↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
70/96

70 久しぶりの教室

 リュウとアルムの2人はGクラスの面々、というよりも3人のクラスメイト、リュッケン、ベイン、そしてミナに土産を次から次へと渡していた。


「ありがとう、二人とも。帝都はどうだったの?」


 美味しそうな焼き菓子に満面の笑みを浮かべたミナは、早速一つ口に放り込んでから隣の席のアルムに顔を向けた。


「面白いとこだった。でも」

「でも?」

「弱かった」

「だな」

「ま、まさかリュウ!? アルムも、まさか帝国で何かやらかした!?」


 思わず立ち上がったベインは、驚きを隠せない表情である。

 アルムもリュウも、今回の帝都行きはアルトリリア王女とシュターガー・ランドルト大公の『エントラッセン帝国、ランドルト王国相互不可侵条約締結調印式典』首席に伴う護衛任務であったはずである。

 万が一にも帝国側で揉め事を起こしてしまったら、条約調印そのものに影響しかねない。


「ベインがナニ考えてるか察したけど、ただの親善試合だからな? ちゃんと校長も立ち会ってたしさ。それに——」

「殺してない」

「だよな」

「だよな、じゃねぇだろ……でもさ? 結構長いことかかったよな。そのナントカ条約って大丈夫だったのか?」

「さぁ? 知らね」

「興味ない」


 実にあっさりとして、なおかつ本当に心から興味がなさそうな2人は、自分用に買っておいた焼き菓子の包みを開けている。

 

「……二人ともさぁ? お仕事で行ったんだよね? メインっていうか、一番大事な用事って大丈夫だったの?」

「んー、一応ほら、無事帰れたし? 追手も無かったし、投獄とかもされなかったしさ。まぁ大丈夫だったんじゃね?」


 実のところ、相互不可侵条約は無事に調印、締結され、即日発効している。

 現在のところランドルト王国とエントラッセン帝国の間には軍事的緊張は無いと(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 期間は5年間。両国間の揉め事には武力を用いないということが確約された事になる。

 帝国から戻る途中で、ステルベン辺境伯の館に立ち寄り、エントラッセン帝国からの信書を辺境伯に手渡している。


「親善試合でまぁサクッと2人くらいボコってきただけで、骨も折らなかったし。じゃれ合いだろあんなの」

「ん。退屈だった」


 アルムはすぐ隣のリュウの席に自分の机をくっつけて、当然のように肩を寄せ合って座っている。


「アルム? ねぇ、あのさ? 任務中ってリュウと2人で泊りがけだったんでしょ? その……どうだった?」

「良かった。事実上の新婚旅行。これはもう夫婦」

「う、うわぁ……ね、後で寮に帰ったら色々教えて?」

「もちろん。ミナは親友。親友に隠し事はしない」


 女子ふたりが密かに盛り上がるなか、男子にも驚きのニュースが持ち上がった。


「そうそう、あのねアルム! こっちも凄いの! ベインが婚約したんだよ、ベル先輩と!」


 リュウとアルムが凄まじい勢いで首を動かし、その視線をクラス筆頭のベインへと向ける。


「意外。ベインがロリコンだった……」

「マジかよベイン、おまえセシリア先輩に斬られるなよ?」

「あぁ、えっと、まぁあの、ふたりともなんていうか予想通りのリアクションでちょっと安心したよ……あと、セシリア先輩の方は、ご実家の事情もあって心配は無いみたいだよ」


 どんな事情だよ、とリュッケンも会話に混ざろうとしたタイミングで、凄まじい音を立てて教室の引き戸が開く。


「おはようド底辺諸君! あぁ、愛しい旦那様は別だよ? さぁさぁ今日も楽しい軍学の時間だ! 起立したまえ!」

「あぁ、なんかベル先輩も相変わらずでなんか安心した」

「合法ロリ人妻……卑猥」

「うん、リュウ、アルム。仮にも講師に対しての物言いとは思えないけどそれはとりあえず良いとしよう。その様子じゃあもう聞いてるだろうけど、一応言っておこう。ボクはベイン君と婚約した。国王陛下からの許可も出る見込みだそうだ。ベイン君がヘルセネン家の婿になるからそのつもりでいたまえ」

「へぇ、ベインが婿入りすんだな」

「うん。まぁね。僕の実家は弟もいるしね。それにヘルセネン子爵閣下と父上の話もついてるから。実際に婿入りするのは再来年、僕が士官学校を卒業してから、子爵家に婿養子に入るっていう形になるんだ。だから卒業まではGクラスだよ」


 士官学校をGクラスで卒業する、ということは、事実上軍の階級に『ガラスの天上』が設けられる事を意味する。

 子爵であれば下級貴族に入るが、EクラスかDクラスへの転属も可能だ。が、現在のベインはジーケンハウス準男爵家の所属となる。

 そのため、ベインがどれだけ優秀であろうとGクラス所属となることは変わらない。


「なるほどなぁ、やっぱ貴族って面倒臭ぇ」

「そうだ。貴族社会というのは実に面倒くさい。ただそうだな、どうせリュウもアルムも色々聞いてるだろうし、Gクラスの諸君には今さら隠し立てしたところで意味がないだろう」


