑し損ねれば国の兵士として再利用。
その使用方法の簡単さと安全性から無呪裸が世界中に普及するのにそう時間はかからなかった。
その後、無呪裸を使用して数多くの罪人を処刑し、数人の兵士を得たとある国の王があることを思い付く。
それは「生き延びた兵士にもう一度これを使わせてまた生き延びれば更に強固な兵士が時間も金も必要なく手に入るのでは?」
ということだ。
そう考えたその国の王はすぐさまそれを実行したが、それが成功することは無かった。
何故ならアルドラント・ムーはそうなることを事前に予期し、強固な人間がポンポンと出来ないように無呪裸は一人の人間につき一度しか使えないように作ったからだ。
無呪裸の試練を乗り越えた人間の成長の度合いは通常の訓練をした人間の比ではない。
通常の訓練をした人間の成長を1としたのなら、無呪裸を使い弱点を克服した人間の成長は10となる。
命を賭けて自らが最も不得意とする壁を越える事を考えれば当たり前である。
無呪裸を何度も使用し、何度も強化されてしまえばいずれは真勇者にも匹敵するやも知れない人間が出てくるかも知れない。
その人間が本当に真の心を持つ者なら何も問題はない。
けれども無呪裸を使用するのは基本罪人。
そんな人間が誰にも手に負うことの出来ない力を付けてしまえばどうなるかは想像に難くない。
だからアルドラント・ムーは一人の人間につき一度しか使えないように作ったが故にレイは無呪裸を使うことが出来なかったのだ。
そして無呪裸も当然そのことを知っていた為あぁ言ったのだ。
「お前が再びここに来ることが出来たのなら、その時は間違いなく私はここから出ることが出来るはずだから!」
と。
これは創造者であるアルドラント・ムーの絶対的な力を塗り替え、無呪裸そのものの機能を改竄することに他ならない。
そんなことが出来るのはアルドラント・ムー以外には居ない。
それはつまり、レイが無呪裸との約束を果たせないことと同義だ。
そのことをティルファから聞かされるとレイは無呪裸に対する後悔や申し訳無さから軽く塞ぎ込んでしまい、今に至る。
「も~~!レイ君!!!」
だが、ここは秘境・ジャルグーン樹海。
今でこそレイが気を失っている間にティルファが周囲の魔物を殲滅したから安全を確保することが出来ているが、本来なら少しの油断が命に危険を及ぼしかねない程の場所である。
いつまでもグジグジしているレイに痺れを切らしたティルファはレイに活を入れる。
「レイ君は今何の為にここに居るの!?無呪裸って人を解放する為!?過去の偉人を越える為!?違うよね!?今、私達が、レイ君がここに居るのはローグさんの病気を治す為にフワラリアを探しに来ている!違う!?」
「……違い、ません」
「なら、今は一旦そのことは置いておこうよ!フワラリアさえ手にいれれば後はレイ君の好きなようにすればいいんだからさ!レイ君が今やるべきことは何!?」
「……フワラリアを探して、ローグさんの病気を治すことです」
「…………そのことに集中出来る?気持ちが中途半端にならない?もし、そうなりそうだと少しでも思ったのなら、今すぐ帰って。フワラリアは私一人で探すから」
レイは自分の気持ちがどうあるのかを考える。
確かに無呪裸に対する様々な気持ちは自分の中にある。
しかし、それ以上にローグの病気を治すことが何よりも先決すべきことであるとレイは思い直す。
だからレイは言う。
先程までの不安定な気持ちは切り捨て、自分がやるべきことを。
「ごめんなさいティルファさん。また少し考え過ぎてしまったようです。……ティルファさんの言葉で気持ちに整理がつきました。迷いはありません。このまま僕もフワラリアを探します!」
「うん!立ち直ってくれて良かった!」
「あはは……これは僕の悪い癖ですね」
レイの気持ちに整理がついたことを確認すると、二人はフワラリアを手に入れる為、ジャルグーン樹海の探索を再開する。
その道中幾度となく魔物に襲われはしたのだが、
「……ティルファさん!正面から魔物の群れがやってきます!およそ10体!」
「了解!魔導式剣術弐之型・閃々月波!」
「炎刃!」
レイの新しい能力、魔力感知により事前に襲い来る魔物を感知し、襲われる前に迎撃していたので探索をするのが遥かに楽になっていた。
この魔力感知という能力は名前の通り、自身を中心として半径50m以内の魔力を持つものを感知するレーダーのような能力である。
