月曜日 ~ この学生証が目に入らぬか ~
「おはよう!!ちょっともう聞いてくれよ~!!魚たんとのさ~」
教室に足を踏み込んだ瞬間、目の前に男の顔があったら、普通はどうするで
あろうか。
あくまで俺の場合ではあるが、
「おうふっ!?腹パンはまずいだろっっ」
うるさい。そこで寝てろ。
と、自分の席へとつくといつもながらに面倒な男も一緒についてきていた。
「ほら、土曜日魚たんとデート行くって話だったろ、映画見たんだけどさ~
魚たん寝ちゃっててさ~」
それは残念だったな、と発言する間も無く。
「またこの寝顔がすげーーー可愛くてさぁあ!!!寝顔見るとかもうあれだよな
これはもうカップル!もの凄くカップルだと思わね!?思わね!?」
「助けてベイ○ックス俺の心の傷がレベル10だよ」
「そんなマシュマロに助け求める場合じゃねーって!これ見てみ!これ見てみ!」
半ば無理やりスマホを向けられた俺が目にしたのは、席から若干ずり落ちている
魚一美の寝顔画像だった。
「え?何?【呟】でアップしてお前特定させればいいの?」
「何故に!?」
映画館は撮影禁止である。ノーモア映画泥棒!
「とにかくさ~、決定的な物が足りない気がするんだよな!未だに”津崎君”だし!
やっぱここは呼び捨てとかで呼び合うべきだと思うんだよ!」
「ああそうだな」
「魚たん、は流石にまずいからな~魚かな?」
「ああそうだな」
「いっそのこと・・・一美・・・で!!」
「ああそうだな」
「ちょ聞いてる!?」
聞いてるよ。
「聞いてるんだったらもっとこう受け答えに熱を持て!誠意を持て!今の貴様はただの頷きマシーンじゃねーか!」
こいつ・・・、
「いいかよく聞け津崎、平成25年の統計での自殺数は月曜日が1位だ」
「え?何の話?」
「しかも女の約2.5倍程、男が死んでいる」
「お、おう」
「これは月曜の話だけじゃなく、総数だけ見ても、女より男の方が自殺者は多い」
「・・・・・・・」
「話は以上だ」
「だから何!?」
「気遇だな、俺も丁度30秒前くらいまでそう思ってた所だよ」
「正直すまんかったわ!」
今日もまた、部活に勤しむ友人を見送りつつ、帰宅する。
津崎の姿もどこにも無い。
校門前には奴らの姿は見えず、どこか拍子抜けである。
昨日は思わず我を忘れて楽しんでしまっていたが、なんだかんだであの河川敷の日から
毎日のように彼等と会っていたのだ。
警戒するのは当然であり、今日は葉向さん辺りが来ると予想していたのだが、
ありがたい事に予想を外れてくれたようだ。
良く考えてみれば、あの団体は皆学生な身分なのだそんな毎日毎日が暇な訳ではないのだろう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい」
何事も無く家へと帰宅した俺を、専業である母親が迎える。
このいつもの光景が俺が愛してやまない生活だ。
一人っ子で、兄妹の一人や二人欲しかった所だが、そんな不満なんてどこの一人っ子も抱えているだろう。
兄妹を持つ人間はむしろ貰ってくれなどという人間が多い。
人間は無い物ねだりだ。
そもそも、既にあるものをねだる人間なんているのだろうか。
そんな風に考えるとこの表現は少しおかしいようにも思えてしょうがない。
「手を洗ってうがいしなさい」
「後で部屋に飲み物持ってくよ」
もはやテンプレのような注意を受けるのを了承しながら、自分の部屋へと向かう。
さて、ジュースでも飲みながら課題こなしてゲームへと洒落込も・・・
痛烈な違和感
急いで、リビングへと戻る。
「ん?あぁ丁度お茶持って行くついでだったんだ。手伝って貰ってもいいかい?」
何食わぬ顔で、母親とお茶受けを用意する葉向匠がそこにいた。
「なんでいるんですか!?」
とりあえず、俺の部屋へと葉向さんを引き入れるやいなや、全力で聞きにかかる。
家に帰ったと思ったら、既にいる、正直その発想は無かった。
「いや、君に用があってね。家の前で待っていたらお母様に話かけられたんだ。
そしたら意気投合してしまってね、結果的に中で手伝いをしながら待っていた
んだよ」
なんだろう、普通なら通報するべきではないだろうか。
土日の件で既に俺の家は割れているのは知っているが、見ず知らずの人間が家の
前にいる。これほど不審な事はない。
それに恐ろしい物を感じるぞこの団体は・・・、もはや宗教かなんかの類ではないかと
勘繰りたくなるほどにしつこい。
だけども、
「正直な所、ようやく会話が成立する葉向さんに来て良かったとも思っています。
教えてくれませんか、どうして俺をそんなにあなた方の団体に引き入れたがるんでしょうか?」
「あれ?愁君や津崎君から聞いてないかい?彼等2人が君を入れたがっているんだよ
昨日愁君はここに来たんだよね、その時に話していたと思ったんだけど」
「・・・・いいえ、昨日は遊び呆けていました」
全くそんなそぶりは見せていなかったように思う。
むしろ、昨日は俺が呼んだ(?)という事だったのだ、彼の意思ではなかったと思って
いたのだが・・・。
「うーん、なら僕の口からは言いたくないかな。僕が来たのは別の件だしね」
「別の件?」
「そう、この間の時に話したんだけども僕、大学生なんだ。今年はまだ余裕があるんだけ
ども、これから先というとまた話が違ってきてね」
恐らく就職活動やらなんやらだということはなんとなく想像につく。
いくら有名な所だと言えど、怠ければ怠けたぶん自分にふりかかってくるのは当たり前
だからだ。
きっとこれから先、この先輩は俺よりも一足先にその荒波へと揉まれていくのだろう。
「だから君にお願いしたいんだよ。僕の変わりを務めてくれないかってね」
「変わりというと・・・・?」
「僕の変わりに、正確には僕がいなくなった後に、彼等の舵取り役になってくれないかな?」
「・・・・・・・」
それ、全然話一緒じゃないっすかーーーー!!
