11 それぞれに護りたいもの(残酷描写があります)
ちょっと短めです。
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痛みに呻きながら倒れたルーディリアは暗くなっていく意識を奮い立たせて患部に手を当てた。
右肩から左脇腹にかけてざっくりと斬られた傷からは絶え間なく血が溢れてくる。
喉元に競り上がってきた血は鮮やかな真紅だったことから肺の損傷がかなり大きいことを見て取った。
重要な臓器である肺が大きく傷ついているところを見て、すぐ隣、両肺に挟まれるようにして存在する心臓が無事だったのは5重に重ね掛けしていた結界が功を奏したのだろう。
かろうじて攻撃を弾いてくれていたからだ。
だがしかしこのまま出血が続けば確実に死ぬ。
内臓の損傷と大きな血管を早く塞がないと、もう手の感覚もなくなってきた。
まず体内で筒型に展開した結界魔法で千切れた動脈の端と端をつなぎ合わせる。同じ要領で肺と気道も繋げた。身体の表面に見える深い傷は今の結界魔法のつなぎ合わせで閉じる。
急場凌ぎで身体の主要な傷を繋いで、あとは身体全体に聖魔法をかけた。結界で繋いだ血管や肺を魔法がゆっくりゆっくり再生していく。
とろりと眠気が襲ってきた。身体が回復に向けて睡眠を欲しているのだ。
ルーディリアはちょっとした血の水溜まりになった絨毯を見て、部屋を汚してしまったわ…と思うのだが、それ以上は何も考えられずに意識を手放した。
意識が再び浮上した時は夜になっていた。急激な痛みに思わず呻くと誰かが視界の端で動いた。
「気がついたか」
「…アルバートさま」
ベッド端に憔悴した様子で座っている人に微笑みを浮かべる。起き上がろうと身体に力を入れた瞬間、バラバラになるような激痛が響いた。
「無理はするな。貴女は死にかけていたのだぞ」
痛んだ場所から血が滲んでくる。かろうじて結界魔法で繋げているだけで、少しでも無理をすれば本来の状態に戻ってしまう。
寝衣に血がじんわりと広がり、シーツを汚す。
再びとろりと微睡むように瞼が重たくなった。
アルバートが椅子を蹴って立ち上がると傷が開いたルーディリアに蒼白になる。枕元の紐を引くと隣の部屋から人が駆け込んできた。
「閣下、ルーディリア様のご容態は…」
副官のキースが途中まで言いかけて絶句する。
彼を押し退けるようにして医務官が一早く治療に努めるべく動き出す。
「どいて!」とキースに体当たりを食らわせるとテキパキと聖魔法をかけていく。別の魔法使いは結界魔法を上書きしていた。
キースは幼なじみにして上官の様子をそっと窺う。アルバートはバタバタと動く医務官の動きを尻目に不安そうな顔でルーディリアを見つめていた。
「アル、一度下がろう。ここにいると邪魔になっちまう」
約1週間前のあの夜、アルバートは戦場で魔神のような強さを誇り、鳥の魔物を黒い雷で落として首をはねていた。
将が討たれたことを理解しているのか魔物達は前回同様潮が引くようにいなくなっていく。
「総員戻れ!」
アルバートがそう叫んで自分が一番駐屯地に急ぐ。
目の前で転移したルーディリア様がどこに消えたのか、あらかじめ予測がついているようだった。
駐屯地に戻ったアルバートはまず、彼女の部屋までまっすぐに向かう。
「命の危機があるときに逃げる場所はここだと思ったが……」
そう口にするが彼は諦めてはいなかった。あちらこちらと探し回って、いよいよ見つからないとなり自室に向かう。
「まさかとは思うが…」
扉を開けた瞬間、部屋の中に強烈な血の匂いが鼻をつく。目の前の血溜まりにルーディリア様が倒れていた。
「ルーディリアッ!」
アルバートが駆け寄り抱き上げる。衣服は血でぐっしょりと濡れており、顔についた血は乾いてひび割れていた。
剣を抜いて口元に当てると呼吸を確かめる。刃が曇ってくれたのを確認してとりあえずホッと息を吐いた。
簡単に着替えをしてそのままベッドに寝かせる。あとはルーディリア様の聖魔法に上掛けするように医務官に命じた。
それからは、とにかくアルバートがガンとして枕元から動かなかった。
1週間後、死の淵をさ迷っていたルーディリア様がわずかに意識を取り戻したが、起き上がろうとして傷が開いて再び意識を失った。
アルバートがバタバタと忙しく動く医務官に「状態は?」と尋ねている。
しばらくして、やっと落ち着きを取り戻した頃には既に朝日が昇ろうとしていた。
アルバートは静かに立ち上がると執務室の方に急ぐ。机の上に用意していた一枚の書類にサインをした。
「処理するように」と手渡されたそれにザッと目を通すとキースは顔色を変えて「おい、いいのか」と問う。
しかしアルバートはそれには答えない。再び、口を開いても「私は処理しておけと言ったが?」と言うだけだった。
その書類は銀糸の魔女ルーの騎士団入りを破棄する内容がしっかりと書かれていたのだった。
あんなにも護りたかった彼女の誇りだが、生命に比べれば紙よりも軽いものだとアルバートは思った。
意識不明の期間を1ヶ月から1週間にしました。




