誤解と真意
「ん……?」
「おぉ。目を覚ましたか。いやはや全く、見事と言う他無いな」
「……ん?」
レイが目を覚まし、重い体を上げると横には無呪裸が座っていた。
また「ハッハッハッハッ!」と、人を小馬鹿にしたような態度をとるのかと思いきや、その佇まいには初めに出会った時のような豪快さと軽快さを感じさせるものは無かった。
「……私はああは言ったが自分のものとは全く違う異質な魔力の感知と、それを体外に排出する魔力の操作は口で言う程簡単なものでは無い。それこそ産まれた時から魔法使いとしての道をちゃんと能力に頼らず極めて行った者にしか出来ないようなことだ。それをお前はギリギリだったとは言え為し遂げるとは……才能、の一言で片付けていいものなのだろうか?凄い奴だよ。お前は」
「そう、なのか?」
「あぁ。嘘は言っていない」
無呪裸に別の魔力を体内に入れられ地獄のような苦しみを与えられたことで酷く無呪裸に強い怒りを覚えていたレイだが、何故か今の無呪裸を見ているとその怒りが沸いてくることは無かった。
理由は分からない。
「昔から……ここに来る者は決まって現実世界で大罪を犯した何の力も才能も無い罪人ばかりだった。その罪人達が来る度に私はサービスと総じて試練を与えていった。この精神世界は私と一心同体。何もかもが思い通りに出来る。だから私はここに訪れる者にとって最も不得意なことをその者の心を探って割り出し、試練として出した。お前なら魔法、ある者は能力、ある者は体技。それはもう、様々に」
語り始めた無呪裸の顔は至って真剣そのものだ。
そこに笑みや冗談を含んだ表情は無い。
レイはそのまま何も言わず無呪裸の話に耳を傾ける。
「勿論相手が誰であれ、お前のように試練を乗り越える為に必要な最低限のヒントは与えた。しかし、それでも試練を乗り越えることの出来た者は、万を越える者が死に行った中で百を満たすかだうかの数だけだった。それぐらいここで生き延びることは難しいのだ」
無呪裸の言う生き残った百人。
それらの約9割は勇者か、それに準ずる力を持つ者である。
残りの1割は本当に稀有な才能を持った罪人。
死に行く者は当たり前のように存在するが、生き残る者は本当に少ない。
最後に無呪裸がここで生き延びた者を見たのは百年以上も前なのだ。
故に、百年ぶりに生き延びた人間であるレイに、無呪裸は素直に感嘆の念を注ぐ。
「だから、まずは一言言わせてくれ。……よく頑張ったな。その頑張りは間違いなく、お前の力の糧になるだろう」
「!」
無呪裸のその言葉に、レイは何故か胸を熱くする想いが沸き上がる。
あれほど憎んだのに、あれほど苦しい思いをさせられたのに、レイは無呪裸の言葉に心を震わせていた。
「……正直、私はここ来る者がどんな大罪を犯した罪人であろうとも、死んで欲しいと思って試練を与えている訳ではない。それどころか、何事も無かったかのように現実世界に戻って欲しいとすら願っている」
「……そう、出来ない理由がある?」
「私はお前達人間に創られた存在、言わば傀儡だ。傀儡は何があっても主に逆らうことは出来ない。そう創られている。だから私は私が創り出された時に与えられた命令を着実に遂行するしかない。『ここに送り込まれた者にとって最も過酷な試練を与え、その試練を乗り越えた者はこちらの世界に送り返し、乗り越えられなかった者はそのまま放置せよ』という命令を」
無呪裸は生物ではない。
人間でも、魔族でも、動物でも、魔物でも。
魂すら無い。
精神世界という枠の中でのみ活動出来るよう創られた存在なのだ。
現代日本で例えるなら、テレビ画面の中に居るゲームのキャラクターが自我を持ちつつ持ち主の操作に従うようなものだ。
そのことを理解したレイは、無呪裸が如何に不憫な境遇にあるのかと心を痛めてしまう。
