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3/3

第一話(3)

 ダンジョンの入口で配信を開始する。


 画面の隅に、視聴者数が表示された。


 同時視聴者数、二人。


 いつもどおりだ。


 俺はカメラの位置を確認してから、ダンジョンへ足を踏み入れた。


 薄暗い石造りの通路。


 壁に埋め込まれた魔石が、青白い光を放っている。


 しばらく歩くと、小型の魔物が姿を現した。


 角の生えたネズミ。


 ダンジョンでは珍しくもない魔物だ。


 俺は腰の短剣を抜き、魔物が飛びかかってくる瞬間に横へ避けた。


 一閃。


 魔物が地面に落ちる。


 魔石を回収し、先へ進んだ。


 画面のコメント欄が動いた。


«今日も静かだな»


«初見です。これ何の配信?»


«魔物倒すのうまいのに、なんでこんなに人少ないんだ?»


 俺はコメントに反応せず、探索を続けた。


 別に、会話が嫌いなわけではない。


 ただ、しゃべりながら戦うのが苦手なのだ。


 それに、コメントを読み始めると探索がおろそかになる。


 安全第一。


 これが俺の方針だった。


 地下二階へ下りる途中、妙なものを見つけた。


 通路の隅に、黒い結晶が落ちていたのだ。


「……なんだ、これ」


 拾い上げる。


 魔石に似ているが、表面には細い銀色の線が走っている。


 鑑定用の道具を持っていないため、正体はわからない。


 売れば少しは金になるかもしれない。


 俺は結晶をポーチにしまった。


 その瞬間。


 頭の中に、聞いたことのない声が響いた。


【特殊条件を達成しました】


【固有スキル《残響記録》を獲得しました】


「……え?」


 思わず足を止めた。


 目の前に、半透明の画面が浮かんでいる。


 ただし、それは配信用カメラには映っていない。


 この画面が見えているのは、俺だけだった。


【《残響記録》】


【対象に残された能力の残滓を記録し、条件を満たすことで再現できます】


【現在の記録枠:一】


「能力の……残滓?」


 よくわからない。


 だが、ひとまず画面を閉じようとした。


 すると、新しい表示が現れた。


【周辺に記録可能な残滓を検知】


【対象:ゴブリン】


 通路の先に、先ほど倒したゴブリンの死体があった。


 俺は少し警戒しながら近づいた。


 すると、死体の周囲に薄い緑色の光が漂っていることに気づいた。


 その光に触れる。


【記録可能な能力を検出しました】


【《暗視》を記録しますか?】


「……暗視?」


 暗い場所でも物を見ることができる能力。


 探索には便利だろう。


 俺は迷わず選択した。


【《暗視》を記録しました】


 画面が消える。


 その直後、薄暗かった通路の奥が、さっきよりもはっきりと見えるようになった。


「……本当に使えるのか」


 俺は壁の傷や床の小石まで見えることを確認した。


 これは便利だ。


 かなり便利だ。


 だが、問題もある。


 こんな能力を持っていると知られたら、面倒なことになるかもしれない。


 ギルドに報告を求められる可能性もある。


 能力を調べるために、あちこちへ連れ回されるかもしれない。


 何より、配信で騒がれるのは嫌だった。


「……黙っておこう」


 俺は何事もなかったかのように歩き始めた。


 コメント欄には、相変わらずのんびりした言葉が流れていた。


«今、止まらなかった?»


«なんか拾った?»


«この人、独り言すら少ないなw»


«でも探索は丁寧なんだよな»


 誰も気づいていない。


 俺が、今まで存在すら知らなかった能力を手に入れたことに。

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