 ぱちん、とベルナデッタが小さな手で指を鳴らすと、Gクラスの教室内に防音の結界が張り巡らされた。

 盗み聞きを防止するためのもので、仮にこの教室内に盗聴の魔道具が仕掛けられていたとしても何も記録されず、外部には何も聞こえないという実に便利な魔法である。


「単刀直入に言うぞ諸君。君たちはもう巻き込まれた身で、今さら『一抜けた』なんてことは許されないと思い給え」

「あーなんだろ、俺またすっげぇヤな予感する」

「わ、私も……あの、ベルナデッタ先輩、私たち何に巻き込まれるんですか?」

「簡単だ。リリア様のデアハルス王国復興のための、我らが栄光ある麗しきランドルト王国への反逆だよ。どうかね? ビビったかね?」

「まさか」


 実に嬉しそうな、獰猛なプレデターのような表情になったのはアルムとリュウ、それにリュッケンのオフェンス担当3人。

 全く驚かず、むしろ『さもありなん』としきりに頷いていたのはベインで、すこしばかり不安そうな表情をになったのはミナひとりだけだった。


「ミナ君、どうやら不安みたいだね?」

「そ、それはその、不安っていうか……だって反逆っていうか、国家反逆罪ですよね?」

「まぁそうだな。我らが偉大なる父にして王国の太陽、国王ベネディクト4世陛下に対し奉り、公然とその顔面をブン殴るような真似をするわけだからね。まぁ実際殴るとしたらリリア様、でボク達はどちらかというとガヤだ」

「ガヤて……ベル先輩、相変わらずだよなぁ。ホント安定っていうか変わってなくてすっげぇ安心する」


 実に剣呑な話題で盛り上がる2年Gクラスの教室から少し離れた場所、2年Sクラスは筆頭となるキルルージャ公爵家の令息ロレンツォが教壇で気を吐いていた。


「みんな理解してると思うが、今年も去年と同じように合同演習がある。今度こそ、Gクラスに賞を総なめにされるなんていう醜態は許されないぞ」


 Sクラスは、元々が最上位の貴族の家柄の令嬢令息で構成されるクラスで、所属する15人は紛れもなく実力にも才能にも、そして実家の資金力にも影響力にも恵まれた立場である。

 そんな彼らが、士官学校最大のイベントである合同演習で、最底辺と呼ばれるGクラスに完膚なきまでに叩きのめされたのは、わずか数ヶ月前のことだった。

 Gクラス筆頭にして軍学首席のベイン・ジーケンハウスの策略に踊らされ、魔神のように恐れられるリュウ・ノーチを囮に陽動を行い、神出鬼没のエルフの娘であるアルム・ファーマシーによってまんまと拠点陥落の証となる旗を奪われた。

 おまけに、下位クラスも無尽蔵のスタミナと健脚を誇る獣人族、リュッケン・クロアによる『流言飛語』『駆虎呑狼』の計にも似た策略で起こされた騒動の最中、下位クラスの旗まで奪われている。


 この合同演習のあと、Sクラスに所属する者たちは例外なく、実家の家長らから厳しい叱責を受けている。

 何としてでも、今年こそは雪辱を果たさなければならない。二の轍を踏むような醜態だけは、どんな手段を使ってでも避けなければならなかった。


「公爵家周辺の情報だと、2年生の合同演習では上位と下位に分かれての模擬戦ではなく、SからGクラスまでが他クラスから独立した形で、さまざまな競技で競い合う、集団戦を行うらしい。つまり、今回はより個人の能力が戦局を大きく左右する、ということだ。そこでだ、リカルド。策の説明を」


 ロレンツォの指名を受け立ち上がったリカルド・ステルベンは、ステルベン辺境伯の嫡男だ。

 幼少期から軍人である父の厳しい指導を受け、その実力はSクラスの中でもアタマ一つ抜きん出ている。実力面ではリカルドがSクラス筆頭と呼ぶにふさわしいが、ステルベン家はキルルージャ家よりも爵位が1階級下の辺境伯家だ。

 事実上貴族の階級では最上位であるキルルージャ公爵家の派閥を構成する家の一つであるため、リカルドはどれほど抜きん出た実力を持っていても、Sクラス筆頭となることは不可能である。


「今年の合同演習は、特にGクラスにとって状況が厳しくなることは間違いない。去年の合同演習の結果を重く見た教師陣が、何が何でもSクラスを優勝させるために策を練っているという情報もある。が……」


 かつん、と硬い靴音を立て、リカルドは立ち止まる。

 級友たちの引き締まった表情を見回して、まるで苦虫を噛み潰すマーゲン教諭のような顔を見せる。


「それだけ、僕たちSクラスの実力を疑問視されている、ということでもある。要は『あからさまな贔屓をしなければ勝てないほど、今年のSクラスは実力が劣っている』とみなされている、とも言える」

「リカルドの言うとおりだ。みんな、このままで良いのか? Gクラスにも劣る、実家の家柄しか誇れるものがない無能だと、そう思われているのと同じだ! このままで、本当に良いと思うか?」


 非常に作りの良い、高品質な家具類が並ぶSクラスの教室内に『良くない』『舐められたままで終われるわけがない』『Gクラスの奴らに目にもの見せてくれる』と声が上がり始め、ひとりふたりと立ち上がり始める。


「合同演習まであと半年だ。僕は基礎力から鍛え直す。軍学も、コッヘル主義軍学ではなく実戦派を学直す。徹底的にだ、徹底的に鍛え直す。僕と志を同じくするものは応えてくれ!」


 ロレンツォは、実力ではリカルドに劣っているものの、演説スキルと人を惹きつける能力は教師陣も一目置く物がある。

 この日の教壇での演説も大成功、Sクラスはこの日の午後の授業から、教師陣に対して特訓を願い出ることになった。


 ——が、その特訓も程なくして中断を余儀なくされる事となる。


 ランドルト王国の西方で国境を接する、神聖サミッツ皇国の主力、精霊の剣騎士団が国境を超え、西の護りの要、ロガン辺境伯家の領土へと入り込んできたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。