10.ダイジョブだって!
妙な外国人に連れていかれた大坪大雅がどんな目に遭ったかはご想像にお任せします。
個人的に大雅みたいな男は、力では敵わないオホモダチなアニキと「アーーーーーーーっ!」な展開。つまり因果応報。そういうのが好きです。
後は大人が動いて大坪に相応の罰を与えることでしょう。
Side:大坪大雅
両親は放任主義で、せびれば金もくれる。地元じゃ喧嘩だろうが女だろうが、無敵の俺だった。しかし、どうしても逆らえない存在がいた。
父方の本家は地元の名士ってやつ。祖父と跡を継いだ伯父だけは怒らせちゃいけない大人だった。
ガキの頃は年に数回家族で本家に挨拶しに行っていた。広い屋敷を探検と称してよく遊んでいたもんだ。
入っちゃいけないと言われている部屋こそ入りたくなるもの。ガキの頃から俺は怖いもの知らずで調子に乗っていたからな。
多少の悪戯くらいは許してもらえたが、ある日物置みたいな埃くせえ部屋に勝手に入って探検していた時だ。
なんかの箱に乗ったら、蓋がボロだったみたいで、割れて足が入ってしまった。中に入っていた物がぐしゃってなった。踏み潰しちまったようだ。
後で知ったんだが、長持という名の木箱に入っていたのは、ご先祖様の嫁入り道具だったとか。歴史的価値がどうのこうの言われたが、ガキの俺にはほとんど理解できなかった。
とにかく、大事な物を土足で踏んで壊したのは確かで、祖父の逆鱗に触れてしまった。
すげえ形相をした祖父と伯父に縄で縛られて、蔵の中に閉じ込められた。夜になると幽霊が出ると脅された昔ながらの蔵だ。真っ暗闇の中、がたがた震えて眠れなかった。あの時の恐怖はいまだに残っている。
中三の春に高校生と喧嘩して負かした後、相手の親がまずい輩で面倒なことになったが、祖父と伯父に助けてもらった恩もある。毎日顔を合わせるわけでもない。とりあえず表面だけでも言うことを聞いていればいい。そんな関係だった。
「どうせお前のような不良は暇していると悪さして人様に迷惑をかけるだろうからな。一生懸命働け!」なんて言いやがって。夏休みはテキヤで働かされて参った。
だが、そのおかげで浴衣の女の子をナンパしたり、同じ中学の優等生を引っ掛けることができたから良かったが。
中学も終わりに近づいた頃、素行不良が祟って入れる高校が無いと聞いた祖父と伯父により、多摩にある全寮制の高校に入れられた。本当はそんなところに行きたくなかった。別に高校なんかいいじゃん。金はあるんだから自由にさせろよと思った。
しかし、「高校くらい出とけ」と有無を言わせなかった。ごつい大人たちに強制的に連れて行かれてしまった。
ここだけ昭和にタイムスリップしたのかと思うような、古びた木造校舎と竹刀片手のマッチョな教師たち。突然バリカンで坊主頭にされるし、生徒も男ばかりのうんざりするような高校生活。羽を伸ばせるのは長期休みの時くらいだった。
春休みに地元に帰った俺は中学時代の仲間を集めてダベっていた。夜になったら繁華街に繰り出して、女でも引っ掛けるか。そんな話をしていた。
いきなり一人がスマホの画面を見せてきた。SNSの投稿だった。スマホは持っているが、学校も寮も使用禁止なんだぜ。俺はSNSなんかやってねぇ。
ただ、見せてきた写真に目が釘付けになった。
中学から高坂高に行った女を中心に女子会をやっているそうだ。場所は駅前のファミレス。しっかり顔も映っていて、その中に徳山結愛がいることに気付いた。
中三の夏休みの間だけだったが、遊びのつもりで付き合った。処女だったせいもあって、反応は良くなかったが、顔と体は良かったな。高校生になって、ますますきれいになってやがる。
「決めた! 結愛とやるぞ!」
仲間たちも普段は縁のない進学校の女と遊びたいと言いだしてついてきた。
俺は首尾よく結愛を見つけることができた。引っ張っていく途中で多少抵抗されたし、「彼氏がいる」なんて言ってたな。だが、真剣な顔して口説いてやったらホテルまで付いてきた。本気で嫌がっているようには見えなかった。真面目なふりして実はビッチだったんじゃねえか?