これは自身の意思に関係なく常時発動されており、いつ、どこから誰が来ようとも、魔法により攻撃されようともそれが半径50m以内であればすぐさま反応出来るようにもなり、勿論自分自身の魔力も感知が出来る。
それ故に奇襲によるダメージ回避が可能になったのだ。
回復要員が居ない二人の現状では、かなり大きな戦術が増えたとと言える。
そして何よりも、
『ギギギギギキギ!!!』
『ヴィィィィィィ!!!』
「レイ君!1体は任せたよ!」
「はい!」
「「魔導式剣術壱之型・魔空波斬!/風槍!」」
『ギっ……―――――』
『ヴィィィ――――』
レイが修得したもう1つの能力、魔力操作により魔法の操作が可能になったので、未知の侵略者に頼らずとも安定して敵を倒すことが出来るようになったのだ。
魔力操作の効果は自身が放った魔法を自分の意思である程度まで操作を可能にするものである。
例えば火の玉が一直線に飛んでいく火玉であれば、縦横無尽とまではいかなくとも、その方向を右や左にズラすことが出来るようになる。
たったこれだけなのかと思う者が多いのだが、真っ直ぐ飛んで行くだけの攻撃と、突然方向を変えることが出来る攻撃とでは戦略の幅にかなりの差が出る。
それだけに、魔力操作の能力を持つ魔法を扱う職業に就いている者は各国でもとても重宝される。
なのでこの魔力感知と魔力操作の能力を手に入れることが出来たのは、レイにとってかなりの収穫だったと言える。
レイは剣士の為、魔法を扱うことが極端に苦手であるのだが、世界の理を知る者の能力で魔法を発動することが可能になり、魔導士の称号能力で詠唱を破棄することが出来るようになり、魔力操作の能力で魔法の命中精度も上げることも可能になった。
しかも、魔力感知と魔力操作の能力を手に入れたことにより、魔法の適性が無かった為に魔導士の本来の能力の効果である『上級魔法まで詠唱を破棄することが出来る』が実現した。
これまでレイが魔導士の能力を持っているにも関わらず、中級魔法までしか詠唱破棄が出来なかったのは魔法の扱いに長けていなかった為である。
本来なら長い鍛練を積むか、稀有な才能を持つ者のみが得られる称号能力なので、本来の力が出せなかったのはしょうがないと言えばしょうがなかった。
最もその問題もこの2つの能力の効果で実質、魔法使いの上位互換の職業である魔導士となったも同然なので、今のレイは実質魔導剣士と呼んでも差し支えないだけの力を持つことになっていた。
それはティルファが望んでいたことに他ならない。
おかげで今のティルファはとても生き生きしている。
「流石!」
「ティルファさんもね!」
その後も襲い来る魔物を次々と薙ぎ倒しては先に進むことを続けていると、とうとう魔物も観念したのか襲ってくる魔物が一体も居なくなった。
「……ふぅ。ようやく落ち着けますね」
「だね。魔物と言えどもそんなに馬鹿じゃないのかな?敵わないと分かっている敵相手に勝負を挑んでも命の無駄使いだからね。しばらくは大丈夫かも。それでも油断は出来ないけどね」
「はい」
少し気を楽にしつつも油断は一切せず、周囲を常に警戒して二人は前に進む。
騒がしかった樹海も今では風によって葉がカサカサと擦れ合う音だけで静寂そのもの。
しかし、それがかえって不気味でもあった。
あれだけ多くの魔物が波のように襲いかかってきたのに、力の差が歴然としただけでこうも静かになるものなのかと。
そうレイは考えていた。
嵐の前の静けさ……何かが起こる前ぶれなのではないのだろうか?
レイのその考えはすぐに的中することになる。
「……!ティルファさん!前方に…強い魔力反応があります!」
「了解!こっちに向かって来てる?」
「いえ、その場から動いてる様子はありせん。僕達に気づいていないのか、待ち構えているのか、それとも生物ではなく物質なのか」
「何にせよ、確認をしておいた方が良さそうだね。なるべく気配を殺して近づくよ」
「はい!」
ゆっくりと気配を殺して、レイが感じ取った魔力反応の方向に進んで行く。
そして辿り着いた先に居たのは……
「ジャルグーン、ベアー……!」
数日前にレイ達が苦戦を強いられた魔物の姿だった。
次回からしばらく戦闘パートに入ります。
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次回の投稿は次の土曜日です。




