10 再びの襲撃(加筆修正しました)
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魔物が沸き出し、埋めつくし、溢れ出す。
魔の森では再び魔力が渦巻きのように発生していた。
「まさかゴルバが殺られるとはなあ…」
「相手を舐めていたか、もしくは敵が強かったのかも」
人に鳥の羽を生やしたような異形の姿をした魔物と同じく蛇の胴体に少年の上半身を持つ異形が並んで立っていた。
背後の渦からは人語を解さない魔物達があふれてくる。
「ねえヴェノス、女の子は僕に頂戴ね」
蛇の少年が二つに裂けた舌先をチロチロと出し入れしながら言った。ヴェノスが「チッ」と舌打ちすると「またいつもの遊びをするつもりか」と呆れた声を出す。
「だって蛇同士よりだんぜん気持ちいいし?僕の同族はみんな人間の女の子が大好きだよ。大体、そういう顔するのやめてくれる?僕達は人間に対応した個体として世界から生み出された存在なんだから、おぞましいのは仕方なくない?」
強姦も殺戮も人間達のお家芸じゃないか、と言って蛇の魔物…サーフィスがカラリと笑う。
反対にヴェノスが心底嫌そうに顔を歪めた。
「あんな化け物どもと一緒にするな。我々は世界のバランスを図り、人間という穢れを浄化する側だぞ」
彼らは、自分達が穢らわしい悪に準じた個体だと言う、その一方で大義の為に存在する正義を為す個体だと言う。
矛盾した自己に対する認識、それこそが人間の特徴そのものであることを彼らは知らなかった。
「いずれにせよ、我々は女神の思し召しに従って人間達と殺し合わなければならない。あいつらはいくらでも増えるし、自分勝手で傲慢で、いつでも星を汚して住めなくする。それでいて世界から一番愛されているのは自分達だと信じこんで疑いもしない」
母体である星を壊されて住めなくなってしまった枯れた星の記憶を大なり小なり魔物や魔獣は持って生まれてくる。
このまま人間がのさばっていれば世界はやがて崩壊し、死の星になることを星の女神は全ての魔と呼ばれる存在の核…即ち魂に刻み込ませていた。
だから彼ら全てのモンスターは人を見れば襲いかかるのだ。
彼ら魔物達は自然界の悲鳴が星の女神の耳に届いて生まれた存在だった。
人よりもはるかに強く、人よりも残酷に、人よりも魔力が多く、人に対して情け容赦など欠片もない。
人の上位種、それが彼らだ。
「星の女神の思し召しに従って人間をぶっ殺さないと、だね」
サーフィスが目を細めると二股に割れた舌先をチロチロと出した。
戦いは熾烈を極めた。
アルバートが剣でサーフィスを輪切りにしようと振り下ろすが鋭く輝く鋼のウロコが勢いを殺し、刃を滑らせる。
隙をついた連携で空からヴェノスが放つ風の刃が降り注ぐ。刃がアルバートの身体に届くかも、という瞬間にキン、と硬い音を立てて風の刃が弾けて消えた。
ルーディリアが刃とアルバートの間に立ち、片手をヴェノスにむけていた。
「アルバート様、こちらはおまかせを」
「ルー…」
ルーディリアが地面を蹴って風魔法を纏わせ空へと敵を追いかける。羽ばたき一つで鎌鼬が起きるなか一つ一つを避けた。
(速いが見えないほどではない)
ルーディリアは空に浮かぶヴェノスの全方位から剣を出して突き刺そうとする。
いつでも敵との距離をゼロにできる。これも空間魔法の強味だ。真後ろにも真横にも出現できる。
「おまえ達は何者です?今までここまで強い魔物に会ったことがない…まさかとは思うが…いきなり進化したとしか思えない」
ルーディリアが空間魔法で攻撃しながら自身も剣で切り結んでいく。
彼女の魔法騎士としての戦い方にヴェノスもまた興奮気味に笑う。それは獰猛な猛禽類の笑みだ。
「そのまさかだ。私たちは星の女神のご意志で人間を減らすために生まれた、いわば人の天敵だ。おまえ達は増えすぎた」
一種類の動物がここまで増えては、世界のバランスが崩れるのだ、と説明するとヴェノスが風の魔法、かまいたちを「掴む」とルーディリアに一瞬で肉薄して袈裟斬りにした。
あっ、と思ったときにはルーディリアの身体は大きく傾き、地上に向かって落ちる。それを追いかけて捕まえようとしたとき、黒い雷が彼の身体を貫いた。
下でアルバートがまるでただの蛇のようにサーフィスの首を剣ではねていた。そのまま天に切っ先を掲げると空がそれに呼応するように雷がヴェノスの周囲を囲むようにして降り注ぐ。
「ぐっ…きさま…」
ルーディリアにとどめを差そうと手を伸ばしたヴェノスだが、これでは近寄ることも出来ない。
地上で魔法を操る男を憎々しげに睨むものの、アルバートはそんな視線には一切構わず地上へと落ちる彼女に向かって叫んだ。
「ルーディリア、転移しろ!」
聞こえていたのか、否か、彼女の身体がかき消える。
ルーディリアは無意識の内に自分が一番安全だと思う場所を選択する。
つまり、騎士駐屯地の…アルバートの部屋に飛んでいた。
アルバートは上空を飛ぶ猛禽類の翼を持つ魔物を冷ややかな目で見ていた。
ルーディリアがかまいたちの刃で切り裂かれ、地に落ちていく様を見て心臓が冷える。
今までは彼女を尊重して冒険者も、騎士も、見守ってきた。彼女が一心に剣を振る姿も、魔法を操って戦う姿も、純粋に美しいと思った。
「……俺は、馬鹿だな」
戦場で、彼女の命が消えてしまう…そんなことは当たり前の可能性だ。
戦場に立つ者に、死を恐れる者はいない。
1歩も進めなくなってしまうから。
本当は恐くても、口に出したらそれは形を持つ。
剣を握る手に迷いが生まれてしまう。
だから、死ぬかもしれない恐怖は、ベッドの中に置いていくのだ。
だから、アルバートは当たり前の事に気づかない振りをしていた。
彼自身の戦士の誇りが、それを自覚させることを拒んでいた。
アルバートは、ルーディリアを戦場には出したくなかったのだ。
最初から、ずっと。