レイのその想いを感じ取ったのか、無呪裸は真剣なこの話し方から、あの豪快で軽快な話し方に戻る。
「ハッハッハッハッハ!私としたことが随分と辛気臭い話をしてしまったものだ!いや、申し訳ない!何分私の試練を乗り越えた者は久し振りだったものでね!中々まともに話をする機会が無かったからな!」
「無呪裸……」
無呪裸の言う命令に送り込まれた者を殺せという指示は無い。
あくまでも、その者にとって最も過酷な試練を与えるよう命令されているだけなのだ。
それはつまり、誰も殺したく無くても結果として殺して、無呪裸自身の手で人殺しをしているのと同義である。
やりたくも無いのに何百何千何万回と試練を与え、その殆どが自分のせいで死に絶えてしまう。
常人なら発狂してしまってもおかしくは無い。
無呪裸に感情という機能が無ければまだ救いはあったのだろう。
何も考えず、淡々と命令をこなしていくだけのロボット。
それならばきっと無呪裸がここまで苦しむことは無かった。
けれども、無呪裸の創造者はそれさえも許すことは無かった。
この創造者は感情という機能を付けてやれば、その感情に従って送り込まれた者に与える試練に対し、何らかのヒントを与え、試練を乗り越えさせることにより強い力を持つ人間を簡単に確保しやすいと考えた。
魔導具・無呪裸は罪人を処罰する為に創られた呪われた導具であり、運良く生き残った罪人を国を守る兵士として使うよう創られた物。
故に、そこに無呪裸の意思を尊重する気は一切無い。
あくまでも無呪裸は道具なのだから。
自我を与えたとは言え、無呪裸の創造者からしたらその程度の存在でしか無い。
そのことを頭で理解したからか、はたまた本能的にそう言ったのかは分からない。
しかし、レイは無呪裸にある提案を無意識のうちにしていた。
「……そんなに辛いなら、僕と一緒にここから出ないか?」
「む?」
「初めはお前のこと、なんか凄い煩くて喧しくてウザい奴だなって思った。事実煩くて喧しくてウザくてしかも理不尽。お前にアリアを仕掛けられている時は本気でお前のことを殺してやろうかと考えた」
「むむぅ!それはなんとも手厳しいな!ハッハッハッハッハ!」
「でも、それは全部間違いなんだとお前の話を聞いて思ったんだ。お前のその人を馬鹿にした話し方は、自らの罪悪感を隠して僕のようにここ来た者を不安にさせない為。そしてその理不尽な試練は、自らの意思でやっている訳ではなく、お前を創った誰かが付与した命令に従っているだけ。そう考えれば、お前に非は何も無いんだと。……違うか?」
「………………」
無呪裸は何も答えない。
それは肯定の意。
レイが今言ったことは紛れも無い事実であり、これまで誰にも理解されることが無く、誰にも話すことの出来なかった無呪裸の真意。
そのことを的確に指摘され、尚且つ自分と共に外に出ないかと言われた。
無呪裸が無言になってしまうのも無理はない。
そうして暫く無言の時間が続いた後、無呪裸は口を開いた。
「ハッハッハッハッハ!本当に、お前は不思議な奴だ!そんなことを言ってくれた人間なんてこれまで誰も居なかったぞ!お前のその気持ち、しかと受け取った!」
「じゃあ一緒に」
「が、申し訳ないがそれは出来ぬ相談!私はこの精神世界でしか活動出来ないし、そもそもここから出る手段など私は知らない。
お前達を外に出す方法は知っているが、私がここから出る方法は付与されていないのだ。それに仮にもし、ここから出る方法があったとしても私はお前達のような生物ではない。きっと、外の環境には馴染めないだろう!ハッハッハッハッハ!」
こんな場所など、出ていきたい。
何度もそう考えた。
数多くの人間が送り込まれ、命令に従い試練を与え、殺し、生き残れば送り返す。
それの繰り返しの何が楽しいのだろうか?
何が面白くてここに留まる理由があるのだろうか?
