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高校で念願の彼女ができたが、断れない子だった。  作者: 遼魔


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5/15

05.何時間だろうが待つつもりだ

『同窓会?』

『そういうわけでもないんだけどね』


 3月も最後の週に入った。その日はバイトから帰ってきて、結愛とスマホで通話していたのだが、同じ中学の集まりがあると聞いた。


『大丈夫だよ。女子だけだから』


 俺の心配を先回りするように言われた。

 親の仕事の都合で北海道に転校する子がいるらしい。クラスは違うが、俺も会ったことがある。


 もう住む家は決まって荷物も送ってあるが、引っ越す前に地元の友達と会って別れの挨拶をしたい。だったら中学で親しかった子を集めようということになった。

 高坂高に進学したその子と結愛、心春だけでなく、市内もしくは隣市の違う高校に行った子も合わせて十名の女子が集まるらしい。送別会を兼ねた地元女子会だな。


『わかったよ。楽しんでおいで』


 結愛一人ならともかく、心春もいるからな。さすがに大丈夫だろうと思ったが口には出さず、その話題は終わった。


 結愛と会わないなら時間が空くので、急遽バイトのシフトを入れることにした。午後3時から9時までだ。結愛が女子会に行っている時間と重なるので、仕事中はちょっとだけ落ち着かなかった。


 休憩時間にスマホを見たら、女の子たちが笑顔でテーブルを囲んでいる写真が数枚送られてきていた。本当に男は一人もいない。女子ばかりで気兼ねなく楽しんでいるのだとわかってほっとした。同時に小心すぎる自分がちょっと嫌になった。





 15分ほど残業してから着替えて外に出たのは9時半だった。連絡が来ているかと思ってスマホを取り出したら、通知が何件もあった。だが相手は結愛ではなく心春だった。胸騒ぎがして、すぐに電話した。


『良かった! やっと連絡ついた』

『どうした?』


 心春には珍しく焦った声だ。嫌な予感が膨れ上がっていく。


『あのね、目を離した隙に結愛が連れて行かれちゃったの。本当にごめん!』

『は?』


 心春が経緯を説明してくれたが、よく耳に入らなくて何度も聞き返してしまった。

 集まったのは駅から近いファミレスで、話が弾んで長く居座っていた。気づけば8時過ぎていたので解散することになった。


 レジで会計する際に大勢いたら迷惑になるから、心春ともう一人以外は外に出ていた。会計を済ませて出た時にはもう結愛はいなかった。

 その場にいた子に聞くと、同じ中学だった男子が数名待ち構えていたのだという。


 彼らがそこにいたのは偶然なのか。

 後からわかったのだが、一人がSNSに女子会の様子を写真付きで投稿していた。おそらく背景から場所がばれて、待ち伏せしていたのだろう。

 それにしても、何人もいてむざむざ結愛だけ連れていかれたのが納得できない。


『待ち構えていたのは中学でもちょっとヤンチャというか、不良っぽい男子で抵抗できなかったというか……』


 経緯としては、男子の一人が結愛に話しかけて、強引に手を引いていった。周りの女子は抗議して止めようとしたが、他の男子に邪魔された。むしろ俺らと遊ぼうと誘ってきたのを拒絶。言い合いしている間に結愛はいずこかへ連れていかれて姿が見えなくなっていた。


『それで結愛とは連絡取れないのか?』

『うん。ほんとごめん』

『いやすまん。心春ちゃんを責めているわけじゃなくて。相手はわかる?』

『大坪大雅(おおつぼたいが)。実は、結愛の元カレなの』


 結愛は中学のことはあまり話したがらないが、短い間だけ付き合った同級生がいて、初めての相手だったと打ち明けてくれたことがある。名前は聞いていなかった。

 実は二人が付き合っていたことはほとんど知られていない。交際期間は中三の夏休みだけだったせいもある。知っているのは心春を含めた親しい女子数名のみだと心春が教えてくれた。


『心春ちゃんは今どこ?』

『まだ近くにいるの』

『すぐ行く』


 心春は責任を感じて帰宅せず、俺や結愛に連絡を取り続けてくれたらしい。心春がいる方へと歩きながら結愛に電話したが出なかった。電源が切れているか、電波が届かないところにいるという自動音声に切り替わっていた。

