第一話(2)
ダンジョンの入口で配信を開始する。
画面の隅に、視聴者数が表示された。
同時視聴者数、二人。
いつもどおりだ。
俺はカメラの位置を確認してから、ダンジョンへ足を踏み入れた。
薄暗い石造りの通路。
壁に埋め込まれた魔石が、青白い光を放っている。
しばらく歩くと、小型の魔物が姿を現した。
角の生えたネズミ。
ダンジョンでは珍しくもない魔物だ。
俺は腰の短剣を抜き、魔物が飛びかかってくる瞬間に横へ避けた。
一閃。
魔物が地面に落ちる。
魔石を回収し、先へ進んだ。
画面のコメント欄が動いた。
«今日も静かだな»
«初見です。これ何の配信?»
«魔物倒すのうまいのに、なんでこんなに人少ないんだ?»
俺はコメントに反応せず、探索を続けた。
別に、会話が嫌いなわけではない。
ただ、しゃべりながら戦うのが苦手なのだ。
それに、コメントを読み始めると探索がおろそかになる。
安全第一。
これが俺の方針だった。
地下二階へ下りる途中、妙なものを見つけた。
通路の隅に、黒い結晶が落ちていたのだ。
「……なんだ、これ」
拾い上げる。
魔石に似ているが、表面には細い銀色の線が走っている。
鑑定用の道具を持っていないため、正体はわからない。
売れば少しは金になるかもしれない。
俺は結晶をポーチにしまった。
その瞬間。
頭の中に、聞いたことのない声が響いた。
【特殊条件を達成しました】
【固有スキル《残響記録》を獲得しました】
「……え?」
思わず足を止めた。
目の前に、半透明の画面が浮かんでいる。
ただし、それは配信用カメラには映っていない。
この画面が見えているのは、俺だけだった。
【《残響記録》】
【対象に残された能力の残滓を記録し、条件を満たすことで再現できます】
【現在の記録枠:一】
「能力の……残滓?」
よくわからない。
だが、ひとまず画面を閉じようとした。
すると、新しい表示が現れた。
【周辺に記録可能な残滓を検知】
【対象:ゴブリン】
通路の先に、先ほど倒したゴブリンの死体があった。
俺は少し警戒しながら近づいた。
すると、死体の周囲に薄い緑色の光が漂っていることに気づいた。
その光に触れる。
【記録可能な能力を検出しました】
【《暗視》を記録しますか?】
「……暗視?」
暗い場所でも物を見ることができる能力。
探索には便利だろう。
俺は迷わず選択した。
【《暗視》を記録しました】
画面が消える。
その直後、薄暗かった通路の奥が、さっきよりもはっきりと見えるようになった。
「……本当に使えるのか」
俺は壁の傷や床の小石まで見えることを確認した。
これは便利だ。
かなり便利だ。
だが、問題もある。
こんな能力を持っていると知られたら、面倒なことになるかもしれない。
ギルドに報告を求められる可能性もある。
能力を調べるために、あちこちへ連れ回されるかもしれない。
何より、配信で騒がれるのは嫌だった。
「……黙っておこう」
俺は何事もなかったかのように歩き始めた。
コメント欄には、相変わらずのんびりした言葉が流れていた。
«今、止まらなかった?»
«なんか拾った?»
«この人、独り言すら少ないなw»
«でも探索は丁寧なんだよな»
誰も気づいていない。
俺が、今まで存在すら知らなかった能力を手に入れたことに。




