14 レインクロウの矜持
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実は屋敷のことも気になってはいた。
ルーディリアがここに来たことを考えると居心地はとても良くないものだったのだろう、と。
それに、ルーディリアは最初からここにいるが、捜索願が出されていた気配がない。
だが、実際にルーディリアは自分が保護しているので正直、彼らのことは後回しになっていたのだ。
だがしかし、捕らえた家令の言葉から想像以上の問題が起こっていたことが判明してしまった。
「ここ最近、スタンピードで忙しかったですし、家の中までは手が回らなかったのも仕方ないのでは……」
頭を抱えるアルバートにルーディリアが声をかける。しかし当主としてそのような状況を見過ごしていたことが問題だった。
「キース、取り敢えず大掃除から始める。家令に従っていた奴をリストアップしてくれ」
「全員だ」
アルバートは副官の言葉を理解するのに数秒かかった。そうして疲れたような声で「そうか…」と呟く。
ルーディリアはルーディリアで責任を感じていた。本来、家の中は人事も合わせて夫人が仕切るものだ。
雇用したのはアルバートでも、彼ら彼女らの責任を追及するのは自分なのだ。
「あの、アルバート様。私の空間魔法は距離を超越します。だから、その気になれば一瞬でどこにでも行けるのです」
実際にここにもそうやって来ました、と伝える。
「あの、皆さんへの解雇、今から私がお伝えしてきます」
「待て、勿論私も一緒に行く」
言うや否や空間にゲートを開いて跳んでいきそうなルーディリアの腕を掴むと二人は屋敷に向かった。
ルーディリアの部屋に到着したとき、アルバートは眉をひそめる。埃が舞い、シーツも汚れている。それにここは使用人部屋の一室だった。
「……ここは?」
アルバートが低くならないように努めて声を出すが、少し失敗する。それが余計に怒りを押し殺しているように感じさせた。
「私の部屋と言われて通された場所です。結局、一晩しかお世話になりませんでしたけど」
ルーディリアのいっそ、全く気にしてないような声にアルバートは唇を怒りで戦慄かせた。
「…そうか」
さっさとこんな場所を出ようと、ノブに手をかける。再びアルバートの怒りが募った。
ノブにたまった埃が手を汚す。それを見ながらふつふつと沸き上がる怒りを抑えきれない。
二人でロビーに向かうと、血相を変えた様子で執事が現れる。隣に立つルーディリアに驚きを隠せないのか目を丸く見開き、口髭がわずかに震えた。
「全員を集めろ。今、すぐにだ」
アルバートの全身から本気の殺気が漏れ出ていた。ルーディリアは隣に立ちながらも身体中が総毛立つ。自然、ルーディリアもすぐ隣から放たれる殺気に反応して全身から闘気を漲らせていた。
アルバートの一挙手一投足に身体の全てが反応している。集まった屋敷中の使用人をぐるり、と見渡すと「お前達は全員解雇だ」と言い放った。
当然、執事を始めとした使用人達は食って掛かる。
現に「納得がいかないです!」とメイドの一人が叫んだ。
解雇ともなれば当然、紹介状はもらえない。
そうなると貴族の屋敷には勤められないだろう。
次の職場探しが困難になることは分かりきっていた。
「……なるほど、では私が相手をしてやろう」
言い終わるや否やアルバートは剣を抜く。
一閃、口を開いた使用人の背後に立つ柱を切り落とした。
「死にたい奴から前に出ろ」
低い唸り声に全員が立ち竦む。
誰も指1本動かせずにいる中、隣に立つルーディリアが昂りを抑えきれないのか紅潮した顔で無言のまま剣を抜く。
さすがのアルバートもこの反応は予想していなかったのか目を細めた。
しかし、すぐに噛みつくように笑うと「いいだろう……来い!ルーディリア!」と叫ぶ。
使用人達は何て無謀な戦いを挑むのだろう、と戦慄する。
誰もが一撃の下に吹き飛ばされるルーディリアを予想するが、それは驚きと共に破られた。
一合、二合、三合と打ち合い、背後を取ったルーディリアが水の弾を放つ。
それは確実にアルバートの背を的としてとらえていた。
「ふんっ!」
振り向きざまの横一閃の凪払いで水弾が全て撃ち落とされる。
尖刃から放たれるかまいたちがルーディリアを襲うが、全ての風の刃を刃先でとらえて力をいなした。
勢いを相殺し、撃ち流す。互いに距離を詰めての鍔競り合いに刃が火花を散らした。
全員がポカン、とした顔で二人のやり取りを眺めていた。
そして自分達は馬鹿な思い込みでルーディリアに対して何てことをしてしまったのだろう、と後悔する。
彼女は中央で豪奢を極めたふしだらな女性などではない。
その剣さばき、魔法、体術、どれをとっても一流に届き得る武人だった。
「あ……私たち、何てことを…」
メイドが二人のやり取りに口を手で覆って絶句する。
当主であるアルバート・レインクロウの剣を受けて立っていられる人間はそうそういない。
誰もが自分達のしでかしを理解してうつむいた。
剣を打ち合う音が聞こえなくなった時には誰のものとも言えないすすり泣きがあちこちから聞こえてきた。
剣を腰に差すと泣き声の大合唱にルーディリアは目を瞬かせた。
彼女としてはアルバートの武に奮い立ち、剣を振ったら周りがみんな泣いているという状況についていけない。
一方のアルバートは使用人達の姿を見回すと「自分達の愚かさにようやく気づいたようだな……だが、もう遅い」と神妙な言葉を口にした。
一人、また一人と黙って屋敷の門扉をくぐっていく。
最後に、長年勤めた執事がハンカチで目元を抑えながらルーディリアに向き直ると、無言で頭を下げた。
「達者で暮らせよ」
最後の最後に、当主アルバートが声をかけると老執事はいよいよ泣き声を抑えきれない。
「アルバート様…良い方を…お迎えになられました。見抜けなかった私の、両の節穴は詫びの印に置いていきます」
そう言って執事が懐からナイフを素早く取り出すと、両目を一文字に掻き斬ろうとして……手首を捕まれる。
掴んだのはルーディリアだった。
軽く捻りあげると執事の手からナイフが落ちて、床を小さく傷つけながら転がる。
ルーディリアはそれを蹴り跳ばすとカラカラと音を立てて滑っていき、壁にぶつかって止まった。
「駄目ですよ……自分を大切にして、余生を過ごしてください」
手首を捻りながら微笑むという荒業を軽々とやってのけるルーディリアに対し、執事は眩しいものを見るかのように目を細めた。
「遅ればせながら私はこの屋敷の女主人ですので…命令させていただきました。ここを去る時は五体満足でなければいけません」
執事は涙を一筋こぼすと消えそうな声で「はい」と言って従った。
最後の執事が出ていったとき、ルーディリアはアルバートを見上げて「なぜみんなすんなり出ていったのでしょう?」と言った。
しかしアルバートはそれに対して「レインクロウ領は武を尊ぶ。それが我々の矜持なのだ」とだけ答えるに留めたのだった。
一般人相手ならルーディリアも強いです。一応、Aランク冒険者なので...。
それにしてもゴールデンウィークも2日目です。もう半分過ぎてしまいました(涙)