その考えは今でも変わっていない。
しかし、外に出ることが出来ないことが分かっているからその誘いを断ざるをえない。
出れないよう機能が予め無呪裸には仕込まれているから。
それを知っているから。
だからレイの誘いを断る。
こればかりはどうしようも無い。
何千年も昔に諦めていることなのだから。
だが、レイはそれでも諦めず、無呪裸を誘う。
「なら!僕が新しく機能を塗り替えよう!どうせ魔法で創られた存在なのだろう?僕なら全ての魔法を使える!お前さえこの世界で能力を使えるようにしてくれたらきっと」
「もういいのだ!名も知らぬ人間よ!私はここから出ることなどとうの昔に諦めている!それに、私がここに居なければ主が困る!だからお前は素直にここから出ていくがいい!時間もすぐそこまで迫って来ていることだからな!」
「時間?何のこと……!?」
無呪裸の言葉でレイは初めて気づく。
自分の体が少しずつ光の粒となって消えて来ていることに。
「ここは精神世界!初めにお前が言ったようにここにはお前の魂がそのまま来ている!そしてそれは、現実世界のお前の肉体には魂が宿っていないということ!魂無き肉体は時間と共に朽ち、やがて死に至る!お前の体が消え始めているのは、その刻限が迫って来ている証明だ!ここでお前の体が消えてしまえば、現実世界のお前も死んでしまう!さぁ!短き時間だったが久し振りに私の心は満たされた!礼を言う!だからその場を動くな!元の世界に返すぞ!」
「なら!いつか必ず!お前をここから出す方法を見つけてくる!それまで待っていてくれ!」
「!?」
『お前が何者であろうとも関係ない。必ず、お前をここから連れ出す術を見つけ出し、現実世界へ連れ出してやる。だから暫く待っていてくれ』
レイの言葉に、無呪裸の古い記憶が呼び覚まされる。
いつだったかえさえも思い出せない程の古い記憶。
けれどもそれは間違いなく無呪裸の中に残っている記憶。
かつて自分にそう言ってくれた人間が一人だけ他にも居たことを、この人間の言葉で思い出す。
目の前に居る人間が遠い昔にそう言ってくれた人間である訳が無いのに、その言葉のせいか酷く懐かしさを覚える。
そして嬉しさも。
だから無呪裸は聞いた。
そう言ってくれた人間の名を。
「人間よ!」
「なんだ!?」
「お前の名はなんと言う!お前のその言葉は私の心を動かすには充分であった!だからお前を待とう!お前の名を糧に、淡い希望を抱いて!」
「レイだ!レイ=キリサト!それが僕の名前だ!」
「レイよ!私はお前が再び私に会いに来てくれる時を何千年かかろうとも待とう!お前が再びここに来ることが出来たのなら、その時は間違いなく私はここから出ることが出来るはずだから!」
「どういうことだ!?」
再びここに来ることが出来たのなら?
無呪裸のその言葉の意味を確認しようと聞き返すが、そんな時間は無い。
「さぁ別れの時だ!お前のその気概を組んで、私から1つプレゼントをしよう!有効に使ってくれることを祈っている!さらばだ!レイ!」
「待っ―――――――」
レイの抵抗は虚しく、無呪裸による現実世界への転送は完遂されてしまう。
ふわふわと奇妙な浮遊感を感じながら、気がつけばレイは元居た場所に仰向けで寝ていた。
そして目を覚ますと同時に、これまで使えなかった能力が使えるようになり、声明の能力がレイの成長を淡々と伝えた。
『修得能力・魔力感知を解放しました。この能力はまだ進化の可能性を秘めています』
『修得能力・魔力操作を解放しました。この能力はまだ進化の可能性を秘めています』
『固有能力・無呪裸を解放しました。この能力はまだ進化の可能性を秘めています』
色々と考えた結果、無呪裸編ではこのような終わり方をすることで落ち着くことにしました。
人によってはちょっと……という方もおられるかもしれません汗
次回のお話から探索パートに戻ります。
この経験を経てどうなることやら……
ここまで読んで下さりありがとうございます!
感想・評価・批評等なんでも受け付けておりますので是非よろしくお願いいたします!
次回の投稿は次の土曜日を予定しております!