 そのせいか、メッセージも送っても既読も付かない。

 胸がざわついて、居ても立ってもいられない。早足から駆け足になって、心春がいた場所に到着した頃には汗をかいていた。


「心春ちゃん!」

「祥真君!」


 ファミレスの駐車場でスマホ片手に所在なさげに立っていた心春を見つけた。彼女は俺の姿を見るなり、赤くなった目を拭って頭を下げてきた。


「頭を上げてよ。心春ちゃんは悪くないんだから」

「でも……」


 どうやら心春は友達と周りを一周して探してくれていたらしい。

 遅くなるので友達は帰らせたのだろう。心春だけが暗い駐車場で一人いた。こんなところで女の子を待たせてしまったことに気が病んだ。

 実際のところ、悪いのは勝手に連れていった大坪という男だ。


「大坪とは同じ小学校で、家知ってるから行ってみようか?」


 心春の案内で15分くらい歩いた。自然と早足になっていたので、早く着けたのかもしれない。歩いている間は終始無言だった。


「誰もいないみたいね」

「あぁ、真っ暗だ」


 灯りはついていないし、車庫には車も無い。明らかに留守の一軒家を前にして立ち尽くすしかなかった。

 時々スマホを操作してみるが、送ったメッセージには既読つかないし、電話しても繋がらない。


「戻ろうか?」

「そうだね」

「あっ」


 来た道を戻ろうとした時、心春が躓いたらしく、俺の肩にもたれかかってきた。


「ごめん! 足にきちゃったみたいで」

「少し、休もうか」

「でも……」


 俺は立ち仕事の後だったし、心春も足を棒にして探してくれたのだろう。無理しちゃいけない。俺は逸る心を抑えようと、握りしめていた拳を緩めた。


 来る途中にバス停の古びたベンチを見かけていた。近くに自販機があったので飲み物を買って並んで座った。ずっと動いていたので、冷たい水でもちょうど良かった。水分を摂り、息を整えることができた。


「心春ちゃんちって、ここから近い?」

「うん。7,8分ってとこかな」

「じゃあ、もう帰りなよ」

「でも、結愛が」

「とっくに10時過ぎてる。女の子が出歩いていい時間じゃない。俺はもう少し探してみるよ。ずっと探してくれて、ありがとうな」

「祥真君……なんでそんなに……」


 心春は絶句して俯いた。街灯は離れているせいもあって、顔が見えないくらい暗い。結愛はいい友達を持ったと思う。今回ばかりは結愛にきつく言わないといけないな。


 心春を途中まで送った後、俺はバイト先まで戻った。乗ってきた自転車を置いたままだった。その際、母親には「バイト先の先輩と飯食ってくるから遅くなる」と連絡を入れておいた。


 駅前をゆっくりと流しながら結愛の姿を探した。すでに11時になっていた。さすがに高校生らしき女の子は見かけない。

 北上しながら結愛の家を目指した。実は帰宅して寝ていたってオチなら泣けるぞ。


 チャイムを鳴らし、夜分遅くに申し訳ありませんと謝りつつ親に聞いてみた。結愛は帰宅していなかった。連絡も来ていない。お母さんも電話したが繋がらないと心配していた。


 ここにきて、スマホのバッテリー切れの可能性が出てきた。

 とにかく、心春から聞いた通りに店を出た後、中学時代の元カレに連れていかれた。今も一緒にいるのかもしれないと伝えたが、親は知らない名前のようだった。


 もし結愛が帰宅したら、何時でもいいから連絡欲しいと言付けして俺は帰途についた。

 今まで危ない場面は何度もあったが、何とか防いできた。今回もなんとかなると思っていたが、結局見つからないままだ。


 いったい、どこに連れていかれてしまったんだよ……。夜空を見上げながら呟く。知らない相手ではなく、元カレという存在が俺の心に黒い影を落とした。

 名前しか知らない男が結愛に覆い被さっているイメージが脳裏に浮かぶ。

 頭を振り、頬を叩いて嫌な想像を追い出そうとした。それでも、心の奥に生じた黒い澱みは消えてなくならない。


 結局その晩は嫌な想像ばかり浮かんできて、なかなか寝付けなかった。空が白むまで悶々としていたが、気が付いたら眠っていたようだ。





 はっとして跳ね起きた。スマホを見たら9時過ぎていた。ついでに通知を見たが、結愛からの連絡は無かった。


 今日はバイトが無い。昨日は会えなかったので、本当は結愛と会いたいと思っていた。

 俺は気分をリフレッシュするために風呂に入って出かける支度を始めた。





「俺らが若い頃はケータイなんて無かったからよ。連絡をつけるのにも苦労したものよ」

「じいちゃんが若い頃は友達や彼女と連絡する時はどうしていたの?」

「そりゃ、家の電話にかけるのさ。想いを寄せている子にかけた時はな、まず親という関門を乗り越えなきゃいけないんだ。家じゃ家族に聞かれちまうからな。小銭かテレフォンカードを握りしめて、電話ボックスに走ったものよ。今は子供でもスマホを持っているんだろ? 便利になったもんだな」


 中学生になって初めてスマホを買ってもらった時、祖父とそんな会話をしたことを思い出す。御年75歳になる祖父から語られる昭和の話はあまりにも違いがあり過ぎて、一周回って興味深かった。


 祖母に惚れた祖父は何度家に電話しても父親にブロックされてしまった。

 そこで帰り道で待ち伏せて、手紙を渡して想いを伝えたとか。その手紙を祖母は今でも大事に持っていると惚気ていた。なんかいい時代だなと思った。


 確かにスマホ一つあれば何でもできる。普通は連絡が取れないことは無い。でも、それは必ず相手に伝わるという前提で成り立つ。

 電波が通じない。バッテリー切れ。寝ていたとか、何らかの事情で出られない状況だってある。昨夜から今日までの結愛がそうだった。


 そんなわけで俺は自転車に乗って結愛の家を目指した。到着したらマンション敷地内にある広場に入った。今もって連絡が無いということは、結愛は帰宅していないと踏んだ。だから、帰ってくるまで何時間だろうが待つつもりだった。



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