表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/22

18 解放への道

誤字脱字報告ありがとうございます。

スタンプ、ブクマ励みになります。

ありがとうございます。








ルーディリアが目覚めると、そこは医務室のベッドの上だった。隣の椅子にはアルバート様が目を閉じて座っている。


瞼がピクピクと動いていることから、もう少しで目覚めるのだろうと思った。


「目が覚めましたか。身体の調子はいかがです?」


黒い髪に比較的あっさりした童顔の女性が白衣の中からペンライトを取り出してルーディリアの眼球を覗き込んだ。


光をチカチカと当てては下ろし、を繰り返すと「大丈夫そうですね」と言う。


ルーディリアは「あの」と声を出すと「何があったんですか?私、あまり覚えていなくて…」と言った。


蓮華は精神干渉魔法の副作用として一種の記憶障害が出ているのかもしれないと考えると、にっこり笑った。


「大丈夫ですよ。ここは医務室ですので、何も心配はいらないです。少し混乱しているみたいですけど、ゆっくりすれば良くなりますからね」


何だか要領を得ないような、そうじゃないような、不思議な返事にルーディリアは首をかしげた。


ただ、やたらと大丈夫だとか、良くなるだとかに重点を置いた話し方をするな…と思う。安心させるような柔和な笑みを見て、もしかしたら自分はもう駄目なんじゃないか…とか思ってしまった。


「それでは逆効果だ、蓮華。彼女には何があったかはっきり説明した方がいい。誤魔化すと不安がつのるタイプだからな」


いつの間に目覚めたのか、アルバートがため息をついて口を挟んできた。


椅子に座り直すと今までに何があったかをかいつまんで説明する。


義妹からの精神干渉魔法による攻撃、それに対抗していたが舞台が心だったためか戦士病にかかってしまったこと、そこから疲弊した心の隙を突かれるような自殺衝動と自殺未遂、蓮華の助力を得てアルバートがルーディリアの心象風景の中に入り、侵食していたリーリアの魔法を破ったこと……と、ここまでを説明した。


ルーディリアは目を伏せると「それは……大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」と謝る。

しかし、アルバートが「いや、大丈夫だ。問題ない」と言った。


それでも顔色が優れないルーディリアを見るとため息をついて「もう動けるのか?」と言う。


彼女はそこで初めて自分の身体を意識する。手を握ったり開いたりして確認すると「身体自体には特に何も。今から鍛練だって出来そうです」と笑った。


「さすがにそこまでは言ってない。それよりも場所を変えるぞ」と彼女を連れて医務室を出る。


「辛くなったらすぐに言え。我慢だけはするな」と言われた。


廊下に人はまばらにしか歩いていないが、ルーディリアを伴って進むアルバートをチラチラと見ていた。2人とも気にしないようにしていたがアルバートの足どりがどことなく苛立ったものへ変わっていくのをルーディリアは感じていた。


「場所を変えるぞ。少し歩けるか?」


気遣わしげに声をかけられて、ルーディリアの顔が少しだけ朱に染まる。「はい」と小さく返事をすると、彼女が言葉を口にするや否やアルバートは駐屯地の門に向かう。敷地を出るとまっすぐ進んで市内に入った。


2人とも騎士服という色気のない格好だが、太陽が高く昇る昼下がりに市内を歩いている。


ルーディリアはほんの少しだけ緊張するとチラリとアルバートを見上げた。


視線の先の彼はまっすぐ前を向いて歩いている。しかし、その足どりは彼にしてはゆっくりで自分を気遣っていることが伝わってきた。


一本路地を奥に進むとカエルがフォークとナイフを持っている看板が揺れる店に入る。ルーディリアもよく利用していた店だ。


店内は薄暗く、一目では客の顔が分からないようになっている。カウンターはバーになっていて、柄の悪い男達がこちらをチラチラと見ると舌打ちした。


あちらこちらのテーブルの客人達がこちらを警戒しているのが分かる。


「おいおい、この店は騎士様のガサ入れが入るのかよ!こんなんじゃ、おちおち酒も飲めねえよ」


髭を生やした冒険者の男が冷やかした。


しかし彼はしがない冒険者なのだろう。アルバートもルーディリアもチラリと一瞥しただけで男への興味を失った。


2人に無視された髭面の男はいよいよ引っ込みがつかなくなり、一歩テーブルに向かって進む。アルバートが鬱陶しそうな目を向けて軽く睨んだ。途端、男がその場に縫い付けられたように動けなくなる。男の身体から変な汗が一筋流れた。