だがホテルに入った途端、結愛は強く抵抗してきた。馬鹿だな。ここまで来て帰すわけねーじゃん。
それに、少しくらい抵抗された方が燃えるんだよな。部屋まで引きずっていき、ベッドに放り投げて乱暴にしてやった。やっている途中に写真撮りながら脅したらおとなしくなった。
結愛は中学の時よりあか抜けていただけでなく、胸は大きくなり、体の方も開発されていた。彼氏とやらが羨ましいぜ。まぁ、俺が寝取ってやったがな!
俺も溜まっていたからな。夜だけじゃなくて、次の日もヤリ続けてしまったぜ。途中で反応しなくなったし、腹減ったので昼に解放することにした。
結愛のスマホはバッテリー切れになっていたらしく、連絡先交換はできなかった。だが、次に地元に帰った時に誰かから聞けばいい。人に見せられない写真をいっぱい撮ったからな。断るようならばらまくと脅しておいた。とりあえずセフレを一人ゲットだぜ。
「あーあ。明日からまたクソしかいねぇクソ学校に行かなきゃなんねーのかよクソが!」
春休み最後の日、俺は家から駅に向かっていた。しばらくは退屈で忍耐の日々が続く。祖父から卒業だけはしろと命令されている。成績が悪いくらいじゃ辞めさせてくれない。あと一年の我慢。とりあえずゴールデンウイークになったら、また地元に帰って結愛とやりまくるぜ。
そんなことを考えながら歩いていた時だ。前方から、のっしのっしと向かってくる大柄な男が見えた。浅黒い肌の外国人のようだ。四月初めだというのに、黒いタンクトップに迷彩柄のズボン。それにでかい。2mは超えてるだろ。胸板はぶ厚いし、腕は丸太みたいだ。プロレスラーかよ。あれは目を合わせちゃいけないやつだ。
自然と道端に寄った俺だが、いきなり頭上から声がした。
「Hey! Are you Taiga?」
「は?」
サングラスかけた外国人———彫りが深い顔で、胸と腕の毛がジャングルみたいだ———が目の前にいて、俺に話しかけているのだとわかった。英語かよ。ここは日本だぞ。
タイガ? タイガ?と繰り返すので、仕方なく頷いた。
「OK,OK, I'm happy to meet you.HAHAHA!」
体がでかいと声もでかい。何が楽しいのやら。俺の肩をバンバン叩く。痛いって。おまけに体臭もきっつい。サングラスをずらした男は妙にねっとりとした目つきで俺を顔から股間まで、舐めるように見てきた。今まで感じたことのない気持ち悪さ。怖気が振るうってやつだ。
「Come on, let's go!」
肩をがっつりと抱かれて歩き出した。どこに行くっていうんだ? アンタは何者だよ? だが、言葉は通じないし、力じゃ敵わない。俺は強制的に連れて行かれるだけだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『結愛が写真撮られた件、解決したよ~』
新年度が始まる前日の夜、彩乃から流れ星やらニコニコ顔の絵文字たくさんのメッセージが届いた。
結愛と別れたとはいえ、その件は俺も気がかりだった。どうすればいいのか。何かできることはないのか。岸本に相談してみたが、さすがに学校外の問題だ。伝手を辿るにも時間がかかりそうな気配だった。
『どうやって?』
『カレピのオトモダチに頼んだの。ウチの親友が酷い目にあったからって』
彩乃の年上彼氏は学生じゃなくて働いている。20代前半ながらクラブ―――学校のクラブ活動の方じゃなくて、大人の店の方だ―――の経営に携わっていて、顔が広いとか。会ったことは無いがツーショット写真を見せてもらったことがある。黒いスーツが似合う、いかにも切れ者といった印象だった。
彩乃の彼氏はすぐに人を使って動いた。大坪の地元仲間から情報を引き出し、高坂から多摩に向かう直前の本人を捕まえることができたという。
『設定を知らなかったのか、クラウドには保存されてなかったみたい。オトモダチが大坪と仲良くなって説得したら、喜んで削除してくれたから、もうダイジョブだって!』
『そ、そうか。お友達すごいな。良かった。ありがとう』
『どういたしまして。あと、心春がおじいちゃん通じて、向こうの本家?にチクったから、大坪はこってり絞られるって~』
どうやら、大坪は本家の祖父と伯父だけは逆らえないらしい。俺は何もできなかったが、有能な女友達が伝手を使って問題が解決できたようだ。俺は胸をなでおろした。