「いやいや、舵取りだなんて無理ですって!俺一般の方ですよ!」
「大丈夫だよ、問題ない」
「何ドヤ顔で言ってるんですか!騙されませんよそんなネタでは!俺があの集団の舵取り!?
無理無理無理無理。津崎だけでお腹いっぱいだというのに濃いキャラ多すぎですから!」
「そうかな、僕にできたんだから君にも出来ると思うんだけど」
どんな根拠があってそんな事を言っているんだ葉向さん。
もし仮に俺があの集団の輪の中に入ったとして何ができるというのだ。
ここ数日の俺を振り返ってみてもわかるじゃないかっ・・・・!!
まず!!
「初日には魚一美が我がもの顔で校門前にいたし!」
「最初のインパクトとしては、彼女が一番適任だと思ったんだ。津崎君もノリノリだった
ことだしね」
「二日目なんてあれですよ!?裏門から帰ったらニッコリ笑顔なシスターが!」
「あの日は、校門に僕、裏門には唯ちゃんがいたからね、どっちかには会ってたはずだよ」
「三日目なんて、生徒会室に呼び出されて惚気られただけだし!」
「山田君はしっかりしているからね、なるほど生徒会に入っていたんだ」
「四日目は家族会議!」
「女子中学生相手の発言は注意した方がいいよね、世知辛い世の中だ」
「五日目は楽しかったですけど!」
「お母様から聞いたよ、愁君なかなか礼儀がなってて偉いね」
「今日なんて、帰ってきたら家にいるし!」
「そこはちょっと申し訳ないかなって思っているよ?何回かお断りしたんだけど、中々
よしとしてくれなかったんだ」
あの専業主婦め、少し若い男がいただけでころった騙されるのか!
「やたら胸ポケット見られたけどなんでかなとは思ったけどね」
胸ポケット・・・?
葉向さんは、首からぶら下げた奴を胸ポケットに差し込んでいる、所謂名札だ。
ヒモにくくりつけられた四角いビニール状のものに自分の証明書なんかを入れるあれだ。
葉向さんの胸ポケットではそれが全て入りきらず、ややチラっと某有名大の・・・・。
なるほど、あの専業主婦もまた、学歴に踊らされた被害者だったのか。
絶対この人わかっててやっているだろう。なんて思う。
「確信犯ですよね?」
「確信犯ってのは、『犯罪』じゃないとわかっててやる事を言うんだよ?むしろ正しいと
思ってやっている事で使われるからね。”こうなる事がわかっててやっている”とは意味合いが
違うから、そういう場合は計画犯の方がしっくりくるかな?」
言葉の使い方なんて今更どうでもいいんじゃないかと突っ込みも入れたがったが、
流れ次第では、本題から遠くずれていきそうだ。
飲み込む事として、
「とにかくです。ここ数日の件でも思いましたし、河川敷での答えも間違っていなかった
と自身を持つ事にもなりましたよ。俺にはいろんな意味で荷が重すぎる」
「うーん、色々と聞いていたけど頑なだねー。普通、面白そうだから付き合ってみても
いいかなーなんて考えになると思うんだけど」
「先輩達が異質で気味が悪いという意味で断っているわけではないですよ?
そこだけはわかって下さいね」
「それは知っているよ、だからこそ全員で君を説得にかかる方向になった訳だしね」
その後は、何気ない会話をしながら、ちょいちょい勧誘を受けつつ葉向さんとの
時間は過ぎていった。
帰り際に、
「この流れでわかると思うけど、明日は津崎君が君の所にくる事になっているよ。
あまり無下にせず付き合ってくれると嬉しいかな?」
そんな事を言い残して、葉向匠は帰っていった。