アルバートが視線を外した途端、男の身体が再び動いた。髭を震わせながらうつむくと黙って自分の席に戻る。


それを横目で見ていた他の客からひそひそと失笑混じりに噂され、男の顔が今度は青から赤に染まっていく。


「相手と自分の実力差も分からないのかね」

「あんなのが冒険者なのか」

「あれで魔物とやり合えるのかい?」


などなど見物人達は言いたい放題だった。


しかし髭の男が何かを言う前にアルバートが「うるさいな」と言いながら周囲へ殺気を放つ。

しん…と静まりかえる人達に視線をチラリと流すと席についた。


注文を取りにくる女中に軽食を2つ頼む。ほどなくして野菜とタマゴが挟まったサンドイッチが運ばれてきた。ルーディリアに食べるよう進めるとアルバートは「生き残った祝いにしては質素だがな」と苦笑いをする。


その笑みを見て、ルーディリアは「アルバート様」と口を開く。


「何だ。謝罪ならさすがにもういらんぞ」


素っ気なく言うこの人の優しさに、沢山救われている。ルーディリアは意を決して続けた。


「もしこれから先、私が今回のように迷惑をおかけするようなことになるときは……捨ててください」


自分を守るために危険に身を投じる姿を見て胸が痛む。ルーディリアの台詞にアルバートが「何だと?」と眉をひそめた。


じっと彼女を見つめると、そこには眉を八の字にした悲しそうな顔があった。


「そしてまた一人で耐えて、一人で戦って、一人で乗り越えて、一人で強くなったと、そう言うのか」


彼の言いたいことはわかっているつもりだ。これで勝てる戦いの次元など、とうに越えている。魔物だって…リーリアだって、強大な敵の前に自分一人では立ち向かっても無駄なのは、わかっている。


「いえ…ですが貴方が傷つくのは嫌なんです」


口ごもるルーディリアにアルバートが困ったように笑った。これはもう、困るしかない。


「…そうか。でも私は、一緒に来てくれと言われた方が嬉しい」


困ったように笑うまま、仕方がないなと受け入れて、アルバートがそう伝える。

言葉ではない正直な想いが流れ込んでくる。





誰かがポン、と私の背を押した……。





「アルバート様、助けにきてくれてありがとうございます」


何も考えずにするりと出た言葉に自分で驚く。口から出たら、これ以上ないほどしっくりきた。それもまた、驚く。しかし、一番驚いているのは目の前のアルバート様のようだ。

彼はほんのわずかに目を見開くと、黒い瞳を笑みに崩す。


「そうか」


染み込んでいくように一言を口にして、ルーディリアを見つめた。

彼女は視線をそらすと手元の紅茶を一口含む。言葉が勝手に口をついて出てきた。別に本当に誰かが自分を押したわけじゃない。


心の中の誰かが手を引いてくれるような、そうして何かが飛び出すような、そんな感覚だった。


そうして、知ってしまえばそれは当たり前のように自分の中にあったんだと気がついた。

きっかけを得て自覚した気持ちは言葉と共に溢れてくる。自分でも止められない。


「寂しかった、悲しかった、辛かった……今まで、ずっと、ずっと、ずっと……。アルバート様があんな処まで来てくれて、わたしは……泣きたくなりました」


ぽたぽたと涙をこぼして笑う彼女を静かに見守る。嬉しいときは嬉しいと、悲しいときは悲しいと、そう言えることがどれほど幸福なことか……そうしてそれを許されなかった彼女の苦しみに寄り添いたいと思った。


「わたしは、一人で生きて、一人で死ぬって、ずっと思って生きてきたから……今までずっと、一人だったから……」


涙を拭うこともなく、蒼い目からとめどなく流れ続ける。子どものような顔。


「上手くなくて……ありがとうって、上手に言えなくて……」


そのまま言葉が詰まって嗚咽に変わる。

アルバートが「いいんだ」と言った。その声が殊更に優しくて、また泣けてくる。


「これから言えばいいんだ。貴女はもう、一人じゃない」


泣き続けるルーディリアを見守ると、仕方がないなと再び苦笑した。












仕事のすき間時間に次はどうしようかな、なんて考えて末期を自覚しています。

ポッケのノートはネタ帳、もしくは展開を思い付いたら書き込んでたり……。


だんだん、こうなっていくんですよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